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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】ジアレイスの思惑

「……管理№12を奪いに来たということは、これまでその半魔を匿っていたのは貴方だったのですね。全く、道理で見つからなかったわけだ。……ですが、これで犯人は捕縛した。この償いはしていただきましょう」


 チビを抱くアレオンを見て、ジアレイスはこれまでの事を察したようだった。

 アレオンという人間が、何の関係もない子どもを抱き上げることも、救い出しに来ることもありえないと知っているからだ。


 その上で、まるでチビといることを罪のように言う男に、アレオンはチ、と舌打ちする。


「はっ、償うのはてめえの方だろ。非人道的な実験や裏での取引、国費の使い込み、ひとつ残らず兄貴に罪状を論われただろ?」

「ふん、あれは全部陛下に許可をいただいていました」

「……まあ親父は書類に目を通さないでハンコ押すだけの節穴野郎だったからな。てめえに良いように使われてんのにも気付かねえ愚物だし」


 アレオンは吐き捨てるように言った。

 手足は何かに抑えつけられて動かないが、口は動かせるようだ。


 そんなアレオンの言葉に、ジアレイスは芝居がかった様子で嘆息して見せた。


「父王に向かって、何という言いぐさ……ああ、ライネル殿下も、アレオン殿下も、まことに蒙昧で愚か。このようなお世継ぎでは陛下も浮かばれない。……エルダールの血は、ここで絶やすべきだ」


 その言葉は、エルダールへの明らかな反逆。


「おいおい、その言い方、まるでエルダール王家を潰そうとでもいうようだな」

「これは国民のための仕方のない世直しですよ、殿下。……いいえ、アレオン。父王を手に掛け、その忠臣たる私の爵位を奪おうとする逆賊ライネルは倒さなければならない。同じ血を分けた貴方も」


 国民のためなどと、思ってもいないことを言いやがる。

 アレオンは呆れたように言い返した。


「第一王子の兄貴を倒したら、てめえの方が逆賊だろ。親父と兄貴の人望の差、知らねえのか?」


 父殺しに対して批難をする者は出るだろうが、それを差し引いてもライネルの方が国民人気は断然高い。そのライネルを倒したとなれば、ジアレイスに従う者がそれほど現れるとは思えなかった。


 そもそもエルダールを廃して新興国を作るには、この男には人徳も知名度もなさすぎる。


 しかしそう言ったアレオンに、ジアレイスは口元を歪めて笑った。


「でしたら、ライネルにはもうひとつ罪を被っていただきましょう。弟殺しの罪をね」


 言いつつ、男が懐から魔導銃を取り出す。

 魔導銃は凝縮した魔法を撃ち出す魔道具だ。まほうの影響範囲を一点に絞ることで、殺傷能力を増した武器。


「あなたの人気はライネルに勝るとも劣らない。王位を簒奪するために弟まで手に掛けたとなれば、彼の人望は失墜するでしょう。……今回の襲撃を見るに、貴方がた兄弟は裏で手を組んでいたようですが、世間一般には不仲が噂されていますからね」

「……俺を殺してその罪を兄貴に擦り付けようってわけか。だが、てめえらで兄貴とルウドルトの部隊を倒せるわけねえだろ」

「それはどうでしょう?」


 ジアレイスは、にぃと口端を上げた。

 その表情に、アレオンは訝しんで眉を顰める。

 もはや戦力となる半魔がほとんどいない魔研が、アレオンも実力を認めているルウドルトを撃破できるとは、到底思えないのだが。


 そのほとんどいない半魔も、今表で当のルウドルトたちと戦っていて、だいぶ数を減らしているはずだった。


 だが、ジアレイスは慌てることなく構えている。


「ルウドルトは面倒な男ですが、唯一勝てない相手がいる。それを当ててやればいい」

「勝てない相手……?」


 アレオンが知る限り、ルウドルトを負かせるような相手は他にいない。そう、自分以外には。


 そう考えて、アレオンは不快げに顔を歪めた。

 つまり、もしかして、そういうことなのか。


「てめえ、何を考えてやがる……」

「管理№35と36には逃げられてしまいましたが、代わりの依り代として世界最強の『剣聖』の死体が手に入る。キーとなる管理№12と不老不死のドラゴンの肉もある。これで……」


 やはり、死んだ後のアレオンを何かに利用しようと企んでいるらしい。今まで普通に人間と魔物の合成をしてきたジアレイスには、そうすることに何の躊躇いもないようだった。


(……一体、何を作り出すつもりだ)


 訝るアレオンの腕の中で、チビが動揺してぎゅうとこちらの胸に縋ってくる。

 その背中を撫でて宥めてやりたいが、手足は動かないままだ。

 だがこの子どもだけでも、どうにか救わねば。


「……残念だが、このチビがいても、俺の死体があっても、てめえの思い通りにはならねえよ。ドラゴン肉がどこかに行っちまったからな」

「……何?」


 もしも自分が死んでも、奴らの妙な計画が頓挫すればチビがすぐに消費されることはないだろう。アレオンはそれを期待して、とっさにさっきポーチの中で行方を見失ったドラゴン肉を引き合いに出した。


 するとここまで笑みすら浮かべていたジアレイスが、途端に顔色を変える。


「貴様、ドラゴン肉を持ち出したのか!? あれは特に稀少な不老不死のドラゴン、グラドニの最後の一欠片……。どこに隠した!?」

「隠したんじゃねえよ。どこかに消えたって言ったろ」

「嘘を吐くな! ドラゴンの肉は依り代がないと何の行動も起こせないはずだ!」

「知らね。何にせよ、もうてめえらがこの子どもを捕まえてたって意味がないぞ」


 アレオンの言葉に、男はかなり動揺をしたようだった。

 まあ法外な対価を支払って手に入れたアイテムだ。それが消えたと言われたら慌てるのも当然か。もちろん同情なんてしないけれど。


「ふ……ふん、どうせそのポーチの中に隠しているのだろう。私を慌てさせようとしてもそうはいかん。そうだ、貴様を殺してからゆっくり回収すれば良いこと」


 しかしやがて、少し落ち着きを取り戻したジアレイスは、忌々しげにアレオンに魔導銃の銃口を向けた。


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