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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、ジードの拠点に向かう

 ユウトはもゆるへと変身し、クリスに抱えられてガント近くの滝に飛んできた。

 以前解放した、滝裏に精霊の祠がある場所だ。

 クリスはそこでジードと待ち合わせをしているという。


「滝壺の陰の辺り……ここかな? ユウトくん……じゃなかった、もゆるちゃん。何か見える?」

「悪魔の水晶があります。多分ここで間違いないんじゃないかな」


 ジードが指定した場所には、悪魔の水晶が配置されている。

 おそらくここに転移系の術式があるのだろう。

 ユウトたちはそこでジードが迎えに来るのを待つことにした。


「……しかし、出発間際のレオくんの渋りっぷりはすごかったね」

「レオ兄さんはちょっと過保護すぎなんですよ」


 ここに来る直前、ユウトと離れるのを嫌がったレオが、弟を抱き締めたまま放さなくなったことを思い出したクリスが苦笑する。

 ネイとクリスとエルドワに無理矢理引き剥がされたけれど、本気で嫌そうだった。


 そういえば、以前ここの祠を開放するためにレオをガントに置いてきた時も、あんな顔をしていたっけ。


「レオくんはもゆるちゃんがいないと生きていけないからね。心配で仕方がないんだろう」

「……まあ僕も、レオ兄さんがいないとどうやって生きていけばいいか分からないから、お互い様だけど」

「ふふ、仲が良くて良いことだね」


 クリスが揶揄うでもなく、微笑ましげににこにこと頷く。


「結局君たちは、お互いのために何が何でも生きて行けば良いってことだ。とても簡単な話で、すごく良いと思う」

「良い……ですか?」

「良いさ。判断基準が明朗で、何があっても間違うことがないだろう? いいかい、この価値観を見失ってはいけないよ」


 そう言った彼は一呼吸置いて、それからジードがまだ来ないことを確認すると、少しだけ声を潜めた。


「……ところでもゆるちゃん、記憶は多少戻ってきているのかな?」

「あ、はい。過去に起こった出来事とかは色々。でも、その時の感情とか、核心に触れるような記憶はまだ戻っていないんです」

「感情が戻ってこない? ……そう。だからまだ変化が見えないんだね。レオくんも気付いていないようだし」

「なんて言うか、戻ってきた記憶も他人事みたいで実感がないんです。だからレオ兄さんにも覚られてないんだと思います」

「……その実感がいつ、どんなタイミングで戻ってくるかが問題か……」


 笑みを消したクリスが、顎に手を当てて何事かを思案する。

 しかし、すぐにはたと顔を上げて、ユウトの後ろに目を向けた。それにつられるようにユウトも振り返る。


「……少々支度に手間取った。待たせたな、おぬしら」

「あ、ジードさん」


 するとユウトの背後には、以前会った時よりも少し身なりの整ったジードが立っていた。

 すかさずクリスが挨拶をする。


「今回は突然面会を申し込んですみません、ジードさん。あなたの類い希なる知識をお貸し頂きたくて」

「構わぬ。お前がリインデルから持って帰った本が私の元に来るのも待っていたしな」

「こんにちは、ジードさん」

「お、おお。もゆるも、良く来た」


 ユウトも挨拶をすると、なぜかジードが少々落ち着かない様子で視線を泳がせた。でも、歓迎されていないわけではないらしい。彼の雰囲気に刺々しさはないから。


「……と、とりあえず私の拠点に行こう。一応菓子なども用意してある」

「えっ、僕たちのためにわざわざ? ありがとうございます」

「うむ、まあ、感謝するがいい」


 ジードの心遣いに、ユウトが謝意を込めて微笑む。

 すると彼はいかにも得意げに胸を張った。どうやら機嫌も良いみたいだ。


「ところで、ジードさんの拠点ってどこにあるんです? このエルダールのどこかってわけじゃないんでしょう?」

「今は術式で作った異空間にある」


 機嫌の良い男は、クリスの問いにあっさりと答えをくれる。


「それは……ゲートのようなものですか?」

「近いが、少し違う。私の拠点はゲートよりももっと簡単なルールに則って作られたものだ。そうだな……どちらかというとおぬしらの大容量ポーチに似ているかもしれん」

「ふむ。物質を保持する空間があって、そこに入り口を付けただけの拠点ということでしょうか」

「そうだ。一応空間として安定はしているが、戦闘などをすると使用意図が崩れてルールが維持できず、空間が消える。一時的な拠点とはいえ、おぬしら以外の血の気の多い奴らを入れて、そんなことになったら大変だ」


 ジードがレオやエルドワの同行を嫌ったのは、そういう理由があったのか。質問をしたクリスだけでなく、ユウトも納得する。

 どうやらジードは以前どこかに作っていた拠点は引き払って、そこをアイテム置き場および一時的な生活空間にしているのだ。


「……それはさておき、いつまでもここで立ち話をしているわけにはいかんだろう。入り口を作るから私についてこい」


 確かに、話なら拠点に着いてからでも何の問題もない。

 一旦そこで話を切ると、ジードはこちらに背を向ける。

 そして悪魔の水晶のある場所で、何か呪文らしきものを唱えた。


 途端に、術式が展開する。

 細い光の帯が3本、ジードがかざした手の前に現れ、回転をしながら大きくなった。その中央に空間の歪みができ、ぐるぐると渦を巻き始める。

 見た目的には色が違うだけで、ゲートのなるとと同じだ。


「では行くぞ。私が通った後は10秒ほどで入り口が消える。後込みせずについてくるのだ」

「分かりました」

「……これ、もしかして座標指定のワンタイム・ドアなのか。面白いな」

「クリスさん、よそ見しない!」


 ジードが入って行ってしまったというのに術式に興味津々で足を止めるクリスを、ユウトは背中を押してなるとに押し込める。

 その勢いのまま、自分も入り口を潜っていった。


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