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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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クリス、ガラシュの特殊能力について聞く

 部屋の真ん中にある大きな机には、椅子が3つと飲み物、茶菓子が置いてある。もちろんジードが用意してくれたものだ。

 その器や椅子の、全ての形が違っている。これだけで、彼が来客用の食器や家具など持ち合わせていないし、そういう考えにすら至っていないことが知れた。つまり、ジードには今までこんなふうに歓迎して招き入れるような相手がいなかったということだ。


 特にそれがどうというわけではないけれど。


(次に来た時には、手土産としてティーセットを持ってこよう)


 クリスはそんなことを考えつつ、先にユウトを座らせてから自分も椅子に座った。


「……それで、私の知識を借りたいことというのは何だ」

「ガラシュを倒すための方法です」


 ジードに問われて、クリスは端的に答える。

 その内容に彼が目を眇めたが、言葉を発するつもりはないようなのでそのまま話を続けた。


吸血鬼殺し(ダンピール)であるヴァルドさんの助けはもちろん借りるつもりなのですが、彼だけでガラシュを倒しきれるのかも分かりません。それぞれの実力差や能力を知るジードさんなら、何か助言をいただけるかと思いまして」


 用心深いこの男が、敵に回す相手を調べていないわけがない。

 ガラシュもヴァルドもその対象だったのだから、かなり有用なデータを持っているはずだった。


 それを待って今度はこちらが黙ると、ようやくジードが少し億劫そうに話し始めた。


「……ガラシュは次男だが、私たち兄弟の中で一番能力が高い。家に伝わる術式の型もすぐに覚えて使いこなし、その魔力は父にも匹敵するほどだった」

「ふむ。ヴァルドさんと比べると、どうですか?」

「半魔は感情によって魔法威力が不安定になるから正確に答えることはできんが、通常値で考えればガラシュの方が強いし、魔力量も多いな」

「え、あのヴァルドさんより、もっと強くて魔力量も多いなんて……。でも、ヴァルドさんには吸血鬼殺しが付いてるんだから有利ですよね?」


 ユウトが訊ねると、ジードは軽く頭を振った。


「対ガラシュに限っては、あまり有利とも言えん。彼奴の特殊能力の影響範囲が、ヴァルドの魔眼の範囲と完全に合致するからな」

「……特殊能力、ですか? それは、通常の吸血鬼の能力と別の?」

「別だ。我らの一族は、それぞれ固有の特殊能力を持つ。それは未来を予知する能力や透明化など、様々だ。ヴァルドの吸血鬼殺しもこれに当たる」


 言われてみれば確かに、今まで祠開放の時に当たった彼らの兄弟は、皆何らかの特殊な能力を持っていた。

 ガラシュにもまた、何か強力な固有能力があるのだろう。


「……それで、ジードさん。ガラシュの特殊能力とは?」

「時間停止だ」

「え、時間を止める能力……!?」

「そうだ。影響範囲は本人を中心として半径で大人二人分ほど。ヴァルドの使う魔眼とちょうど同じくらいの範囲になる」

「それって、一歩間違ったらヴァルドさんが魔眼を発動する前に、時間停止を受けちゃうってことですよね……」


 ユウトが心配げに眉を顰める。

 吸血鬼殺しがあればヴァルドの方が有利と思い込んでいた彼は、思わぬ難題に頭を抱えた。


「レオ兄さんやクリスさん、エルドワも近接攻撃だし、危なすぎる……。となると、遠距離の僕が頑張ってどうにか……」

「当然だが、吸血鬼一族は魔法耐性が高い。通常の魔法では到底倒しきれるものではないぞ、もゆる」

「あ、だから対ガラシュ用としてジードさんは、新たな術式を作り出す研究をしていたのですね」


 クリスが言うと、ジードは頷いた。


「彼奴は時間停止の固有能力以外にも、魔法反射や皮膚硬化など、様々な防御魔法も持っている。それらをすり抜け、かつ一撃で屠るくらいの術式が必要なのだ」

「その術式は、完成は?」

「……まだしていない。すでに試作段階ではあるが」

「すごい、それが出来たらだいぶこちらが有利になりますね。ジードさん尊敬します!」


 話を聞いたユウトが、キラキラとした瞳でジードを見つめている。

 その賛辞に、ジードは一瞬驚いたように肩を揺らしたが、すぐにどや顔で応答した。


「まあな、私の研究の価値が分かるとは、もゆるは可愛……じゃなかった、賢いな」

「ジードさん、その術式が完成したら、僕にもやり方教えてくれますか?」

「……まあ、構わん。正直私では、魔法の火力も魔力量もかなり見劣りするからな。どうせガラシュを殺すことに特化した術式だし、出し惜しむ理由がない」

「ありがとうございます!」

「うむ、苦しゅうない」


 真っ直ぐに礼を言って微笑むユウトに、ジードはご満悦のようである。

 その様子に、クリスもほのぼのと笑った。


 まさかこのジードが、何の見返りもなく術式を提供する約束をするとは。きっとヴァルド辺りに話したら、全く信じてくれないだろう。

 しかし今や、彼にとっての見返りは、ユウトからの感謝と信頼の笑顔なのだ。


(……いっそ共闘に誘ってみてもいいが……さすがに彼の戦力的に難しいか。せめてレオくんたちと認め合って、連携を取れるくらいでないと無理かな)


 ジードの魔力では、最前線で戦うレオたちに同行するのは無謀だ。

 だとすれば、彼は彼で自由にさせておく方が無難。


 きっとユウトがガラシュと戦うとなればこっそり様子を見に来るだろうし、ユウトが危機に陥れば密かに助け船を出してくれるだろう。

 それにジードは魔力はないが、密かに禁忌術式を使えるというのも、もしもの時に役立つかもしれなかった。


 そう考えると、その行動予測を立てるためにも、彼についてのデータがもう少し欲しいところだ。

 クリスはユウトのおかげで上機嫌なジードに、極力場の雰囲気を壊さないように誘導的な問いかけをした。


「さすがです、ジードさん。もしかしてその素晴らしい研究手腕が、貴方の特殊能力ですか?」


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