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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、ヴァルドの行動を疑う

「待て。待て待て。そうなると最終的に、ユウトに全ての瘴気が集まってくることになるのだが?」


 現在そのヒエラルキーの頂点にいるのはユウトだ。

 弟は誰の下にも属していない。となると、知らない間にユウトの中には瘴気が蓄積されているのだろうか。


「……そういえばヴァルドの奴、初めの頃ユウトを『救済者セイバー』と呼んでいたな。もしかしてあいつ、自分の瘴気を引き受けてくれる相手としてユウトを選んだのか……?」


 吸血鬼という高位魔族の半魔でありながら、当時まだ大して実績もない冒険者だった弟の下に付きたがるのが不思議だったが、そう考えれば得心が行く。

 ヴァルドはユウトのことに関しては妙に訳知りのようだったし、最初からそのつもりだったのだ。


 初めて会った頃は病的に顔色も悪くおどおどとしていたけれど、今のヴァルドは平時でも肌艶が良くなってきている。あれはずっと溜め込んで行き場がなかった瘴気を、ユウトに引き受けてもらえるようになったからなのかもしれない。


「しかしそうなると、ユウトはヴァルドを下に置くほどの魔性を持っているということになるが……」

「うん。おそらくユウトくんにはかなり強い魔性があると思う」

「えっ、僕に魔性が?」


 隣で聞いていたユウトが目を丸くする。しかしさらにその隣にいるエルドワは、当然分かっていたのだろう、平然とブドウジュースを飲んでいた。その斜向かいにいるキイとクウも特別な反応はしない。

 魔性とは、おそらく半魔や魔物・魔族にはすぐに感じ取れるものなのだろう。


 ユウトだけは今ひとつ鈍いが、もしかするとそれは自身の魔性が強すぎるゆえなのかもしれない。


「あー確かに、これまでの半魔の反応見てると、ユウトくんが魔性が強いの分かるよねえ。それも引っかけるの、高位の半魔ばっかりだし」

「引っかけてる気は、ないんですけど……」


 横から軽口を叩くネイに、ユウトがはてと首を傾げる。自分の魔性なんて考えたこともない弟は、もちろん自覚などない。


「高位で忠誠心の強い半魔ばかり集まってくる……ってことは、ユウトは格も高いのか?」

「そうだと思うよ。まあ考えてみれば、ユウトくんは魔界のトップである魔王の魔性を引き継いでるわけだからね、当然だ。それに伴って集まる瘴気も多くなるけど、魔性が強く格が高いと溜め込める瘴気量も飛躍的に上がるから、ユウトくんがたくさんの半魔を従えてもいきなり魔物寄りに傾くことはないと思う」

「……それでも、ゆくゆくは満杯になるだろう。その時はどうなるんだ? もしかしてユウトも誰かの下に付かないとまずいのか?」


 ユウトが誰かの所属になるというのは甚だ不愉快ではあるが、そうしなくてはいけないなら、自分の眼鏡に適う相手をしっかり吟味する必要がある。

 多少の覚悟を持って訊ねると、それに答えたのはエルドワだった。


「レオ、心配いらない。ヴァルドがユウトを『救済者』と呼ぶのは、ユウトが傘下の半魔から引き受けた瘴気を自己浄化できるからだ。ユウトに瘴気は溜まらない」

「瘴気を自己浄化……?」

「聖属性を持つ半魔は瘴気を体内で分解し、魔力に変えることができる。レオたちの持つ瘴気無効のアイテムと同じような働きを、体内で出来ると思えば良い」

「へえ、それはすごいね! じゃあユウトくんは、元々半魔のヒエラルキーの頂点に立つにふさわしい存在だったんだ。最初からそれを見抜いていたなんて、ヴァルドさんもさすがだな」

「えええ……頂点とか、そんなの荷が重いんですけど……」


 説明を聞いてクリスは感心しきりだが、当のユウトは気後れしたようだった。

 まあ弟は、あまり人の上に立つというタイプではない。勝手に頂点などにまつりあげられても、困惑するばかりだろう。

 しかしそんなユウトに対し、エルドワが宥めるようにその肩を擦った。


「ヒエラルキーとは言うけど、半魔は上が下を支配するような関係じゃないから平気。もちろん立場的には出来ないことはないけど、ヴァルドだってラダに全く口出ししないし、ガイナと村人も支配というより協力関係だ」

