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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、世界が創造されていないことを知る

 ユウトの問いに、グラドニはひどく不愉快そうな顔をした。


「……わしが直接見たわけではないから、まだなんとも言えぬ。そもそも、あそこに陸地が創られているなんて今日初めて知ったのじゃ。座標も定めておらんのに、誰がどうやって入り込みおったのか……」


 まっさらな世界をそのまま残しておくために去ったのに、別の誰かに侵入されて、好き勝手に改変をされている。

 それを知った彼の怒りはいかばかりか。


 ユウトとしても、魔研があの世界を利用していることもあって、その犯人が誰なのか気になるところだった。


「……別の世界って、そんなに簡単に誰でも入り込めるものなんですか?」

「うむ……まあ、世界の理による他の世界との線引きをしておらぬから、抵抗が少なく、侵入自体は容易い。じゃが、世界が完全に創造されぬうちは、座標が認知されることはないはずなのじゃ」

「言うなれば住所がないのに誰かに所在を知られてしまった、ということでしょうか?」

「そうじゃ。わしのように一度その場所に行った者ならともかく、初めて行く者なら転移術式に正確な座標の指定が必要になる。偶然でたどり着くなどということは、ほぼありえぬのだ。……だというのに、一体誰が……」


 グラドニの言うように、偶然ということはないだろう。

 万が一偶々そこにたどり着いたとしても、その水底から創世の石を探し出して世界を創造しようと思いつく者など、いようはずもない。

 明らかに、目的を持ってやってきた者がいるのだ。


「グラドニさんは、それ以後一度もあの世界に行っていないんですか?」

「ああ、行っておらぬ。あの世界に余計な干渉はしたくなかったからの」

「じゃあいつ海底の創世の石が拾われて、あの陸地が創られたのかも分かりませんね。うーん……」

「……わしとしては、あの海の底から創世の石を見つけ出した者がおるとは、にわかには信じられぬのじゃがな」


 まっさらだった世界しか覚えのないグラドニは、その広大な海に投げ入れた手のひらに収まる大きさの石が、誰かに拾い上げられたというのが未だ解せない様子だ。

 確かに、考えるだに気が遠くなるような根気がいりそうだけれど。


 ユウトと古竜がそんな話をしていると、ずっと隣で毛を逆立てたまま固まっていたエルドワが不意に、再び口を挟んだ。


「……ユウト、あの陸地……魔法で創ったものかも」

「ん? なあにエルドワ? どういうこと?」

「あの世界の陸地、創世の石でちゃんと創造したんじゃなく、魔法で地殻を隆起させて創ったものだと思う」


 子犬はグラドニの方を見て話すと緊張してしまうせいか、ユウトを見ながら言葉を続ける。


「エルドワが完成されていない世界っていう印象を感じたのは、世界がまだ閉じていないからだ。あの世界には、まだ『世界の理』ができていない。たぶん、創世の石が見つかってないんだと思う」

「えっ……。だから魔法で地殻を隆起させて陸地を創ったって? でも、できたての世界にはマナも瘴気もないし精霊もいないから、魔法は発動できないはずじゃ……」

「……なるほど、だから人間界から竜穴を引き込んでマナを取り込み、魔界からも瘴気を引き込んでいたということか!」


 ユウトよりも先にエルドワの言わんとしていることを察したグラドニが、得心が行ったというように頷いた。

 それに対し、子犬もうんと首肯する。


「先にマナと瘴気を引き込んで世界に満たしてから、魔法を使って陸地を創ったんだと思う。あそこに世界固有のものがなくて、あるもの全てが人間界と魔界のつぎはぎみたいな状態なのも、きっと世界独自の生成ではないからだよ」

「うむ、創世の石が拾われたというよりも余程説得力がある話じゃの。それなりに魔力のある大地の魔法を持つ者がおれば、地殻の隆起程度なら十分可能じゃ」

「それから、これはエルドワの見立てだけど。陸地ができてからはおそらく2・30年しか経ってないと思う。森の木は瘴気のせいで歪に太かったけど、折れた木の年輪がどれも少なかった」


 どうやらエルドワが世界がまだできたてと言っていた根拠は、ここにあったようだ。

 しかしながら、想像よりもずっと最近の話で、ユウトは目を丸くした。


「2・30年前……!? ついこの間じゃない!」

「ふむ……その当時と言えば……。そうか、あの頃から……」

「……グラドニさん?」


 驚くユウトに対して、グラドニは心当たりでもあったかのように受け止めている。

 その様子に首を傾げると、彼は一人納得したように頷いた。


「うむ、とりあえずかの世界に『創造主』なる者が存在しないのは確かなようじゃ。勝手に侵入し手を加えられたのは腹立たしいが、そうならばまだ対処は可能じゃろう。……その不届き者の侵入者も、『アレ』につながる者なのは間違いない。まあ侵入された以上、今更どこから入ったか探ったところで意味もないことじゃし、それは置いておこう」


 グラドニの言う『アレ』とは、もちろん復讐霊のことだ。

 2・30年前の話なら、自ずと不届き者の候補も絞られる。

 けれど今はとりあえず、侵入者は復讐霊の命令を受けた誰かだろうとだけ結論づけて、彼は膝の上で指を組んだ。


「しかし、こうなると失敗じゃったのは創世の石を放ってきたことじゃ。侵入者がいるとなると、いつか彼奴らに見つかる可能性も捨てきれぬ。……当然、『創造主』に返り咲きたい『アレ』はその地位が喉から手が出るほど欲しいじゃろうしな」

「えっ? でも、その『アレ』って、この世界を滅ぼした上で、次の世界の生成で『創造主』になりたいんじゃ……?」


 この世界とあの世界、二つの世界で創造主を兼任なんて、できるのだろうか。

 ユウトが不思議に思っていると、グラドニは少し思案顔をした。

 何かを話そうか、話すまいか、迷っているようだ。


「……それに答えても良いが、うぬが庇護者からどこまで話を聞いているのか知らぬからな……。じゃがまあ、わしが顧慮することでもないか。今から話すことが初聞きだったら、後で彼奴にわびておけ」

「あ、はい」


 しかし特にレオに対して配慮をする気がないらしい彼は、すぐにそう断って口を開いた。

 普段この手の話は兄を気遣って内緒にされることが多いから、ありがたいことだ。ユウトは話に集中しようと耳を傾けた。


「実はこの世界は、滅ぼされた後に再生成されるとは限らんのじゃ」

「えっ」


 だが、いきなりの衝撃の内容に、思わず言葉を失う。

 そんなユウトを見ながら、古竜はふと何かを思い出したように、これまた衝撃の言葉を吐いた。


「ん? ……あ、待て。この話、うぬの庇護者にもしてなかったかもしれぬ。うっかり言い忘れたわい」

「えっ、え?」

「まあよい。後で彼奴に報告しておけ。次の世界の滅びに呼び出されるのは、おそらく『おぞましきもの”もどき”』じゃとな」


 伝え忘れるとは凡ミスじゃった、などと言いつつ頭をかくグラドニに、ユウトはあんぐりと口を開けた。

 なんか今、めちゃくちゃ重要そうなことを軽い連絡漏れみたいに告げられたんですけど。


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