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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、弟に情報を告げる決意をする

 ラダの村で、レオたちはアシュレイの家に入り一息ついた。

 家主本人はウィルの護衛として王都に残っているが、部屋を借りる旨は伝えてある。彼の身体に合わせて大きく作られた間取り、仲間全員で泊まるにも十分なスペースがあるのがありがたい。


 ユウトがグラドニのところに行っている間にクリスからジードとのことに関する報告を受け、夕暮れになった頃にはネイも合流した。


「ウィルの護衛はちゃんとアシュレイとルアンに任せて来ました」

「そうか。ルアンもダグラスたちと高ランクゲートにずっと潜っていたから相当実力を上げただろうし、助かる」

「ダグラスくんたちもこの間王都で見かけたら、すごくいい体付きと覇気になっていたよ。やはり教官が良いんだろうね。……まあその中でも、断然ルアンくんが飛び抜けてるけど」

「まあ、師匠がいいからね!」


 ネイが自慢げに胸を張る。一応仕事の合間に王都に行くたびに、会えれば弟子に稽古を付けていたようだ。

 元来頭の回転が速く、気が利く上に飲み込みも早いルアンは、もはや隠密としてはランクS相当と言って良いだろう。

 師匠であるネイに似て感情は豊かに見せるが、その奥底では常に状況を見る冷静な部分がある。彼女にユウトのことも安心して任せられるのは、その冷静さによるところが大きかった。


「ルアンはしばらく王都の拠点に泊まり込んで面倒を見てくれるそうです。ただ、ランクSSSゲートって攻略すんのにどのくらい掛かるんでしょうね? いくら男所帯に慣れてるとはいえ、あんまり長いこと女の子を置いておくのも問題な気が……」

「……それはなんとも言えんな。そもそもランクSSSゲートなんて攻略した者は皆無だ。他のゲートと生成の条件も違うし、深度も分からん。……もちろん、建国祭前には攻略を終わらせんと意味がないから、長期間潜っている気はないが」

「とりあえず様子を見ながら潜っていくしかないよね。ネイさん、ゲート脱出アイテムは準備を?」

「一応してあるけど、ゲート自体脱出可能かどうかも分かんないからなあ~……」


 ランクSSSゲートは完全に手探りだ。

 だが何にせよ、準備しておいて悪いことはない。いろいろな可能性を考えながらの支度が必要だった。


「どんな敵が出るかも分からんから、特攻の付いた武器防具は全部持って行くぞ。ポーチの中は必要なものだけにして、余計なものはここに置いていけ」

「水に関しては魔法の蛇口があるからどうにかなるけど、食べ物が足りるか心配なんですよね。劣化防止ボックスに肉と野菜はパンパンに入れてきましたが」

「後はゲートの中でどのくらい調達できるかだね。魔物がいろいろドロップしてくれるとありがたいな」


 ああだこうだと三人で話しながら準備をしていると、いつの間にかあたりは暗くなってくる。それに気付いたクリスが魔石燃料のランプを灯した。


「……もうこんな時間か。ユウトくんはまだ古竜と話し込んでいるのかな?」

「ん……まだバラン鉱山の山頂にいるようだ」


 クリスの言葉にレオは通信機を取り出して弟の居場所を見る。するとユウトの居場所を示す印は未だにグラドニのところにあった。

 ずいぶん長く話し込んでいるようだ。その内容が気に掛かるけれど、どういう話をしたのか弟に聞く約束をしている分、兄の気分は安定している。


 そんなレオを見て、クリスがそういえば、と首を傾げた。


「ユウト君が戻ってきたら、どこまで話してあげるんだい?」

「……ユウトの過去の記憶に障らない程度に、あらかた全て話してやるつもりだ。兄貴やイムカたちの今後の動きも、一応」

「それはいいね。情報を遮断してしまうことでかえってユウトくんを危険にさらしてしまうかもしれないし、直接情報を共有することで、言葉以上に伝わることもある」


 この段になってようやく話の渦中に弟を含める決意をしたレオに、クリスが笑顔で頷く。

 間に挟まれていたからこそ分かる兄弟の乖離。彼はそれが解消されるのを、諸手を挙げて歓迎した。


「君は抱えるものをユウトくんに背負わせたくないと思っていただろうけれど……薄々気付いているよね? 今や逆にユウトくんの背負うものの方が遙かに大きい。私も当然手伝うけど、それをレオくんにも一緒に支えて欲しいんだ」

「……分かっている」


 漠然としていた懸念を明確に指摘されて、レオは静かに返す。

 危険から遠ざけていたはずのユウトは、兄の知らない間に大きな何かを背負ってしまった。完全に自分の失態だ。

 弟が離れてしまうことを恐れて、自分から距離を作って、その手を取り損ねたら意味がない。


 グラドニが別れ際に告げた一言はここまで深く意図したわけではないだろうけれど、今までのレオの直視してこなかった葛藤を引き摺り出してくれたのだ。ここは覚悟を決めるべきだろう。


 そうして多少緊張しながらユウトを待つレオに、ネイが細い目を見開いた。


「え、何、レオさん、これからユウトくんに全部ぶっちゃけるんですか?」

「……ぶっちゃけるというほどじゃない。魔研とかジラック関係とか、今ある事実と情報を共有するだけだ。……狐、貴様調子に乗ってユウトの過去に関することで口を滑らせたりするなよ。殺すぞ」

「まあ今のところ、ユウトくんの過去が直接現況に係わることはないから別に言いませんけど……俺のは共有した方がいいですかね?」

「は? 貴様の何をユウトと共有すると言うんだ?」

「ちょっと、忘れないでくださいよ。俺に大精霊の力が入っちゃってることですよ」


 言われて、そう言えばと思い出す。シンプルに忘れていた。

 正直興味がなかった。


「言ったところでその大精霊の力を使えるわけでなし、意味がないだろ。貴様に大精霊から何の恩恵が来るかも分かっておらんのだ」

「まあそうですけど。でも逆に言っておいても問題ないでしょ? 多分俺たちが考えるより、ユウトくんの方が大精霊と近しいから、恩恵に気付きやすいかも知れないし」

「……まあ、そうだな」


 この男に何かしら大精霊の恩恵があるのなら、早めに知っておいた方が今後の役に立つ。魔力の機微に関してはどう考えてもユウトの方が敏感だろうし、ならば伝えておくべきか。


 そんなことを話していると、不意にバサリバサリと家の外で大きな翼の羽ばたく音が聞こえた。当然三人はすぐにその音の正体に気付いて反応する。ユウトが帰還したのだ。

 ラダは半魔の村ゆえ、村内にそのまま入ってきても騒がれることがないのがありがたい。


 その音は、予想に違わずアシュレイの家の庭に降りてくる。

 レオはすぐに部屋を出て、弟を迎えに行った。


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