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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前】ヴァルド、チビの首輪を無効化する【回想外】

「この首輪……ヴァルドさんは外せるの?」

「私の魔眼があれば、術式を書き換えて無効化することが可能です。……今は特上魔石によって首輪の影響を防げているようですが、これがある限りあなたの身は奴らに囚われたまま。その鎖を解き放ちましょう」


 ヴァルドは手を伸ばし、チビの首輪に触れた。

 そして組まれている特上魔石の外側のピースをひとつだけ外す。特上魔石の絶縁機能が魔眼を通さないからだ。

 そうして準備をした彼は、先に断りを入れた。


「外して差し上げる……と言いましたが、本当に外してしまうと私の来訪を他の者に覚られてしまいます。術式を完全に無効化だけして、再び形は元に戻しますが、よろしいですか?」

「うん。外れちゃうとぼくも説明に困るし、それでいい」

「では、そのままじっとしていて下さい」


 チビの了解を取って、ヴァルドはすぐに作業に入る。

 小さくできた隙間だけでも、術式を引き出すには十分らしい。

 ヴァルドが首輪を魔眼に映し手を横に滑らせると、読み取った術式が空中に浮かび上がった。


 その表示は三つのブロックに分かれている。

 おそらく使役、感情封印、制御不能それぞれの術式だろう。


 そこに並んだ文字列を、ヴァルドは指先を使って書き換えていく。

 その動きは単語と単語を置き換えて、術式を相殺しているようだった。


「……やはり、この首輪は魔研の人間が作ったものではないな……。術式自体は何かのアイテムのものを参考にしているようだが、ブースターに魔界古語が使われているし、解除のパスワードは言語ですらない……。これは、まさか……」

「……もしかして、無効化できない?」


 指を動かしながらも眉根を寄せて難しい顔をしているヴァルドに、チビは不安になって訊ねる。

 しかしそれに気付いた彼は、すぐに眉を開いて首を振った。


「私の威信に掛けて、術式は無効化してみせます。ご安心を。……ただ、この首輪の作り手が気になっただけです。少し、術の構成が特殊だったもので」


 術式というものは書式がきっちりと決まっているわけではない。

 必要な要素を不足なく入れ、それをどうつなげて組み上げるかによって威力や影響範囲などが変わる。

 つまり、術式作成の上手い下手など、個人差が現れるのだ。

 他にも師事した術士によって、流派や家柄が出る。


 ヴァルドが術の構成を特殊と言ったのは、その術式の組み方に他にはない特徴があるということなのだろう。


「とりあえず使役と感情封印に、制御不能のコードから抜き出した文言をぶつけて反応させれば相殺……。可に不可を合わせる、順と逆を組む……よし、プロテクトを破壊」


 ぶつぶつと呟く彼の手元で、術式がみるみる削られていく。

 チビはそれを感心しながら眺めていた。

 高位魔族の血統が魔眼で術式の書き換えができるのは、魔力だけでなく、それを使うに足る知識も兼ね備えているからに違いない。


「すごい……もう術式が消えちゃう」

「……はい、これで終了です」


 首輪から引き出されていた術式が消えて、ヴァルドは外していた特上魔石のパーツを再びはめた。

 見た目はまるで変わらない、けれどもう中身は空っぽだ。

 今後チビが、ジアレイスたちに使役されることも探知されることもない。


「ありがとう、ヴァルドさん!」

「礼には及びません。今後お力添えできない分、ほんの少しのご奉仕です」


 そう言ってヴァルドは気弱な微笑みを浮かべた。


「あとは是非、羽を取り戻して下さい、救済者。世界の希望たるあなたが、世界の簒奪者に屈しないように」

「……世界の簒奪者?」

「輪廻の外からこの世界を狙う者のことです。長くこの世界に潜伏していますが……現在はエルダール王家に憑いていると思われます」

「エルダール王家……!?」


 その家名に、チビは驚愕する。

 エルダール王家、その中にはもちろんアレオンも含まれるからだ。

 彼にも何か影響があるのだろうか。

 それを訊ねてみたいけれど、他人にアレオンがエルダールの王子だと知らせてしまうのは禁じられている。


 チビは僅かに逡巡して、別の質問を投げかけた。


「……その世界の簒奪者っていうのに憑かれると、どうなるの?」

「輪廻の外にいる者というのは、世界の理に縛られない者。その者は、人の願いを奇跡のように叶えてくれるんです。その代わりに、代償として大きな負債を被せてくる。……憑かれると、そうした負債から逃れられなくなります」

