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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】アレオンの覚悟

「……分かった、出て行く」


 アレオンは意を決して、扉の陰から出て行った。

 そして叛意を見せないよう、握っていた剣を床に落とす。


 それを見たジアレイスは、勝ち誇ったように口端を上げ、チビのこめかみに当てていた銃口を再びアレオンに向けた。


「クク、情に流されるとは何とも愚かな……。まあ、こちらとしては好都合。アレオン、その剣をもっと遠くまで蹴り飛ばせ」


 アレオンは舌打ちをしつつも、言われた通りに足元の剣を通路の奥に蹴り飛ばす。


「……これで満足か」

「よろしい。では愚かな剣聖よ、覚悟はいいな? さっきはどんなトリックを使ったのか知らんが、今度こそ終わりだ。安心しろ、貴様の死体は有意義に使わせてもらう」

「……さっきも言ったが、俺は死体になったっててめえの思い通りにはならねえよ」


 そう返したアレオンの言葉を、ジアレイスはただの強がりと受け取ったのだろう。さらに性悪な笑みを見せた。


「それはそれは、どれだけ反抗的な死体になるか楽しみだ」


 その魔導銃が、アレオンの心臓に照準を定める。

 つい恐怖を感じてしまうのは、その銃口がそのままチビを狙っているのと同じだからだ。


 あのアミュレットがあれば大丈夫なはず、だけれど。

 大事な者が目の前で命を落とす様を、平常心で見れる人間などきっといない。そういう存在を手に入れてしまったアレオンだって、例外ではないのだ。


 今から起こることは、自分が死ぬことよりずっと恐ろしい。

 だがこれは、チビがくれた唯一の脱出口。

 無駄にするわけにはいかなかった。


(……チビが身代わりになるということは、おそらく銃が発射された後に俺の盾として目の前にチビが召喚されるんだろう)


 銃の軌道がいきなり変わるとも思えないし、チビがアレオンに対してお守りをずっと身に着けておけと言ったのは多分そういうことだ。

 これなら確実にジアレイスからチビを取り返せる。


「……撃つならとっととしろよ」


 チビが撃たれるのは苦痛だが、こうして子どもがジアレイスの支配下に置かれているのも苦痛。

 ならばさっさと取り返したいと、アレオンは目の前の男を促した。


「もちろん、そうする。……だが、万が一ということもあるからな。何かあった時のために『あれ』を呼んでおこう」

「あれ……?」


 もしかして『あれ』のことか。

 眉を顰めたアレオンの前で、ジアレイスはそれを呼び寄せた。


「対価の宝箱よ!」


 やはりそうか。

 男の呼びかけに応じて瞬きの間に現れた宝箱に、アレオンは内心で舌打ちをした。


 あの小部屋にあった、ジアレイスの対価の宝箱だ。

 あれからまた何か取引をしたのか、もうほぼ真っ黒になったそれは、禍々しさを感じさせる。

 この汚染具合、もはやジアレイスはこの宝箱から離れることはできないだろう。


 宝箱の本を読んでこの存在を知っていたらしいチビも、それを見て青ざめた顔をした。


「……よし。これさえ側にあれば、何があっても対応できる。待たせたな、アレオン。すぐに輪廻の輪に送ってやろう」


 こうなると、アレオンも対応に迷うところだ。

 チビを取り戻したらジアレイスを殺そうと思っていたけれど、すでに何かのアイテムを持っていて返り討ちにあう可能性もある。

 そのまま逃げても、自分たちを捕まえるアイテムを用意する時間を与えてしまう。


 チビを回収してすぐに外に転移できれば良かったが、今はライネルがこの周辺の転移を封じているからそれも敵わない。


(走って逃げるにも、チビを結界から出す手段がない……)


