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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、グラドニと会う決心をする

 クリスとユウトをジードのところに行かせる。

 これはレオにとって苦渋の決断だ。


 もちろんあの男がユウトに危害を加えられるわけがないと分かってはいるけれど、元々敵側であり、性格も最悪であり、あの大精霊がペナルティを承知で阻まなければならないような、とんでもないことを企んでいた奴だ。

 気なんて許せるわけがない。


「……ユウト、奴のところで嫌なことがあったらすぐに俺に連絡するんだぞ。とりあえず何かされたら『大っ嫌い』と言ってやれ。多分立ち直れなくなる」

「そんな、レオ兄さんみたいな……」

「一緒にするな! だが多分反応は同じだ、クソ腹立たしいが!」


 さらにジードがムカつくのは、この自分の恥部を見せられているような嫌悪感があるからだ。アイクとも同じ臭いがする。いっそ同族嫌悪と言えば説明は早いが、認めたくはなかった。


「いいか、ユウト。今度こそあんな奴に『何でもする』とか言うなよ。強気で行け。『ひざまづいて靴をお舐め』くらい言ってこい」

「やだよ、無茶言わないで!」

「レオくん、ユウトくんにそれ言われたらどうするの?」

「舐める」


 即答だ。


「だよね~」

「エルドワも舐める!」

「だよね~」

「だよね~、じゃないですよ、クリスさん! エルドワの教育に悪いから変な質問やめて下さい! ジードさんとは普通に接しますよ!」


 まあ、もちろんユウトがこんなことを言えるわけがないのは分かっている。それくらい強気で当たれということだ。

 情報の対価にまた軽々しく『何でもする』なんて言われては困る。


「何にせよユウトくんのお願いなら、ジードさんは快く情報を出してくれるよね。彼とは書簡ボックスで繋がってるから、さっそく会えないか打診の手紙を送ってみるよ」


 クリスはそう言って立ち上がると、書棚の方に行ってしまった。

 そのまま紙とペンを取り出して、そこで手紙を書き始める。

 思い立ったら即座に行動してしまう彼のこと、おそらく出した手紙の返事が来たら、すぐにでも出発するつもりなのだろう。


「……くそ、ジードのところには俺もエルドワもついて行けん。いいか、ユウト。変なことされそうになったら、クリスを置いて来てもいいから転移魔石で即戻ってこいよ」

「もう、ジードさんは変なことなんてしないってば。レオ兄さん心配しすぎ。僕たちが帰ってくるまでおとなしく待っててよ」

「おとなしく待ってろと言われてもな……」


 レオが不満げな顔でぶつぶつと愚痴ると、不意に向かいにいたキイが口を開いた。


「ではレオ様、時間潰しというわけではありませんが、ユウト様がいない間にキイたちとグラドニに会いに行きませんか?」

「……グラドニ、だと?」


 思いも掛けない提案に、レオは目を瞠る。

 グラドニは確か5年前、竜の谷に戻ったはずだが。


「グラドニは竜の谷の生活にすぐ飽きて、今はバラン鉱山の頂上に居を構えています。多分暇を持て余しているので、うまく興味を引ければこちらに加勢をしてくれるかもしれません」

「バラン鉱山にグラドニが……」


 確かにあの不老不死の古竜が手を貸してくれれば、かなりのアドバンテージではあるけれど。

 ……グラドニは、ユウトの記憶封印を施した術者だ。

 あまり係わらせたくないのも事実。


 レオは黙ったまま、どうしたものかと思案する。


(万が一のことを考えると、ユウトを近付けたくない……いや、だからこそ逆にユウトが不在の間に会って、先に話をつけてしまうべきかもしれん。グラドニの知識や魔力がこちらのプラスになるのは間違いないんだ)


 ユウトを護り、世界も救うためには、グラドニの助けは絶対あった方が良いのだ。ここは多少のリスクを飲み込むべきだろう。


「……分かった。ユウトがジードのところに行っている間、俺はバラン鉱山に行こう」

「では、クウたちも同行致します」

「エルドワも行く」


 レオがバラン鉱山行きを決めると、途端に半魔たちも手を上げた。


「……一緒に来たところで、グラドニと俺は二人で話すから、お前たちはラダで待つだけだぞ」

「レオ様とは別に、キイたちはグラドニに伝達事項があります。レオ様のお話が終わってから勝手に用事を済ませますので、お気になさらず」

「エルドワはただグラドニが見てみたい」

「ではエルドワはクウたちと一緒に行きましょう」


 どうやらこちらに同席してくるつもりはないようだ。

 他人に聞かれたくない話もグラドニとするつもりのレオは、それに内心でほっとした。が。


「じゃあ僕とクリスさんは、ジードさんとの話が終わったらバラン鉱山に飛んで行くね」

「……いや、駄目だ、ユウトはバラン鉱山じゃなくラダに飛んで待て」


 バラン鉱山に直接来ようとする弟に、兄は即座に訂正をした。

 鉱山に飛んで来られたら、ユウトがグラドニと顔を合わせてしまうかもしれない。それは避けたい。


 ユウトはグラドニのことなんて覚えていないだろうけれど、グラドニの方が覚えていてちょっかいを掛けられると困るのだ。

 レオは弟の封じられた記憶に、どんな小さな刺激も与えたくない。


「僕もグラドニさん見てみたいのに」

「やめておけ、あいつは気分屋で扱いづらい奴だぞ。ユウトが会うのは危険だ」

「ではユウト様、キイたちと一緒になら……」

「駄目だ」


 竜人がユウトとグラドニを引き合わせようとするのを、かなり喰い気味に却下する。

 それにキイとクウは肩を竦めると、ユウトに目配せのような視線を送った。


「……仕方がございません、ユウト様。レオ様と我々の戻りを、ラダでお待ち下さい」

「えー……仕方ないなあ」


 弟は頬を膨らませたものの、思ったよりもあっさりと引き下がる。

 そこに多少の違和感を覚えたものの、しかしその感覚はようやく席に戻ってきたクリスによってかき消された。


「すっごい。もゆるちゃんを連れて行くから会って欲しいって手紙送ったら、秒で返事が来たよ。私でも引くレベル」

「あんたが引くレベルって、中々すごいな……」

「とりあえずめちゃめちゃ乗り気のようだから、早めに出発するよ。レオくんたちはまだしばらくここで話をしてから出掛ける?」

「いや、どうするかな……」


 まだウィルに聞いていない話もあるが、先にグラドニと話をつけておきたい思いもある。

 どうせまたジードのところで話を聞いたクリスからの報告ももらわなくてはならないし、ここは一旦切り上げるべきだろうか。


 そう逡巡していると、すぐにこちらの気持ちを察したウィルが、窓際のテーブルから手を上げた。


「レオさん、私は戻ったばかりでまだ話がまとまっていないので、これから報告書をまとめたいと思います。続きの話は次の機会に」

「じゃあ、俺はウィルくんの護衛のためにここで留守番しよっかな。レオさんもその方が安心でしょ」


 気の利く二人は、バラン鉱山に行きたいレオの意を汲んでくれたようだ。さらりと話を切り上げ、留守番を申し出る。

 それにレオも頷いた。


「では、そうしてくれ。アシュレイ、お前もここで留守番を頼む。狐だけだと万が一の時にここを離れられないからな」

「分かった」


 役割分担が決まり、これで一度解散となる。

 次にまた集まる時には、だいぶ状況が詳らかになるだろう。


 そんな情報に期待をして、レオは席から立ち上がった。


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