「簒奪者が被せてくる負債って?」

「その目的自体は分からないのですが、どこの村を潰せとか、どこの地脈を塞げとか、世界を意のままに操るための要求です」

「それが王家に……っていうことは、その負債って個人じゃなくて家系で引き継がれるってこと?」


 世界で一番力のある一族に憑いておけば早いということか。

 だとしたら、子孫には酷いとばっちりだ。


「その負債は、エルダール初代王からずっと引き継がれているようです。多少負債を解消すれば、また新たな願いを叶えてもらえて、さらに負債が増える……。そういうサイクルでここまで来ています」

「ええ……完全に負債を消そうとする人はいなかったのかな」

「途中、ほんの数人ですがそういう者もいました。しかし結局他の一族の者が欲に負けて、その者を排除し王位に就いて、負債を増やし続けています」


 その負債は現在アレオンの父が負っていて、まもなくライネルがそれを負うことになるのだろうか。

 チビはライネルと直接会ったことはないけれど、アレオンに話を聞く限りかなりまともな人間だ。もし彼が負債を解消できるなら、幾分安心できる気はするが。


「ライネル殿下が王様になったら、大丈夫じゃない?」

「……そうですね。ライネル殿下はかなり聡明な方。負債の解消に動く可能性はあります。……ただ彼にもリスクとして、血の繋がった弟がいる」

「え、アレオンお兄……アレオン殿下が、リスク?」


 ヴァルドからリスクとしてアレオンの名前が出たことに、チビは目を丸くした。


 あの二人の仲は良好だし、アレオン自体、王位にはまるで興味がない。ライネルの行動に口出しするようなことはない、はずだ。


 しかし首を傾げたチビに、ヴァルドは言葉を連ねた。


「アレオン殿下には世界を動かす実力がある。世界の簒奪者はそういう者の前に、欲の釣り糸を垂らします。その気がなくても一度引っかかってしまうと、容易には抜けられなくなる」

「欲の釣り糸……?」

「欲を満たすだけに限らず、不安や悩みを解消する、恨みを晴らす……それが叶う宝箱を、目の前に置くんです」

「……宝箱……」


 宝箱を見つけると、自分なんかはわくわくしてすぐに開けに行ってしまうけれど。

 しかしアレオンはそれを無視することに慣れている。無欲でお金やアイテムに執着することもない。

 だからきっと、大丈夫だ。そんな宝箱に引っかからない。

 そうチビは結論付けた。


「その宝箱は、開けられなければ問題ないんでしょ?」

「まあ、そうですね。ただ宝箱は世界を混乱させる目的で、地位や性格などにかかわらず、実力を持つ者の前に現れることもあるんです。……つまりアレオン殿下の反応が悪ければ、他の者の前にエルダール王家そのものを潰すための、別の宝箱を置いている可能性があるわけです」


 その宝箱は望みを何でも叶え、さらなる欲望を刺激するらしい。最初はささやかだった望みが、次第に強大な野望になってしまう。

 そしてそれを成しえるだけの力を与えられ続け、やがてその能力への依存から抜けられなくなるのだ。


 ……そしてその野望が新興国の樹立なら、簒奪者はその者に負債を被せて支配下に置けばいい。扱いづらくなったエルダールに固執する必要はなくなる。


「……それって世界の簒奪者が他の人を焚き付けてエルダールを潰して、自分の言いなりになる王国を立ち上げるってこと?」

「簡単に言えばそういうことです」

「そんなの駄目!」


 チビは思わず声を上げた。

 せっかくアレオンとライネルが国を良くしようと頑張っているのに、それを潰すなんて。


「ヴァルドさんはさっき、世界の簒奪者に屈しないために、ぼくに羽を取り戻せって言ったよね? 羽が戻れば、エルダールを護れる?」

「それだけであなたのお力が完全に戻るわけではありませんが、エルダール側につけば少なくとも抑止力にはなります」

「……それだけ? 他に、ぼくにできることは?」

「救済者は何より『死なないこと』です。自覚していらっしゃらないようですが、あなたはこの世界に存在するだけで価値があるのですから」


 ……死なないこと?

 アレオンのために死ぬ前提でいたチビは、その言葉に目を瞬いた。


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