「……そうなの? じゃあこのヒエラルキーって、ただ瘴気を解消するだけのつながりみたいなもの?」

「待て、それじゃユウトがただのゴミ処理係みたいじゃないか。いらんものを勝手に押しつけられても迷惑千万なんだが」

「まあまあ、レオくん落ち着いて。当然だけど、この階層構造は上にも下にも利点があるからこうなっているらしいんだ」


 不機嫌になりかけたレオに、クリスが『これもオルタくんからの受け売りだけど』と言葉を続ける。


「誰かの魔性の庇護下に入ると、その者は瘴気を回収してもらう代わりに能力のほんの一部を差し出すんだって。それによって、魔性を持つ者は強化されていく。その者がさらに上の魔性を持つ者に付くと、その強化された力の一部が上の者に行って、さらに強化される。……つまり、上の階層に行けば行くほど能力が強化されていくってことだね」

「……なるほど。そういう利点があるのか」


 そう考えると、下に配下が付けば付くほどいいわけだ。その分瘴気は集めてしまうけれど、さらに魔性の強い誰かの下に付けば力の一部を差し出すことで解消できるし、ユウトに至っては自己浄化できる。

 なかなかにありがたい仕組みだ。


「だったらユウトはすでにヴァルドやエルドワの能力の一部を手に入れているってことだな」

「そういうことになるよね。実は気付かないだけで、ユウトくんの腕力ものすごいことになってたりして」

「どれ、ユウト腕を出してみろ」

「え? 全然変わってないけどな……。はい」


 腕まくりをして眼前に差し出されたユウトの腕は、相変わらず白くて細い。レオが指で輪っかを作って手首に回しても、ゆるゆるな太さだ。


「うわ、ユウトくんほっそいなあ~。護ってあげたくなっちゃう」

「僕、力こぶとかも出来ないんです。この間会ったら、ルアンくんが僕より筋肉付いててショックでした……。今のネイさんと同じこと言われたし」

「……狐、貴様ユウトを愚弄したな」

「いや、してないし! 今絶対クリスさんも同じこと考えたし! 何ならレオさんだって思ってたでしょ!? 細くて護りたいって!」


 ネイの指摘に、クリスが苦笑で返し、レオは無表情を貫く。ともに無言だ。反論はない。つまりは図星だったということ。

 それを察したユウトがむうと頬を膨らませた。


「もう、見た目は関係ないかもしれないじゃないですか! ヴァルドさんやエルドワの力が加わってるなら、こう見えて怪力になってるかもしれないし! ほらレオ兄さん、腕相撲しよう!」


 そう言って手を差し出されて、ムキになる弟の可愛い怒り顔についほっこりしつつ手を握る。

 ……あ、これだけでもう分かる。


「ん~~~~~~!」


 ユウトは本気で力を入れているようだが、全く話にならない。もはや小指一本でも勝てそうなほどの非力、しかしそれを言ったらさすがに一晩くらい話をしてくれなくなりそうなので黙っておく。

 少しは効いてるふりをしてやりたい思いもあるけれど、それで慢心を持たれても困るから、レオはある程度のところでパタンと弟の腕を倒し切った。


「あう……。まるで壁を手で押してるみたいだった……」

「まあユウトを護るためも、俺は強くないといかんからな」

「レオ兄さんがいくら強いにしたって、僕が非力過ぎるぅ……。ヴァルドさんとエルドワの力、どこ行っちゃってるの? 瘴気と一緒に浄化しちゃった?」

「ううん、エルドワたちの能力、ちゃんと行ってる。ユウトの場合、受け取ってる能力が腕力じゃないだけ」


 どうやら受け取る能力というのは特化するらしい。


「ヴァルドも下の者から能力を受け取っているけど、腕力とか魔力とかじゃないし」

「そうなの? まあヴァルドさんは元々が強いもんね」

「なら、あいつは何の能力を受け取ってるんだ?」

「日の光の耐性。ヴァルドは半吸血鬼で本来日の光が苦手だから、弱点克服の能力を集めてる。おかげでヴァルドの下層は陽の気を持つ魔獣系が多い」

「あ、確かにヴァルドさんって半分吸血鬼なのに、昼間出歩いたりしてるね。そっか、そういうことだったんだ」


 なるほど、そういう使い方もあるのか。

 ではユウトには、どんな能力がついているのだろう。

 そう考えて、レオはすぐに弟の異様に突出していた能力を思い出した。


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