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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【一方その頃】ジラック・ネイの活動2

 以前の光のかたまりのような姿ではなく、大精霊はしっかりとした人型をしていた。

 その体格や姿形は、心なしかほんの少しだけレオに似ているような気がする。


 大精霊は光を纏うその身体でふわふわと宙に浮いたまま、無表情でネイを見下ろしていた。


「え、待って、何でこんなところにいんの? つか、アイテムなくても俺に見えてるんだけど……。ちょっと、目立ちすぎるから隠れて下さいよ!」


 以前はユウトに借りた精霊のペンダントがあったからその姿が見えていたわけだが、今は何も持っていない。

 ということは、完全体になった今、その姿は誰にでも見えるのだろう。


 そう理解して、ネイは慌てて大精霊に隠れるように促した。


 少しだけレオに似て見えるとは言っても、その髪は金髪だし、衣装は白だし、光を纏っているし浮いてるし、目立つことこの上ない。

 すぐにでも警備の人間に見つかりそうだ。


 しかし慌てたネイに対して、大精霊は軽く肩を竦めて見せた。


『お前こそもう少し声を抑えろ。心配しなくても、私の姿が普通の人間に見えるわけがないだろう』

「いやいやいや、俺普通の人間ですけどモロ見えですよ!?」

『残念ながら、お前は普通の人間じゃない。……いや、普通の人間じゃなくなった、と言うべきか』

「は? ……ちょっと待って、何それ怖い。俺、知らないうちに改造人間にでもされた?」


 よく分からないことを言う大精霊に、ネイは困惑する。

 そもそも、この大精霊と会うのはユグルダ以来なのだ。その間に特に変わったことなど何もなかった。

 もちろんどこかにさらわれて改造された覚えもない。


 何だろう、大精霊ジョークだろうか。そんなものがあるのか知らないが。


「……大精霊さん完全体になってるし、自分で知らず知らずのうちに、人間に見えちゃってるんじゃない?」

『そんなわけがあるか。見えているのはお前だけだ。……それに、私はまだ完全体ではない』

「へ? 精霊の祠は全部解放しましたよね?」

『祠はな』


 またしても彼は予想外のことを言う。

 祠を解放すれば大精霊は完全体に戻れる、という話だったのに、祠を全部開け放ってまだ完全体でないとはどういうことか。


「……完全体ではないってことは、大精霊さんの力の一部がまだ戻っていないってことですよね。……そして今ここにいるってことは……もしかして最後の力はこのジラックに?」

『……まあ、そういうことだ』

「大精霊さんの力がどこかに閉じ込められてる……あ、さてはこの地下納骨堂カタコンベの中!? もしくは墓地の偽魔尖塔……!?」


 大精霊の力を封じているならば、おそらくその辺りに違いない。

 そう思って訊ねたネイに、しかし大精霊は首を横に振った。


『違う。……私の力が閉じ込められているのは、ここだ』

「……ここ?」


 ここ、と言われてネイはさらに困惑する。

 その指先が、まっすぐにネイを指していたからだ。


 もしかして自分を通り越して後ろに何かあるのかと振り返ってみたが、それらしきものは存在しなかった。

 ……つまり、そういうことだろう。


「……もしかして、俺の中?」

『そうだ』


 あっさりと首肯されてしまった。


『お前がアイテムもなく私の姿を視認できるのが何よりの証拠。私の力の一部がお前の中に残されているのだ』

「俺の中に大精霊さんの力が残され……って、ああ! もしやユグルダの時!?」


 残された、という言い方で、ようやくネイは思い当たる。


 そうだ、ユグルダを救いに別の世界に行ったあの時。

 ジードと相対し、あの男が唱える術式に対抗するために、ネイは大精霊に身体を貸した。

 その際、ネイの身体で大精霊が大きな術式を唱えているさなか、それをジードによって強制的にキャンセルされたのだ。


 もしかして、その時の大精霊の魔力が、ネイの中に残留しているということか。


『そうだ。あの時、強制的に術式が解除されたせいで、私はちぎれてお前の身体から弾き飛ばされてしまった。……まあ、幸い全ての竜穴が解放されていたおかげで、ここまで回復できたがな』

「あー、やっぱしばらく現れなかったのって、ダメージあったからなのね。じゃあ、後は俺の中の力を回収していけば完全復活ってこと?」


 そういうことならとっとと魔力をこの身体の中から引き上げてくれればいい。そう思って訊ねたネイに、大精霊はなぜか渋い顔をした。


『回収できるならば、そうなるんだが……』

「え、何ですかそれ。回収して下さいよ。俺普通の人間に戻ります」

『……残念ながら、世界がそれを許さぬのだ』

「世界!? いや、話がデカい! つか、大精霊さんはこの世界の創造主でしょ、どうとでもなるじゃん!」

『私でも大元にある世界の理を冒せば、相応のペナルティは課せられる。……まあとりあえずお前にとっては、デメリットよりもメリットの方が大きいはずだ。しばらく我慢してくれ』


 大精霊の力が自分の中にある。

 一部とは言え世界の創造主の力が宿るのだから、確かにメリットはあるだろう。


 ……しかしあの時大精霊が発動しようとしたのは、かなり大きく危険な術式に見えた。その術式に使われた魔力がネイの中に残留していると思うと、どこか空恐ろしい気分になるのだ。

 その魔力が、簡単には回収できないというのも引っ掛かる。


(……しばらく、と言うからには絶対回収できないというわけじゃないんだろうけど)


 何となくすっきりしないけれど、大精霊自身でも対処できないというのだから、ここでごねたところで時間の無駄か。

 それよりも今は目の前の仕事を優先するべきだ。

 とりあえずこの段では、大精霊の存在は大いにアテにできる。

 ネイは思考を切り替えた。


「……まあ仕方ない、この話は後にしよ。大精霊さん、さっき俺に手を貸してくれるって言ったよね?」

『ああ。直接的な情報を与えたり術を施行したりはできぬが、多少状況をいじるくらいはできる』

「うん、それで十分」


 今やるべきことは、地下納骨堂前の警備員の気を引き、隙を見て忍び込むこと。

 大精霊の力を借りれば、きっと上手くいくはずだ。

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