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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄弟、待ち伏せ萌えされる

「あのあたりは瘴気が濃いから魔物も凶暴なのが多いけど、私にとっては危険というほどではないよ?」

「まあ、魔物程度ではそうだろ。……問題は、そこを見張る魔族がいた場合だ。ジアレイスはヴァルドの叔父連中と結託してるし、他にも魔族の仲間がいたっておかしくないからな」


 悪魔の水晶(デモン・クリスタル)を使った空間転移の術式を人間が見付けることはできないが、そこを魔族が守っていないとも限らない。罠だって掛けられているかもしれないのだ。


 周りに止める者がいない状態でこの男をそこに行かせるのはかなり怖い。

 クリスは魔族を目の敵にしている節がある上に、罠があっても即死でなければ気にせず突進する命知らずだ。

 その運の悪さも相俟って、レオにはもはや彼が魔族と遭遇する未来しか見えないのだが。


 しかし、当のクリスはそんなレオの心配などどこ吹く風だ。


「平気だよ。このもえすで作ってもらった装備のおかげで、魔族が掛けてくる状態異常系の魔法は効かないし、即死も無効だもの。魔族はプライドが高くてそうそうつるまないから、タイマンになれば負けないよ」

「魔族がいたらやる気満々じゃねえか!」

「私的には、これは危険に該当しないから」

「それが危ねえんだよあんたは!」


 もちろんクリスの強さは重々承知しているが、それでも今は万が一にも戦力を減らせないのだ。その辺が分かっているのだろうか。


「いいかクリス、あんたはこれからのジラックとの戦いでは主力になる人間だ。リスク上等じゃ困るんだよ」

「それは分かってるけど。……じゃあ、レオくんたちが来るまではリインデルでおとなしくしてるよ。それならいいだろう?」

「いや、あんたもガントに飛んで、一緒にリインデルに向かえよ」

「でも私は、一刻も早く故郷リインデルを見たいんだ」


 そう言ったクリスは、笑みを消して真摯な様子でレオを見つめた。

 いつもの柔和な表情を突然変えられると、少々気圧されてしまう。


 ……まあ、三十年近く戻れなかった故郷だ。

 そういう思いを持つのも想像に難くない。


 それに、そもそも説得しようにも、クリスはとにかく強情でちょっとやそっとじゃ引き下がらないことを知っている。言うだけ無駄かもしれない。

 レオは諦めたようにため息を吐いた。


「……分かった。今回はあんただけ先にリインデルに飛ぶといい。だが、見付けても罠や魔族には近付くな。邪魔な魔物くらいは倒していいが、俺たちが行くまで妙なことするなよ」

「良かった! ありがとう、レオくん。了承してもらえなかったら、ガントに飛ぶふりして勝手にリインデルに飛んで、後で怒られようと思ってたよ」

「……あんたって、思慮深いくせに時々すごく雑で奔放だよな」


 そうして二回目のため息を吐いたところで。

 馬車がゆっくりと速度を落とし、石畳の道から外れてロジーの敷地に入ったことが分かった。

 クリスとの話はここまでだ。


「レオ兄さん、クリスさん、着いたよ」

「ああ。ご苦労だったな」


 馬車が止まる前に、ユウトが御者席から顔を出す。

 すでに手綱を放しているが、まあ、アシュレイが勝手に停車するだろうから問題はない。


 レオはユウトを労うと、馬車が止まると同時に荷台を下りた。

 そして御者席の方に回り、弟が下りてくるのを抱き留める。

 アシュレイに合わせて高くなった御者席からユウトを下ろすのは、レオの特権だ。


 当たり前のようにその権利を行使していると、背後から熱い視線が刺さった。


「はああ、やはりモノホンは素晴らしいわ……! 萌え滾る……! クリスさんに伝言を頼んだ後、ここで張ってた甲斐があった……!」


 見なくても分かる。

 それを無視して行こうかと思ったが、気付いたユウトが地面に下ろした途端にぺこりと挨拶をした。


「あ、タイチさんのお母さん! こんにちは」

「こんにちは。うふふ、弟さんは今日も可愛いわねえ。あ! いいのよ前に出てこなくても、そのままお兄さんの腕の中で!」

「え、でも……」

「おうふ、腕の中から出ようとする弟さんを無言で阻止するお兄さんの拘束萌える……!」

「おお、来たな、あんたたち」


 馬車の来訪に気付いたミワの父も店から出てくる。

 これなら店に入らなくてもこの場で用事が済みそうだ。

 レオはタイチ母の言葉通りに腕の中にユウトを入れたまま、話を進めることにした。


「馬車の術式を改造できるようになったそうだな」

「そうなんだよ! ミワたちを間に挟んでだが、親父と義父がやりとりをしてな。俺たちも加わって、世話になったあんたたちのために、スーパーな改造計画が出来上がったぜ!」

「スーパーな改造計画、ですか?」


 術式をいじるだけかと思っていたが、何だかそれだけではなさそうだ。ユウトが首を傾げると、タイチ母が説明をしてくれた。


「この馬車に使われている術式はそれぞれが複雑に関わり合っていて、書き直すとなるとほとんど丸々変更になっちゃうの。だから、どうせならみんなで知恵を出し合って、とびきりすごい馬車に改変・改造しちゃおうって話になってね」

「うわあ、確かにそれはスーパーかも!」

「へえ、すごいね! 先代のお二人と当代のお二人と、もえすの二人が加わって一つの馬車を作るなんて、どんな素晴らしい仕上がりになるのか想像も付かないよ」


 レオの少し後ろでエルドワを抱き上げていたクリスも、興奮気味に食い付く。

 だが、レオだけは現実的だった。


「ちょっと待て。その心意気はありがたいが、俺たちが馬車を預けていけるのはせいぜい三日だ。そんなスーパーな改造できるのか?」

「え、三日? ……三日か……。せめて一週間は欲しいところだが……」

「取り急ぎ、重要な部分だけ先に改造してもらえばいい。仕様書はあるか? 構造上独立した部分で、後回しにできそうなものは今回は見送る」

「仕様書、見せるのかあ……。サプライズにしたかったんだがなあ」


 ミワ父が残念そうにしているが、こればかりは仕方がない。

 ……それに、この一族がくっつけるサプライズな機能に、あまり良い予感はしていなかった。今のうちに省いておくべきだろう。


 仕様書は店の中にあるということで、結局みんなでロジー鍛冶工房に入ることになった。

 その際にユウトと手をつないでいたらタイチ母にガン見されたが、まあ気にしない。


「はい、これが仕様書だよ」


 レオたちは店のカウンターに集まると、その上に広げられた仕様書を覗き込んだ。


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