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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、リインデルに向かった馬車を怪しむ

 視覚誤認の術式を解くには、とにもかくにも術の大本を見付けなければいけない。

 しかし巧妙に隠されたそれを、どうやって探し出すか。


 レオとユウトが考え込んでいると、今まで村の周囲の音と匂いに意識を向けていたエルドワが、少し得意げに尻尾を揺らしながら話に加わってきた。


「視覚が惑わされるなら、匂いを辿れば良い。ユウト、エルドワなら術式を探せる。問題ない」


 どうやらエルドワは、術の出所を探し当てる自信があるらしい。

 そういえばこの子犬、周囲の魔力の流れを匂いで感知できるのだった。それを辿れば、術式の大本を見付けられるということか。


 任せろと胸を張るそんなエルドワに、ユウトは目を瞬いた。


「え、ほんと? 視覚誤認とはいえ、認知を阻害されるなら、嗅覚も惑わされるんじゃないの?」

「知らずに行くと難しいけど、最初から視覚誤認が掛かっていると分かっていれば注意を向けられるし、エルドワならほんの少しの魔力の流れや匂いも探れる」

「そうなんだ! エルドワすごいね!」


 ユウトに手放しで褒められて、子犬は嬉しげにぶんぶんと尻尾を振っている。その反応が少しだけ以前と違うのは、おそらくレオの気のせいではあるまい。

 いい子いい子と頭を撫でられているその表情が、どこか陶然としていた。


 匂いに耐性があるとはいえ、やはりエルドワもユウトの魔力の香りに影響を受けているのだろう。なんたる半魔殺し(キラー)

 まあ、特に問題ないようだから放っておくが。


「エルドワが視覚誤認をどうにかしてくれるなら任せよう。頼りにしているぞ、エルドワ」

「うん、任せて!」


 頼もしい小さな騎士の言葉にユウトはにこにこしていたが、やがて僅かに思案して、軽く首を傾げた。


「それにしても、誰が何のためにそんな術式を掛けたんだろうね? ……やっぱり、リインデルを襲った犯人なのかな?」

「……どうだろうな」


 魔界と通信ができたというリインデル。犯人が、極秘であったその事実を知っている者なのは間違いない。

 そうでなければ、周囲に瘴気が漂い大して大きくもなく特産品もない村、襲う意味がないからだ。


「クリスは、状況から考えて魔族が関与していると確信しているようです。今も村の中に隠れているとしたら、その魔族の可能性が高い。ユウト様、村に入る際はくれぐれもお気を付けて」

「僕はレオ兄さんもエルドワもいるし、ラフィールさんがあらかじめ視覚誤認を見抜いてくれたから平気ですけど……。今日まっすぐリインデルに飛んじゃったクリスさんは大丈夫かなあ」


 リインデルに早く行きたがっていたクリス。

 まあまず間違いなく、アシュレイを拠点に戻した後にすぐ村に飛んでいるだろう。


 しかし、レオはこの件に関しては特に心配していなかった。


「クリスは、視覚誤認に関してはおそらく問題ない。……あいつは襲撃直後のリインデルを見ていると言っていた。その時の状態と今の状態を照らし合わせれば、その違和感に気付かないわけがない」

「それについては、私もレオ殿に同意いたします。クリスはぽやっとしていて天然ですが、そういう勘所で手抜かりをする男ではございませんので。……まあ、術式に気付いたところで気にせず突っ込んでいくから困りものなのですが」

「それって、全然大丈夫じゃないんですけど……」


 あれだけ口を酸っぱくして言ったから派手な動きはしないだろうけれど、それでもクリスは何をしでかすか分からない。ラフィールもあの男のそういうところを知っているようで、端正な眉を若干顰めた。


 かと言ってここで何をすることもできないし、今は彼が危険な行動をしていないことを祈る以外、自分たちはどうしようもないのだ。


 レオはそう割り切って、眉尻を下げているユウトの頭を撫でた。


「ユウト、もはや心配しても仕方ない。今の俺たちは飯食ってよく寝て、明日の出立に備えるだけだ」

「うん……。でも、明日はできるだけ朝早く発とうね」

「そうだな」


 リインデルの調査にはそれほど時間は割いていられないのだ。

 何か面倒なことになっているのなら、早めに行って終わらせなければ。


 レオはそう決めて話を進めた。


「ラフィール、他に何か情報は?」

「隣村にいる限りでは、特に何もなかったが……いや、待て。いつだったか数年前に一度、深夜にガントの前の村道をリインデル方面に向かって馬車が走っていったことがあったか」

「……村の前を、馬車が?」

「実際、村まで行ったかどうかは定かではないがな」


 転移魔石などを使わずに道に沿ってリインデルに行くには、ガントの村の前を通るしかない。

 そして、この道の先はリインデルで行き止まる。


 リインデルの村の手前にある滝や森に用事がある可能性もゼロではないが、深夜に走っている時点でそれはあるまい。


「まだ瘴気の濃度が濃くなる前か?」

「そうだ。村人たちもいた頃だからな。リインデルの村は瘴気溜まりができてしまって入れなかったが、あの頃の村道沿いは人間でも通れる程度ではあった」

「人間でも……」


 その話を聞いて、レオはすぐにあることに思い当たり、確信を持った。


 ガントの前を通った馬車。

 おそらくそれは、魔法研究機関の所長の所蔵していた書物、キイとクウの家にあった書類、それらの消えてしまった文献を積んでいたに違いない。


 だってそれ以外に、深夜に人目を忍んで、村の残骸しかないリインデルに行く理由がないのだ。


 もちろんそれをこの目で確かめるまでは確定ではないけれど。


 ……あそこにはおそらく、魔研に関わる数多の情報が隠されているのだ。


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