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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、ジラックの話を聞く

 エルドワの提案に、キイとクウはポンと手を打った。


「確かに、それは良い案です。グラドニとレオ様は確実な接点がありますから、話を持って行きやすいですし」

「レオ兄さんとグラドニさんの接点?」

「グラドニはレオ様のおかげで肉体を取り戻したと言っていました。レオ様に対して多少なりとも恩義を感じているのなら、あの気分屋もいくらか御しやすいかもしれません」


 さっき面識があるとは言っていたけれど、どうやらレオとグラドニは、思ったよりも突っ込んだ繋がりがあるようだ。


 だが、レオに恩義があって、気分屋……。

 その特徴に、ユウトは軽く眉根を寄せた。


「……グラドニさんって、僕が相談したことレオ兄さんに言っちゃったりしません?」

「まあ、そのリスクは多少なりともあります。しかしそれでも、グラドニを引き込み時流を変えることは、ユウト様のためになるかと」

「レオ様にバレることを危惧してグラドニの大きな力を諦めるか、レオ様にバレるリスクを負ってもグラドニの力を借りて時流を変えるか……考えるまでもないことと思いますが」


 そう言われてしまえば、確かにそうだ。

 レオに秘密を貫き通しても、ユウトが死んでしまったら元も子もない。結局何をしてでもユウトが生き残る道を探すのが、最善の選択なのだ。

 ここは腹を決めるしかなかった。


「……分かりました。レオ兄さんの話にグラドニさんも巻き込んで、会いに行くことにします」


 ユウトがそう決断すると、キイとクウはその決定を歓迎するように微笑んだ。


「では、レオ様をグラドニに会わせる算段はキイたちにお任せ下さい」

「この後のジラックに関する報告の際、クウたちがそのように進言しておきます」

「はい、よろしくお願いします。……エルドワもアシュレイも、これからまた助けてもらうことになるけどよろしくね」

「もちろん! ユウトのことはエルドワが護る」

「俺もできる限りのことはするから、何でも頼って欲しい」

「うん」


 自分ができることは少ないけれど、それは仲間を通して広がり、予想を超えたうねりになる。まるで蝶の小さな羽ばたきが竜巻を起こすように。


 望む未来を手に入れるために、今はこうして小さな羽ばたきを繰り返していくしかないのだ。

 ユウトは改めてそう心に決めて、淹れ終わったコーヒーをトレイに乗せた。






 その一方で。

 話がまとまったユウトたちとは対照的に、レオたちは過多な情報をまとめきれずにいた。


 考えるほどに状況は煮詰まるばかりだ。

 一度仕切り直した方がいいのかもしれない。


 レオがそう考えたところで、少々長い支度時間をかけたお茶と軽食が、ユウトたちによって運ばれてきた。


「お待たせしました。飲み物持ってきましたよ。キイさんとクウさんがカナッペ作ってくれたから、みんなで摘まんで下さい。これお手拭きです」

「おー、ありがとね、ユウトくん。……レオさん、キイとクウが来たし、ここからはお茶を飲みながらジラックの報告を聞きましょ」


 これまでの話を切るために立ち上がったネイが、ユウトたちの配膳を手伝いながらレオに目配せをする。

 おそらくジラックの報告ならば、ユウトに聞かれても然程問題のない内容だということなのだろう。レオも了承して首肯した。


「……そうだな。キイ、クウ、報告を頼む」

「俺は大体内情知ってるから、窓際に移動します。ユウトくんは俺の座ってた椅子使って。アシュレイもそのテーブルだと狭いから、俺と窓際に行こ」

「ああ、そうする」

「ウィルくんも、ジラックは自分の目で見てきたから大体分かるでしょ。こっち来たら?」

「……そうですね。では私も」


 相変わらずマメな男は席の配置にも気を遣う。全員揃うとぎゅうぎゅうになるテーブルを上手く二つに分けて、カナッペの皿も二カ所に置いた。


 レオの近くにはユウトとエルドワ、キイクウ、それからクリスだけ。ここからはこちらがメインで話を進めていけばいいわけだ。


