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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】召喚された『あの魔物』

 アレオンが魔導書の表紙をめくった途端、一ページ目に描いてあった魔方陣から光が飛び出した。


 その光はアレオンの前で方々に落ち、地面に本の図と全く同じ魔方陣を作る。

 そしてアレオンが何もしなくても勝手に発動し、術式が展開した。


 完璧な全自動だ。

 さすが対価の宝箱、注文したことにはしっかり応えている。


 だが問題はここからだった。

 一体どんな魔物が召喚されてくるのか。アレオンは緊張しながらその出現を待つ。


 ……しかし警戒するアレオンを他所に、魔物は中々現れなかった。


(……なぜ来ない? まさか魔物を呼び出せる範囲が決まっているのか……?)


 チビの魔法によって、このあたりの術式を扱える魔物がいなくなってしまったのだろうか。

 そんな恐ろしい可能性を考えてしまう。

 せめてキイかクウのいる場所まで範囲内ならば、そのどちらかが使えそうなのだが。


 とにかくチビの命が尽きる前にどうにかしなくてはいけない。

 アレオンは何か連絡する術はないかとポーチを漁ろうとして、ふと、その口から召喚術と同じ光が漏れ出ているのに気が付いた。


(ポーチの口が閉じているせいで召喚されなかったのか……! いや、しかし何でこのポーチの中に召喚するものが……!? 俺は魔物なんて入れた覚えは……)


 困惑しながらも、おそらくここの中にいるのが、宝箱の妖精もどきが言っていた『あの魔物』なのだろうと推測する。

 彼女はアレオンのポーチにそれがいることを知っていて、『一番近くの魔物を呼び出す』という魔導書を出したのだ。


 確かにこれなら、確実に妖精もどきが狙った魔物が現れる。


 となると、このポーチの中には、アレオンの手に負えないような魔物がいるということになるわけだが。


(どういうことだ……? 俺のポーチにそんな魔物がどうやって侵入した……?)


 不可解極まりないが、ここで悩んで時間を消費している場合ではない。

 アレオンは思い切ってポーチを開けた。


「くっ……!?」


 すると次の瞬間。

 魔方陣がまばゆい光に溢れ、ようやくその中央から魔物が姿を現した。光を反射して輝く、つるんとした……。


「……ドラゴンオーブ……?」


 そこにぽこんと現れたのは、アレオンが拠点から持ち出したドラゴンオーブだった。

 ただ、アレオンが手にしていたときは水晶のようにもっと透明だったはずだが、今は深い緑色をしている。どういうことだ。


「これが、魔物……?」


 呼び出せたからには、チビの記憶を消す術式を発動できる魔物扱いなのだろう。しかし、意思の疎通はできるのだろうか。

 何にせよ、やってもらわないと困る。確か魔導書に詳細は書いてあると言っていたし、動けるはずなのだ。


「おい、早く魔法を発動してくれ!」

「……しばし待て。この姿では難しいのじゃ」


 余裕なく急き立てたアレオンに、予想外の返事が返ってきた。

 なんとこのドラゴンオーブ、話せるのか。

 いや、驚いている場合ではない。


「何でもいいから急げ! チビの身体が保たない!」

「……わしに命令とは、身の程知らずじゃのう。……まあ、こうして再生成の機会をくれたことには、報いんといかんか。どれ」


 ドラゴンオーブはそう言うと、その場で転がるようにくるくると回る。それだけで魔方陣の色が変わった。


「設定された術式は記憶の封印シールか……まあ、この辺なら問題なかろう。対象は……ほう、これは世界の愛し子……。よしよし。これは面白い」

「おい、早くしろ!」

「分かっておる」


 アレオンの言葉に応じたドラゴンオーブは、さらに転がりながら、古代語の詠唱を始めた。


 その間に、チビが気を失って落ちてきても受け止められるように、アレオンはその姿を探す。

 すると、天井すれすれの高さのところにチビの羽の光があるのを見付けた。


 さっきは触れることもできなかったが、あれはチビの拒絶もあったからだろう。気を失っていれば平気なはずだ。防御系の術式は、基本的に敵意のないものを拒むことはない。


「では、行くぞ小童こわっぱ

「とっととしろ!」


 ドラゴンオーブに声を掛けられて、それに粗く返す。

 アレオンとしては早くこの魔法を止めたいのだ。

 その言葉遣いに何かぶつくさと文句を言っているけれど、とりあえず無視をする。


 まあそれでも、あまり気にしない質なのだろう。

 すぐに最後の詠唱を済ませたドラゴンオーブから、光の帯が伸びた。それは炎を貫き、チビのいる場所を直撃する。


「よっしゃ、ナイスコントロールじゃ! さすがわし!」


 満足げなドラゴンオーブは放っておいて、アレオンはチビの羽の光が消えたのを見、その真下に走り込んだ。

 その身体を、腕の中にしっかりと受け止める。


 落ちてきたチビは血色のない青白い顔で、くたりとして気を失っていた。


「……これで、もう記憶は封印されているのか?」

「もちろん、ばっちりじゃよ」


 ドラゴンオーブも魔方陣ごと、走ったアレオンの後について来たらしい。

 振り返ると、彼(?)もアレオンの周りにだけ張られている魔法防御壁の中に入ってきていた。


 というのも、チビが気を失ってなお、周囲ではホーリィの魔法が渦巻いているからだ。

 アレオンはそれに眉を顰めた。


「チビが気を失っているのに、ホーリィが消えない……? どういうことだ」

「ホーリィは一度発動したらキャンセルが利かないのじゃよ。つまり、その子どもが死ぬまで消えないということじゃ」

「何だと……!?」


 それでは全く意味がない。

 慌てたアレオンに対して、ドラゴンオーブはのほほんと言った。


「ホーリィは『命を賭して』の呪文じゃ。最初に命を捧げておるのよ」

「そんな……! どうにかならないのか!?」

「この世界で魔法を唱えるということは、そういう理に従うということじゃ。それをどうにかしろとは」

「そんな理、どうにかぶち壊せないのかと訊いている!」

「……ぶち壊すとは、また乱暴じゃのう」


 アレオンが物騒なことを言うと、ドラゴンオーブは言葉とは裏腹に、何だか楽しそうに左右に揺れた。


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