 再び苦悩に取り憑かれたアレオンに、ジアレイスが鼻で笑った。


「どうしたね? 今更難しい顔をして。どうせ死ぬのだから、天にでも祈っておけばいいだろう。……ほら、管理№12。貴様もアレオンに惜別の言葉でも贈ってやれ」


 いきなり水を向けられたチビは、無表情を装って頷く。そして悩むアレオンに向かって、宥めるように言った。


「お兄ちゃん、大丈夫だよ」

「……チビ?」


 そこに含まれる意図を掴み損ねて、アレオンが訊き返す。

 しかしすぐにジアレイスに割り込まれた。


「大丈夫、死ぬのは一瞬だ、怖くないということだろう。達観した子どもじゃないか。なあ?」


 何とも勝手な解釈。

 どこか揶揄するような口調でそう言った男は、今度こそ引き金に指を掛けた。


「それにどうせすぐにライネルも送ってやる。二人なら心強かろう」

「……そう簡単に行くと思うなよ」

「ふん、無駄な脅しだ。……さあ、死ね!」


 言葉と共に魔導銃のトリガーが強く引かれ、その銃口に魔法が発現する。

 それを見てはらはらしながらも、アレオンは動かずに待った。ジアレイスからチビを取り戻すために。


 次の瞬間、銃から放たれた魔法が尾を引きながらアレオンに向かう。それと同時に、チビの足元とアレオンの目の前に召喚の魔方陣が浮かび上がった。


 それは本当に、ほんの僅かな時間。


 チビがジアレイスの元から消え、アレオンの前に出現する。

 そして即座に、アレオンが狙われた場所、心臓のど真ん中を打ち抜かれた。


「ぅあっ……!」

「チビ……!」

「な、何だと……!?」


 こちらに背を向けた状態でも、即死の攻撃を受けた衝撃が分かる。

 構える暇もなくダメージを食った子どもの身体がぐらりと後ろに傾いで来たのを、アレオンは慌てて抱き留めた。


 その顔には血の気がなく、身体はぐったりと弛緩している。……見るからに死んでいる。その胸元で、蘇りのアミュレットが淡く光ってはいるが。


「チビっ!」

「な、なぜ管理№12が……。貴様、何をした!?」


 思わぬ展開に、ジアレイスも動揺している。

 そこにつけ込めばいいのだろうが、アレオンの動揺はそれ以上だ。

 チビがしっかりと蘇生するまでは気が気ではなく、周囲のことなど何も入ってこなかった。


「チビ……! 目を……目を覚ませ!」

「くっ、仕方ない、こちらだけでも……!」


 アレオンより先に我に返ったジアレイスが、再び魔導銃を構える。

 どうやらまだ魔力の弾が残っているようだ。

 今度こそアレオンの心臓を打ち抜こうと、男は照準を定めた。


 チビを抱えて、隠れられるところまで移動する余裕はない。

 ジアレイスの動きに今更気付いたアレオンだったが、もはや打つ手は限られており、自分も覚悟を決めた。


(こうなったら、相打ち覚悟でジアレイスを殺しに行くしかない……!)


 何か別のアイテムを持っていたとしても、一撃食らわせることができればどうにかなる。剣がなくてもそれなりに体術の心得はあるのだ。奴が対価の宝箱に頼る前に決着を付けられれば、それでいい。


 蘇りのアミュレットは作動しているから、まもなくチビは目を覚ますはずだ。魔法の使えない子どもは再び魔研に捕まるかもしれないが、ジアレイスさえいなくなればカズサかライネルたちがこの子を救い出してくれる。


 捨て身の攻撃ではあるが、これはアレオンにとってはだいぶ上等な最期と言えた。


(この命を、チビを救うために使えるなら)


 死に向かう前に一度だけ、チビのまろい頬を撫でる。

 すこし頬の赤みが戻ってきただろうか。


 アレオンはそれを感じながら思いの外穏やかな気持ちで死を覚悟し、そのまま引き金が引かれる前に飛び出そうとした。


 しかし、不意に。

 頬を撫でていたアレオンの大きな手を、小さな手が止めた。


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