 レオの真向かいに座ったキイとクウは、一度紅茶に口を付けて喉を湿らすと、視線をこちらに向けた。


「では、キイたちは何からお話いたしましょうか」

「まずはジラックの住民の状況だな。だいぶ貧困状態だろうが、まだ領主に対抗する気概のある奴はいるか?」


 住民はジラックに閉じ込められたまま数ヶ月経つ。

 その街中はだいぶ荒れていると聞いていた。

 しかしそれでも、領主に逆らい街を立て直す気概を持つ者がいるのなら、攻め込む際の内応を期待出来るのだ。レオはまずそれを確認したかった。


「……ジラックの住民の大半は、領主に反感を持っていても毎日の生活のために奴らにおもねって、日々を生きています」

「しかしその中でも、過去に領主の弟君おとうとぎみと交流のあった者が数名、秘密裏に対抗組織を作っているようです」

「イムカの知り合いか」


 以前から僅かながら領主に反骨心を抱く者がいたことは知っていたが、それはまだ残っているようだ。それもイムカの関係者。

 まあ、イムカと仲が良かった者であるほど、現領主への反発は大きいだろう。


「そいつらに、イムカが生きている噂は流したのか?」

「はい。狐の手も借りて、それ以外の者にも。……もちろん噂レベルの情報ですが、それでも彼らの志気は上がった様子でした」

「元々住民の支持は圧倒的に弟君にあったようで、クウたちが見る限り、情報に半信半疑ながらも市井でそれを歓迎していない者はほぼいません」

「だったらイムカの方は平気か」


 領主とイムカの対決は、それほど心配いらなそうだ。

 彼の後ろにはライネルも付くし、領主側が偽アレオンを引っ張り出してきても、こちらには本物のアレオンもいる。

 顔を出す気はないが、名前を出されるくらいは大目に見よう。


 だとすれば、後の問題はやはり魔研とガラシュになる。


「ジラックに張られた封印結界については何か分かったか?」


 レオは次の気掛かりについて質問した。

 ジラックに攻め込むにあたっては、魔研がしいたと思われる通行不可の結界壁もネックの一つだ。

 キイとクウにはその調査も頼んでいた。


 竜人二人はその問いに、同時に頷く。


「あれは人間の張った結界ではありませんでした」

「おそらく魔研に頼まれたガラシュが張ったものです。術式に魔族特有の構文が使われていました」

「……やはりそうか」


 あれだけの強制力の強い封印結界、人間の魔力では数日程度しか維持できない。となれば、やはり術者はガラシュしかいない。

 そう納得したレオの斜向かいで、話を聞いていたクリスがなぜか思案するように顎を擦った。


「ガラシュの組んだ術式か……あんな粗い術式を使うなんて、やっぱりガラシュと魔研って関係性が良くないのかも」

「……どういうことだ?」

「本来はああいう術式って、もっと綿密に組まれるものなんだよ。……ほら、こう街を壁で囲むとするじゃない」


 怪訝に思って訊き返したレオに、クリスが手振りで説明する。


「一番高度な術式だと、ああいう壁は術者が許可した者だけ通過できるように設定するんだ。そこまでしなくても、仲間内の敷地を一カ所だけ通れるようにしておくとか、一部だけスイッチで開閉できるようにしておくとか。とにかく、普通なら味方に有利な設定をするものなんだけど」

「……ジラックは敵も味方もまるっと通行禁止だな」

「そう。こうやってがっちり壁で閉じ込めただけ。面倒臭がりながら作った感満載なんだよね。……魔研がガラシュを降魔術式にかけようとしたことも考えると、双方の間はかなりよろしくないのかも」


 もしや、ガラシュは一応まだ契約期間だからと嫌々魔研に付き合っているのか。

 そしてジアレイスたちは、まもなく契約が切れるからガラシュを排除したいのか。


「……仲違いしてくれんのは結構なことだが……」


 多少の利害、そして残り僅かな契約期間。双方をつなぐそれがなくなった時、事態はどう転がるのか。


 予測できない状況は、かなり厄介だった。


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