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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、瘴気の半魔への影響が気になる

 しばらく歩いていると、エルドワがちょこちょこと前に出て、先頭を行き始めた。

 おそらくなくしていた魔性が戻ってきたのだ。ユウトを護ろうという気概が感じられる。


 レオは弟と二人で並んで、その後ろについて歩いた。


 ……それにしても。

 リインデルに続く道は、長いこと使われていなかったせいで荒れていて、だいぶ歩きづらい。

 レオはこのくらい問題にしないが、兄は弟を気遣って声を掛けた。


「リインデルには午後の陽のあるうちに着きたい。休憩は昼食だけしか取らないが、疲れたら言えよ。俺がおんぶしてやる」

「ん、僕は平気。タイチさんの作ってくれたブーツ、すごく楽だもん。……レオ兄さんこそ、大丈夫?」

「俺?」


 ユウトに訊ね返されて、レオは何のことかと目を瞬く。

 弟に比べたら体力は遙かに上だし、整備の悪い道だって昔から歩き慣れているのだ。そんなことはユウトも分かっているはずで、心配をされる覚えはない。


 それを不思議がる兄に、ユウトは軽く首を振った。


「体力の問題じゃなくて……。この辺り、ところどころ瘴気が少し濃くなって来てるの。身体に何か異変はないかなって」

「……ああ、そういうことか」


 言われて、ようやく納得する。

 ユウトはレオが瘴気に冒されていないか心配していたのだ。

 人間であるレオには瘴気なんて見えないし、匂いもしないから、すっかり失念していた。


「全く問題ない。タイチ母の瘴気変換アイテムはきっちり作用しているようだ。対になってるお前のブローチに、変換された魔力が送られてるんじゃないか? 見てみたらどうだ」

「あ、そっか。……うん、ブローチが少し魔力を帯びてきたみたい。タイチさんのお母さん、すごいね」


 瘴気がレオに害を為さないと分かって、ユウトはほっとしたように微笑んだ。

 ウィルの件で瘴気中毒の話が出ていたから、少し心配だったのだろう。瘴気はそれほど人間にとって毒性が強いのだ。


 ……となると、半分人間の血が入った半魔も多少は影響を受けそうなのだが、どうなのだろう。

 ユウトは普段通りに見えるが。


「……瘴気の中にいてもお前たちは平気なんだよな? だが、何か変化はないのか?」

「僕は何にもないよ。……あ、でもエルドワは瘴気を吸い過ぎると駄目みたい。そういうときはいつもヴァルドさんが、僕の血をエルドワにもあげてたんだ」

「ヴァルドが、エルドワに?」


 ユウトはおそらく自身の周囲の瘴気を自動で浄化してしまうから影響がないのだろう。

 しかし、エルドワには何か問題があるようだった。

 ヴァルドが自身のために用意されたユウトの血をエルドワに分け与えるということは、それなりに大きな意味があるのかもしれない。


「エルドワ、瘴気はまだ大丈夫?」

「アン」


 ユウトが訊ねると、エルドワは平気だと言うように返事をした。

 まあ、精霊の祠が解放されたおかげで村道沿いは以前に比べたら瘴気が薄まったらしいし、さらに聖属性の強まったユウトの側にいれば、然程問題はないのかもしれない。


 それでも、大事は取るべきだけれど。


「リインデルは瘴気の溜まりができてるというから、村に入る直前に、エルドワには念のためお前の血を少し与えた方がいいかもな」

「ん、そうだね。どうせ一滴二滴くらいだし」


 瘴気によってエルドワがどうなるのかは気になるけれど、ヴァルドほどの男が避けるものを、わざわざ現出させるような愚はしない。

 二人はそう示し合わせると、子犬についてリインデルへの道を急いだ。


 途中、少し開けた草むらで一旦昼食休憩を取り、再びひたすらに荒れた村道を歩く。

 ラフィールがくれた疲労回復のハーブ茶の効き目もあって、二人と一匹の足取りが鈍ることもなく、一行は午後の三時前にはリインデルの村を視界に収めることができた。




「……あれがリインデルの村かな? 周囲を完全に森に囲まれて、入り口しか見えないね」

「地形的にも瘴気溜まりのできそうな場所だな。……よくこんなところに人間が村を作ろうと思ったもんだ」


 見た感じ、かなり小さな村のようだ。

 ……やはりこんな辺鄙へんぴで瘴気の濃い村、夜盗などが襲ったとは考えにくい。

 クリスが村を襲った犯人を魔族に絞っているのも頷ける。


「もゆる、村に入る前にエルドワに血をやっとけ」

「うん」


 ユウトはピアスの針で指を刺すと、ぷくりと浮かんできた血の玉を子犬に舐めさせた。

 途端にエルドワの気配が強者のそれになる。


 ユウトの血によっておそらく嗅覚などの能力も倍増しているだろうし、これなら村に隠されている術式を見付けることもいくらか容易になるだろう。


「クリスさんはどうしてるかな?」

「さあな。さすがに視覚誤認の術式を破れるとは思えないから、周囲の森に隠れているのかもしれん。……まあ、こっちを見付ければすぐに寄ってくんだろ」

「アン!」

「ん? どうしたの、エルドワ?」


 村の入り口に向かってクンクンと鼻をひくつかせたエルドワが、二人を振り返った。


「アン」

「何だ? もしかしてクリスがいるのか」

「アンアン」

「あ、そうみたいだね」


 こちらがそう理解すると、エルドワは勝手に村の中に入っていってしまった。


 ……不用意に入って、村の中に敵がいたりしないのだろうか。


 レオはその後ろをついて行くことに一瞬躊躇う。

 けれどすぐに、もしもいたらあの子犬が匂いで分からないわけがないと思い直した。おそらく、少なくとも今は、中にクリスしかいないのだ。


 そう判断して、しかし用心のためにユウトの手を取って後ろを歩かせながら、レオは村に入った。


「ここがリインデルか」

「うわ……酷い。みんな焼け落ちてる……」


 入り口を抜けて現れた光景は、ラフィールに聞いた通り、焼けた村の残骸。

 それも三十年ほど経った今もまるで風化していない、作られた景色だった。


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