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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】チャラ男の偵察

「うわ、めっずらしい~アレオン殿下、チーッス。カズさんまで、どうしたんすか? 突入決行日は明日っしょ」


 魔研近くの森に飛ぶと、アレオンとカズサはそこで偵察をしているチャラ男のところに向かった。


 そして会った途端にこのフランクさである。

 その軽すぎる口調をいつもルウドルトに叱られているようだが、未だに直す気はないらしい。


 今日も今日とて場違いでラフな挨拶に、カズサが苦笑をした。


「この超不機嫌なアレオン殿下相手に、よくそんなあっけらかんとした挨拶できるなあ、お前……。ある意味尊敬するわ」

「俺は他人の機嫌に振り回されない男だし?」

「おお、何かかっこいいっぽいこと言ってる。……まあ、空気は読む男だけどね」

「そりゃーね。……今も読んでるとこだし」


 そう言いつつ、チャラ男はにんまりと笑って耳元の宝石のついたピアスをピンと指で弾く。

 それからしぃ、と口元に人差し指を当てて、こちらを黙らせた。


 ……何なんだ?

 そのまま黙々とメモを取り始めた男に、アレオンが首を傾げる。


「……こいつは、何をしている?」

「チャラ男くんは今、魔研内部の偵察をしています」

「内部の?」

「ルウドルトが魔研の視察に入った時なんかに、あちこちに感知用の魔法鉱石を隠しておいたみたいです。その付近の空間で発動された魔法や人の移動なんかを、仕掛けておいた鉱石を通してチャラ男が感知してるんですよ」


 なるほど、空気が読めるとはそういうことか。

 彼らは事前にこの下準備もしていたのだ。


「……なら、チビが魔研にいるかどうかも分かるな?」

「多分。……でもちょっとだけ待ってて下さい。今何か魔研の中で動きがあるみたいです」


 二人の傍らで、チャラ男が読み取った内容をメモに残していく。


 速記で書かれたメモは、アレオンが横から見ただけでは難解でよく分からなかった。

 もしかすると隠密用の暗号なのかもしれない。

 当然カズサは読めるようで、それをまじまじと眺めている。


「魔研の連中が地下に移動しているみたいですね。その中に、正体不明の大きな魔力を持つ者が一人……」

「正体不明……? 大きな魔力を持つなら、チビじゃないのか?」

「可能性は高いです」


 二人でこそこそと話していると、メモをとり終えたチャラ男がようやくこちらを向いた。


「何すか、この正体不明の魔力の持ち主って、アレオン殿下の噂の可愛い子ちゃんなん? ついさっき突然魔研の中に出現したんだけど」

「ついさっき……間違いない、やはりチビは魔研に引っ張られたのか!」

「チャラ男くん、その直前に何か魔法が発動した形跡はあった?」

「あー、何か召喚術っぽい魔術の発動があったなー。特殊な波長だったから多分巻物(スクロール)系アイテムを使ったんだと思うっすけど」

「アイテム……」


 そう聞いたアレオンは眉を顰めた。

 術式ではいかんせん打つ手無しで、ジアレイスが対価の宝箱に縋ったのではないかという予想が当たったかもしれないからだ。

 つまり、そこまでしてチビが必要だったということ。


(ジアレイスはチビに何をさせる気なんだ……?)


 その目的は未だによく分からない。

 だからこそ、チビがどんな目に遭わされるのか分からなくて恐ろしい。


「おチビちゃん、地下に連れて行かれたんだよね。地下って何があるの?」

「地下はルウドルトも入れなくて、魔法鉱石を設置できなかったからよく分かんねっす。ただ、そこから研究員が魔道具を持ち出してきたり、上階に魔術の伝播が届いて来たりするんで、重要な術式関係のスペースなんじゃねえかな~と思ってるんすけど」

