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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、グラドニが敵対することを心配する

「グラドニさん……?」

「はい。ユウト様は面識がないのでしょうか? あの方はレオ様とユウト様にお会いしたようなことを言っていましたが」

「レオ兄さんと僕に?」


 今のところ、全く記憶にない。

 まだ戻ってきていない記憶のどこかで、そのドラゴンに会っていたのだろうか。


「グラドニさんというのは、どんな方なんですか?」

「創世の時代から生き残っている古竜です。好奇心旺盛な気分屋で、少々扱いが面倒臭いですが、その能力値と知識は世界の創造主に匹敵するドラゴン……。上手くいけば、力を貸してくれるかもしれません」

「創世の時代から生きてるドラゴン……! そんなすごいひとが、僕の話なんて聞いてくれるかなあ……」


 ユウトはいにしえの竜と聞いて、白髪で長いひげを蓄えた、竜のツノを持つ厳格そうな老人を思い浮かべる。

 ゲームなんかでよく見たのは、頑固で人間嫌いで排他的なイメージだけれど。


 しかしそんなユウトの言葉に、クウは首を横に振った。


「その辺りは平気でしょう。……言い方は悪いですが、善悪関係なく厄介事を面白がって、すぐに首を突っ込むタイプなので」


 そう言った彼は、何かを思い出したのかちょっとげんなりした様子で肩を竦める。

 キイも隣で同じような表情で同意した。


「グラドニは長く生きているせいで、生に退屈しているのです。おかげで、刺激を見付けるとすぐに無鉄砲に突っ込んでいきます」

「……つまり、僕の話はグラドニさんにとって良い刺激だと?」


 ユウトの命をかけた世界の存亡の話も、グラドニにとっては娯楽のようなものだということだろうか。


「はい。こんなふうに見られることはユウト様にとっては不愉快かもしれませんが、あの方の興味を引くことが出来れば時流は大きく動くことは間違いありません」

「不愉快っていうことはないですけど……それよりもグラドニさんと話をしてみて、もしも敵の方の刺激が強いと感じた場合、敵側に行ってしまったりしませんか?」


 善悪の別がなく刺激だけで考えるなら、グラドニは防衛よりも破壊の方に楽しみを見出すかもしれない。

 そうなったら取り返しのつかないことになる。


 創造主と同等の能力と知識を持ち、大精霊と違って実体を伴い世界に干渉できるドラゴン。それが敵に回った場合、もう手の打ちようがないのではなかろうか。


 そう危惧したユウトに、しかし今度はキイが首を横に振った。


「グラドニは善悪にはこだわりませんが、好き嫌いは大いに気分に影響します。……彼は敵側の人間が大嫌いなので、そちらに手を貸すことはまずありません」

「敵側……魔研が嫌いなんですか?」

「そうです。……ユウト様、魔研に関する記憶はお戻りに?」


 魔研の名前を出したせいだろう。

 ユウトの言葉を肯定したクウが、確認するように訊ねてきた。


「あ、はい。多少は……。変な薬を投与されたり、部屋に閉じ込められたり、首輪と鎖でつながれたりしてたなあってくらいですけど。あとは、見世物として他の魔物と戦わされたりとか……」

「何それ……!? ユウト、そんなことされてたの!? 奴ら、許せない……!」


 ユウトが記憶を探ってさらっと口に上せた内容。それを聞いていたエルドワが、やにわにぶわっと毛を逆立てて憤慨した。

 自分の護るべき主が、不当にひどい境遇に置かれていたことが我慢ならなかったのだろう。


 しかし当のユウトは、苦笑をして小さな子どもの頭を撫でた。


「昔の僕のために怒ってくれてありがとう。でも今はもう大丈夫だから、落ち着いて」

「むう……」


 宥められて、エルドワはむすっと口を尖らせたままユウトに抱きつく。彼に会うずっと以前の話なのだから、そんなに腹を立てなくてもいいと思うのだけれど。


 そんな二人を近くで見ていたアシュレイが、不思議そうに首を傾げた。


「……ユウトはそんな辛い過去を思い出しているのに、思いの外普通にしているのだな。自分の過去に衝撃を受けたりしていないのか?」

「うん、まあ、まだまだ断片的な記憶だし。ただ映像として浮かんでくるだけで……」


 そこまで言って、ユウトはふと気が付く。

 時折混沌とした記憶の海の中から釣り上げられるのは事象のみであって、そこに感情が付いてきていないことに。


 言うなれば、感情移入ができない断片的な動画を、ちょこちょこ見ている感覚なのだ。


「……そっか、これまで記憶を思い出しても平気でいられたのは、物事を俯瞰から見ている感じで、当時の感情や思考が戻ってきてないからかも……」

「感情や思考が戻ってきていない……? それは、術者の意図を感じますね……」

「でも、おかげで普通でいられるなら構わないです。まだレオ兄さんにも覚られてないし」


 今さら当時の感情を追体験しなくても、事実さえ思い出せれば問題はない、はずだ。キイが怪訝そうに眉を顰めているが、ユウトは気にせず話を戻した。


「それで、グラドニさんが魔研を嫌いな理由っていうのは?」


 訊ねた言葉に、クウが答える。


「……どうも以前、肉体の一部を魔研に利用されそうになっていたらしいです。詳しくは聞いていないのですが、脱した後に研究所の建物を粉微塵にしたようですから、かなり嫌悪感が強かったのだと思われます」

「実験に使われそうになったのかな? だったら確かに、魔研に与する気にはなりませんね」


 グラドニが敵側に回る心配がないなら大丈夫か。

 あとはどれだけユウトの話で興味を引けるかだが、それは話してみないと分からない。


「グラドニさんは今、どこにいるんですか?」

「竜の谷の生活に飽きて、最近はバラン鉱山の山頂にいるようです。あそこは最寄りが半魔のいるラダの村ですし、竜穴も近くてマナも豊富なので生活がしやすいのでしょう」

「バラン鉱山か……。行こうと思えば行けるけど、レオ兄さんに内緒で行くのは難しいな」

「バラン鉱山に行くなら、ラダに用事を作って行くのが手っ取り早いかと思われますが」

「ラダに用事……」


 アシュレイの家に行く、イムカに会いに行く、ミワとタイチの祖父に装備のデザインをしてもらいに行く。

 用事を作ろうと思えばどうにかなりそうではある。


 しかし結局、ユウトが行くと言い出せば、そのいずれにもレオがついてくるのは必至。


 さてどうしたものか。

 そう考えていると、ユウトにくっついたまま話を聞いていたエルドワが、はたと思いついたようにその懸念を逆手に取った提案をしてきた。


「だったら、レオたちの話の方にもグラドニを巻き込んだら? そもそもグラドニに会うことにしておけば、今回みたいにレオたちと別でいる間に、こっそり話ができるかも」


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