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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】チビの持つ一度だけの救い

「チビ……っ!」

「来たな、アレオン!」


 しかし真っ正面でこちらに向かって銃を構えるジアレイスに、自分が一足遅かったことを知る。

 チビはというと、おそらく人質としてだろう、銃を持つのと逆の腕で盾にするように捕まえられていた。


「くらえ!」

「ちっ……!」


 ジアレイスと目が合った途端、即座に魔導銃が放たれて、アレオンはとっさに壊れた扉の陰に隠れる。代わりに魔法を受け止めた金属の板が、衝撃で大きな音を立てて変形した。


 チビを側に置いた上であれだけ精度の高い飛び道具を持たれると、かなり厄介だ。

 隙を突いて飛び掛かったところで、さっきのように物理攻撃を反射されたら意味もない。いや、チビを盾にしている時点でもう物理反射も切れているのかもしれないが、どちらにしろそれを試すにはリスクがでかすぎた。


 今度の魔導銃には何発分の魔力を込められたのか、それだけでも分かればいいのだが。

 アレオンは攻め手に困って沈黙した。


「クク、この半魔がいると本当に手が出せなくなるようだな。何事にも無関心だった男が、まさかこんな子どもに執心するとは」


 揶揄するような言い方にカチンとくるが、こんなところで感情的になっている場合ではない。

 アレオンは通路側に隠れながら、入り口の脇から中を覗きつつ反論した。


「……まあ、金と地位しか縋るものがないてめえには分かんねえよ」

「分かってないのは貴様だ。この世界、金と地位が全てを凌駕する。……私は貴様らを消し、揺るぎない地位と財産を手に入れるのだ」


 もはや隠す気もない国家簒奪の野心。

 アレオンは当然、そんなものを許すつもりは微塵もない。

 ではどうすればいいか。


 チビが人質に取られている限り、隷属術式を返上することはできない。無理に攻撃に行って魔導銃で撃ち抜かれれば、チビが身代わりになって死ぬ。

 そうなると思考は袋小路に陥って、アレオンは再び黙るしかなかった。


「どうやら貴様のおかげで、主導権はこちらにあるようだ。管理№12」


 アレオンの様子にニヤニヤとやに下がったジアレイスは、おもむろにその魔導銃をチビのこめかみに押しつけた。

 それだけで、アレオンの背筋が凍る。


「何のつもりだ……! チビが死んだらてめえも困るくせに、そうやって脅そうとしたって……」

「確かにこれが死んだら困るが、それ以前に私が死んだら元も子もない。……これは駆け引きだ、アレオン」


 まるで勝利を確信したように、ジアレイスは顔を歪めて笑った。


「魔法が使えなければただの非力な子ども。この哀れな管理№12を死なせたくないなら、貴方の命を差し出すことだな」

「……っ、それは……」


 この後にチビが平和に幸せに暮らせるのなら、この取引にも意味はある。

 だが、アレオンが命を捨てたとしても、チビは結局その命をこの男に消費されるだけなのだ。承諾などできるわけもない。


 それに何より、アレオンが命を捨てる前に、まずチビが身代わりで死ぬ。どこまで行っても八方ふさがりだった。


(どうすればいい……どう動いてもチビが死ぬ結果にしかならない)


 苦悩して返事のできないアレオンに、ジアレイスはさらに追い打ちを掛けようとチビをけしかけた。


「さあ、管理№12。貴様からもアレオンに助けを求めたらどうだ。自分のために死んでくれ、と」


 未だにチビを使役していると思い込んでいるジアレイスの言葉。それに頷いた子どもは、少しだけ顔を覗かせたアレオンに視線を合わせた。


「お兄ちゃん、ぼくのために死んで」


 チビが手振りをしながら、ジアレイスに言われた通りの科白を言う。

 それはアレオンの感情を激しく揺さぶった。

 言わされたのは分かっている、だがその言葉の重みが違うのだ。


 ……チビにこんなことを言わせやがって。


 そして言わせたジアレイスは、自分で仕向けておきながらチビが言葉を発したことに驚いているようだった。


「貴様、言葉が話せたのか……。まあ、それなら都合がいい。アレオンをそこの陰から出てくるように説得しろ」


 そう言われて、チビはまた手を動かしながらアレオンを誘う。


「お兄ちゃん、そこから出てきて。……大丈夫、すぐに終わるよ」


 チビの口を通して出た言葉は、重く響くから困る。


 しかし、付け足された『大丈夫、すぐに終わる』というその言葉に、アレオンは目を瞬いた。

 ジアレイスが聞けば、アレオンを苦しむことなく一撃で死なせるようなニュアンスに聞こえるだろうけれど、違う。


 これは指示された言葉ではなく、チビが選んだ言葉。

 何か彼の意図があるのだ。


 そういえば、チビはさっきからしきりに手を動かしている。

 これにも何か意図が……。


 そう考えた時、アレオンは子どもが首元に着いているアミュレットを触っているのにはたと気が付いた。

 見覚えのあるそれを、数多の記憶の中から探る。


 あのアミュレットは確か、ずいぶん前にどこだかのゲートのボスの宝箱で出た……。


(そうだ、あれは蘇りのアミュレット……!)


 チビはいつもそれをローブの下に隠していたから、すっかり失念していた。

 あれは死亡確定のダメージを食らっても、一度だけ蘇生させてくれるレアアイテム。


(一度だけ、チャンスがある……!)


 チビを失うことなく、状況を打開できるかもしれない。

 その瞬間、八方ふさがりだったアレオンの思考に、一筋の光が差した。


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