「キイとクウも地下には防衛術式など重要なものが置いてあると言っていた。……そんなところにチビを連れて行って何をするつもりなんだ……?」


 今すぐ突入して連れ戻したいが、おそらく魔研の地下は物理特化のアレオンが力尽くで破れるほどヤワじゃない。

 何にせよ、相応の打開策を考えねばならないだろう。


 それに、他にも色々懸念があった。


「……チビの首輪の絶縁体、見つかっただろうな」

「あー、そうですね。おそらく壊されたんじゃないかな。また感情封印と使役が付いちゃいますね、可哀想に」

制御不能アウトオブコントロールもな。……もしも俺が突入したときに使役をされたチビが差し向けられたら、正直どうして良いか分からん」


 チビの首輪による使役が復活したらどうなるのか。

 一応アレオンも隷属術式によってチビを使役できるが、相反する二つの命令を受けた場合、先に受けた命令が優先される。


 つまりジアレイスが先に『侵攻者を殺せ』という命令を出したら、アレオンが何を言おうとチビはガス欠になるまで止まれないのだ。


「まあ、殿下はおチビちゃんに攻撃なんてできないでしょうね。だからってあきらめて死んだりしないで下さいよ。とりあえずおチビちゃんがガス欠になるまで逃げ切れば、どうにかなるでしょうから。……そういう点では制御不能はありがたいかも」

「チビが魔力を使い尽くすまでか……難易度が高いな」


 おそらくそれは、ランクSSゲートのボスと戦うよりも難しい。

 アレオンは渋い顔をした。


「人質に取られるのと刺客として差し向けられるの、どちらがマシかというところですけど。逃げ回れるだけまだ刺客の方がいいでしょ」

「だがチビが刺客になってしまうと、キイとクウを部屋から出させて防衛術式を破壊してもらうという計画がなりたたなくなる」

「だから、おチビちゃんがガス欠になるまで頑張るんですよ。おチビちゃんが気を失ったら、キイとクウの出番でしょ」

「キッツいな……」


 だが現状、それが一番マシか。

 覚悟を決めたアレオンは、渋い顔のまま腕を組む。


「キイとクウが出てくるまでは、俺の正体も覚られない方がいいか」

「そうですね。二人が殺したはずのアレオン殿下が生きて現れたとなったら、彼らにも疑念が向きますから」

「それから魔研を攻撃する理由は、チビを助けるためではなく『ムカつくから』でいいな」

「いいですね、脳筋ぽくって。今はそうして不満をくすぶらせている者も多いですし」


 そんな話をしていると、黙って横で聞いていたチャラ男が怪訝な顔をした。


「んん? 『ムカつくから』って、何言ってんの二人とも。明日の討伐は腐った政治を断ち切って、新たな時代を作るためのクーデターっしょ?」

「まあそういう計画だったんだけどね。アレオン殿下はおチビちゃんをさらわれてご立腹なのよ」

「……明日までなんぞ、待ってられるか」

「ということで、これから突入します~って、ライネル殿下に伝えに帰って」


 アレオンとカズサがそう伝えると、チャラ男は信じられないものを見るように目を見開いた。


「はああああ!? 正気っすか、二人とも!?」

「マジマジ。……ところで、陛下は今どこにいるか分かる?」

「ええ~……? 一応研究棟とは別の、居住棟にいるっすけど……」

「だったら大丈夫かな。チャラ男くん、帰って今の俺たちの会話ごと、ライネル殿下に報告して。あの人なら上手いことやってくれるでしょ」

「……これ命令違反なんだけど、アレオン殿下に責任丸投げで良っすか?」

「構わん」

「じゃあ了解っす」


 責任をアレオンに渡すと、チャラ男はあっけらかんと了承した。

 もちろんそれが王子アレオンの希望だからというのもあるだろうけれど、一番はそれを後押ししているのがカズサだからなのだろう。

 彼らには強い信頼関係があるようだ。


「チャラ男くんは聞き分けが良くて良い子だね。はい、アメちゃんやろう」

「うぇーい、アメちゃん!」


 ……まさかアメちゃんのためではあるまい。


誤字報告下さる方、いつもありがとうございます。

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