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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【七年前の回想】アレオン萌ゆ

 カズサに食事の準備を命じて、アレオンはドラゴンとチビの元へ向かった。


 アレオンが近付いても、子どもはしきりに竜人の意思の見えない目をのぞき込んでいる。

 彼は何を探しているのだろう。


「……何か見えるのか?」

「えっと、魂の起点? みたいなのを見つけようと思って」

「魂の起点……?」

「多分、そこにこのひとたちの言葉が詰まってるんだ」


 チビの言った言葉は、最近だいぶ本を読んだアレオンも聞いたことがないものだった。

 この子にしか分からないのなら、人間では見えない概念としての何か、なのかもしれない。


「ねえ、アレオンお兄ちゃん。このひとたちをどうするの?」

「別にどうもしない。このゲートを攻略するために貸し出されただけだからな。……まあ、ドラゴン肉を食わせろという命令付きだが」

「ドラゴンの肉……」


 子どもはそのまま何かを考えるように黙り込んでしまった。

 もしかして、この竜人二人の意思を取り戻してやろうとでも思っているのだろうか。

 てっきり、得体の知れない傀儡のような人造の半魔を怖がるかと思っていたのだが。


「……チビ、こいつらのこと怖くないのか?」

「どうして? 同じ半魔だもの、怖くないよ。……それに、あの建物の中で何度か見かけたことがあるし」


 あの建物、とはもちろん魔研のことだ。

 考えてみれば彼らは見世物として半魔や魔物同士の戦いにかり出されていたのだろうし、そこで顔を見知っていても不思議はない。


「このひとたちのお話、聞きたいな。でも魂と思考と肉体が散り散りになっちゃってる……。これをつなぎ直さないと……」

「……こいつらをどうにかできるのか?」

「うん。このひとたちが、ぼくの言葉を聞いてくれるなら」


 まさかの肯定が返ってきて、アレオンは目を丸くした。

 半魔合成の副作用で破壊されたドラゴンの意思を、取り戻せる?


「人格を形成する意思は壊れてんだろ? どうやって戻すんだ?」

「ん、このひとたちは何かの要因で運良く壊れなかったみたい。ただ、魂も思考も一度全部肉体から分離されて、ドラゴンと合成して組み直されたんだ。その時に身体以外はきちんと生成されなかったから、心が漂っているんだと思う」

「意思が壊れていない……」


 王宮図書館にあった魔研の論文では、半魔合成の際に自我は必ず破壊され、魔物側に取り込まれると書いてあった。

 しかし奴らが最高傑作と言うこのドラゴンたちは、魔研の理論から外れていたのだ。

 ……いや、逆か。魔研の理論から外れたからこそ、彼らは最高傑作になり得た。


 半魔にとって人格と意思があるということは、おそらくとても重要なことなのだ。


 だとすれば覚醒前のこのドラゴンたちは、意思を取り戻せばもっとすごい力を内包していることになる。

 ……これは、だいぶ魅力的だ。


 アレオンは僅かに逡巡して、それから子どもに声を掛けた。


「……チビ、こいつらを、仲間に引き込めるか?」

「え? お兄ちゃんのお友達にしたいっていうこと?」

「まあそんな感じだ。……できるか?」


 このドラゴンたちは、このゲートを出たら魔研に返さなくてはならない。

 だが彼らはあそこでだいぶ優遇されているし、ジアレイスたちに全く警戒されていない。仲間に引き込んでから戻せば、かなり有利な存在になる。


 たとえばライネルが父王に謀反を起こす時に、おそらく魔研を攻めることになるだろうアレオンに彼らが内応してくれたら、かなり痛快な勝利を収めることが出来るのではなかろうか。


 そんなことを考えていると、振り返ってこちらを見上げたチビが何だか複雑そうな顔をした。


「……多分、お友達になれると思う、けど……」

「けど?」


 何だか不安げな子どもに首を傾げると、彼は拗ねるように少しだけ口を尖らせた。


「……お兄ちゃんが、ぼくよりもドラゴンさんたちと仲良くなっちゃったらちょっとやだ……」

「ぐっ……!」


 クッッッッッッッソ可愛い……!!!!

 もじもじとしつつ、思わぬ可愛らしいヤキモチを焼く子どもに、アレオンは強烈な萌えのノックダウンを食らって片膝をついた。

 なんたる不意打ち。

 可愛いの威力は防御力無視で、顔面筋肉を崩壊させに来るから恐ろしい。


「お兄ちゃん? どうしたの、大丈夫?」


 突然膝をついたアレオンに驚いたチビが顔をのぞき込んでくる。


「な、何でもない」


 とりあえず顔を背けつつ、めっちゃ子どもを撫でておいた。

 くそっ、可愛いには免疫がつかないのだろうか。こいつは俺用最終兵器か。酷使しすぎて明日の俺の顔が筋肉痛になりそうだ。


「……まあ、何だ。その、余計なことは気にしなくていい。お前の方が小さくて運びやすいし、いろいろ重宝するし、役に立ってるからな」


 アレオンは子どもを安心させようと、自分にできうる限りの言葉を選んだ。端から見ればだいぶ微妙な表現が多いけれど、これがアレオンの精一杯だ。

 離れたところで夕飯の支度をしているカズサが、呆れたような視線をこちらに向けているが無視をする。


 ただ子どもは、嬉しそうににこりと笑ってくれた。


「うん! ぼく、これからもアレオンお兄ちゃんの役に立てるよう頑張るね!」

「……そうだな、頼むぞ」

「殿下、おチビちゃん、その辺で一旦食事にしましょう。いろいろご報告があるんで、食べながらでも」

「あ、ああ、そうだな」


 微妙に話題がずれてきた二人に、見かねたカズサが仕切り直しも兼ねて声を掛けて来る。さすがの空気の読みっぷりだ。

 少しだけチビに対してバツの悪い感じがしていたアレオンは、ありがたくその誘いに乗った。


「そっちの竜人さんたちは飯大丈夫なんですよね?」

「ああ、昼間だいぶドラゴン肉を食ったからな」


 子どもを連れて、アレオンは数日ぶりのちゃんとした食事の乗ったテーブルの前に座る。

 カズサがスープをよそって目の前に置くと、チビはいつものようにお行儀良く手を合わせた。


「いただきます」

「はい、召し上がれ」


 このチビとカズサのやりとりが、我々の食事の開始の合図だ。

 子どもが食べ始めるのと同時に、アレオンも無言で食事を始める。

 それを見届けると、カズサもすぐに一緒に食べ始めた。


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