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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄弟、ギルドで詳細を知る

 ランクS以上のゲートというのはもちろんザインの周辺にも存在する。

 しかしそれは常に術式により封印されていて、モンスターの排出がされないように管理されていた。だから、地上でランクS級の魔物を見ることは滅多にないのだ。


 それでも、新たに発生してまだ見つかっていないゲートからや、禁忌となっている降魔術式によって呼び出されて現れることがごく稀にあった。

 今回のモンスターは、一体どこからやってきたのだろう。


「あのサイレンが鳴ったら、30分程度で城門が閉められる。とりあえず街に戻って冒険者ギルドに行くぞ。出現モンスターの情報はそこに集まっているはずだ」

「……何か、僕たちがランクSSSで働くことになった途端だね」

「そうだな。……偶然か、それとも……」


 レオはそこで口を閉ざし、ユウトの手を引いて足早に城門を目指した。

 検閲門はサイレンを聞いて戻ってきた冒険者や旅人でごった返している。どうにか街中に入った2人は、そのまま冒険者ギルドに向かった。




「ザイン近郊でランクSモンスターの出現が確認されました! 討伐に向かえる冒険者を募っています!」


 ギルドの前にはすでに結構な人だかりができている。その中央でギルド職員が声を張り上げていた。

 しかし人の数は多くても、ランクSの魔物に挑める冒険者などそういない。周囲の冒険者も気後れした様子で顔を見合わせていた。


「ランクSの魔物相手なんて、死にに行くようなもんだよ……」

「感謝大祭の間ならランクSの冒険者も、王国騎士団もいたのに! 何で今みんないなくなった後に来んだよ、くそっ」

「王都か近辺の街から応援を呼んだ方が良くないか」


 ランクAの冒険者でも、ランクS級魔物には後込みする。Sはもはや強さの質が違うのだ。少しでも立ち回りを誤れば、死に繋がる。


「……中に入ろう」

「あ、うん」


 あれでは表にいても埒があかない。レオはユウトを連れ立って冒険者ギルドの扉を潜った。

 まだライネルから別パーティとしてのギルドカードも届いていないし、依頼だって来ていない。本来なら魔物を倒す義務もないのだが、ここはユウトと平和に活動をしているザイン。その生活を脅かされるならば、魔物を排除しないわけにはいかない。


 ギルドは建物の中にもたくさんの冒険者がいた。

 外とは違う、どこか悲痛な雰囲気。

 その中央で誰かが泣いている。それを取り囲む男たちはやはり困惑した顔をしていた。


「ルアンくん!?」

「……ユウト……!」


 泣いているのはルアンだった。

 確か、朝からランクAのゴーレムを倒しに、父親たちのパーティについて行ったという話だったが。


 ユウトが駆け寄ると、ルアンは真っ赤な目で振り返った。その背中を、リサが宥めるように撫でている。


「一体どうしたの? ダグラスさんたちとゴーレム倒しに行ってたはずじゃ……」

「親父たちが罠にはめられたんだ! 助けてくれよ……!」

「……罠? どういうことだ?」


 眉を顰めて訊ねたレオに、ルアンに代わってリサが答えた。


「どうもゴーレムと戦っている最中に、黒いローブを着て覆面をした一団と遭遇したらしいの。どうやら、その人たちが降魔術式を使ったらしくて……」

「親父たちがゴーレムもろとも降魔の贄にされたんだ!」

「降魔術式って……?」

「魔界から強制的に魔物を呼び出す術式だ。発動に生け贄が必要なため、エルダールでは禁忌とされている。……生け贄のステータスによって呼び出す魔物が変わるから、おそらくルアンだけ低ランクで弾かれて助かったんだろう」


 そう伝えると、ユウトが心配そうにこちらを見た。


「生け贄って……ダグラスさんたち、助けられる?」

「呼び出されたランクS魔物の種類にもよるが、生け贄の体力か魔力か、搾取されるどちらかが尽きる前に魔物を倒せば助かる可能性はある」

「じゃあ、急げば間に合うかも!」

「でも、モンスターを倒せる人がいないのよ……」


 リサも悲痛な様子で項垂れる。


「……この件はもう王都には緊急通知を入れたのか?」

「さっき入れたけど、まだ返信は来ていないわ」


 緊急通知は空間転換の魔石で作られたケースに書簡を入れることで、一瞬で相手に送ることができる通知だ。1回使うと魔力が溜まるのに丸1日掛かるため、滅多に使われない。

 しかし緊急時にはすぐに対応してもらえるので重宝する。


「でも、連絡が来たところで、王都から応援が来るのには2日以上時間が掛かるのよ……。王宮でも部隊や冒険者パーティをまるごと送れるような転移魔石はないし、もう……」

「っ、どうしてそういうこと言うんだよ、母さん! オレはあきらめないからな!」

「あっ、ルアンくん!」


 リサの手を振り払ったルアンが、冒険者ギルドから飛び出して行ってしまった。ダグラスの元に行くつもりだろうか。慌てるユウトに、リサは小さく首を振った。


「いいの、居ても立ってもいられないのよ。どうせ城門はもう閉まっているし、外には出て行けないわ。……助けを求めて戻ってきたのはいいけど、ダグラスたちを助けるすべがないから、どうしていいか分からないのよ」


 どうしていいか分からないのはリサも同じようだった。その視線はどこか虚ろだ。


 ……さて、GOサインはいつ出るか。

 レオは不安げなユウトの頭を撫でて、時を待つ。

 自分たちが動くのはもうすぐ、緊急通知の書簡が返ってきた時だ。


 ライネルは、どうせこっちに任せてくる。


 その時、妙に静まりかえったギルド内に、職員が走ってくる音が聞こえた。


「リサさん、通知の返信が来ましたよ!」

「……通知には、何て書いてありました?」

「ええと……『ランクSモンスターの詳細な出現場所と名前をギルドの戸口に誰でも見られるように掲示せよ。その後、住民一切の城門の出入りを禁ず』」

「……正しい情報を皆に知らせて、後は王都からの応援を待てということかしら。……そう。そうよね……」


 リサは感情を乗せない声でそう言って、ふらりとギルドの奥に入っていってしまった。

 代わりに男性ギルド職員が、モンスターの詳細をギルドの内外の扉に掲示する。


「H+5……飛行系の魔物か。ワイバーン……少々厄介だな」

「レオ兄さん、街から出られなくなっちゃった……」


 困ったように呟くユウトは、言外に助けに行けなくなってどうしようと言っている。

 レオはそんな弟の肩を抱いてギルドを出た。そのままリリア亭に向かう。


「……そんな顔をしなくていい。お前との生活が脅かされるのに、俺が魔物を倒しに行かないわけないだろう」


 通知で住民を街から一切出さないようにと言ったのは、レオが魔物を倒すところを見られないようにという配慮だ。逆に言えば、だからレオに倒しに行けと言っているようなもの。


「どうやって街の外に行くの?」

「兄貴からもらったこれがある」


 レオはポーチから転移魔石を取り出した。

 H地点は、夜狩りをしていた時に何度も行ったことがある。部屋から飛んでいって、終わったら部屋に帰ってくれば誰にもバレない。


「ユウトの転移魔石も貸してくれるか。一度飛ぶのに使うと、次の魔力が溜まるまで3日掛かる。2個ないと戻って来れないんだ」

「……ひとりで行くの?」

「それは、もちろん」


 当たり前だと頷くと、しばし逡巡したユウトが頬を膨らまし、上目遣いで唇を尖らせた。


「……やだ、僕も行く」


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