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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【七年前の回想】ドラゴンの戦闘

 さすが、ジアレイスがスタミナがあると言っただけあって、ドラゴン二人は休まず歩くアレオンに全く遅れることなくついてきた。


 基本的に他人とつるむことを嫌い、チビ以外に気を回すこともないアレオンとしては、気にせず放っておけるから助かる。

 ただ、やはり生物らしからぬ揺らぎのない佇まいが、ひどい違和感ではあるのだけれど。


(……チビが見たら怖がるかもしれないな)


 感情が表出しないだけで意思の存在するチビと違い、ドラゴンたちは完全な傀儡だ。おそらく今ここで腕を一本もがれたって、顔色一つ変えまい。


(言葉は理解できるんだから、脳みそが死んでるわけじゃないはずなんだが)


 こういった外的要因による異形化と障害には、確か『世界樹の葉の朝露』という特殊なアイテムが有効であると、先日魔法薬学の本で読んでいた。

 しかし、手に入れるのはまず無理だ。最低限必要な世界樹の木片からして手に入りはしない。そもそもそれを調達する義理もない。


 ……まあ最悪、こいつらの世話はカズサに任せてしまおう。


 アレオンはそう考えて、結局一度も休むことなく夜通し歩き、翌朝には目的の№8ゲートに辿り着いた。


 久しぶりの強行軍だ。子どもと会う前のアレオンは、こんなふうに二・三日寝ずに動くのは当たり前、歩きながらの食事も当たり前。

 身体が以前のハードな生活サイクルを思い出し、つられて気分も荒んでくる。


(ちょっと前はこれが普通だったのに)


 久々のささくれ立った感情に、今更のように実感する。

 チビが来てから、それだけアレオンは心も身体も癒やされていたのだ。


 早くもあの小さな子どもが恋しくなって、アレオンは顔を顰めた。

 ……後で少し休憩を取って、チビ代わりのウサギをモフろう。

 ドラゴンに見られるが、どうせ彼らは何の感情も抱かないのだから問題ない。


「……封印を解除するぞ。少し下がっていろ」


 アレオンはゲートの前に行くと、ドラゴンたちを下がらせてその封印術式を確認した。


(……確かに老朽化はしているか。危急じゃないが、やはり潰した方がいいだろうな。……それに、何か内側から圧が……)


 解除用のコードを入力する前に、ふと異常を感じて動きを止める。

 これはいくつもゲートを潰してきた経験から分かる、僅かな変化に対する直感だ。

 アレオンはすぐに周囲に人間の気配がないかを確認し、ドラゴンを振り返った。


「……おい、お前ら。戦闘形態に変化しておけ。どうやら一匹出てこようとしてる。解除した途端に出現するぞ」


 とりあえず、初撃は任せるつもりで声を掛ける。これはドラゴン二人の実力を見るにはいい機会だ。


 命令をすれば、彼らはそれぞれ全長3メートルほどの翼竜に変化した。

 最初に見た時の子どものようなドラゴンとは違い、明らかに戦いに特化した形状だ。見ただけで戦闘能力が高いのが分かる。


「敵が現れたら即座に攻撃しろ。……では、封印を解除する」


 準備が出来たのを確認して、アレオンは封印を解いた。

 それとほぼ同時に、ゲートの中からドラゴンが顔を出す。


 大きさはこちらの翼竜の倍ほどか。身体の割に翼は小さく、頭骨と背中には岩のような分厚い鱗がある。鼻の頭に、岩盤を砕くためのサイのような特徴的な角。


 これはアース・ドラゴン。土属性の竜だ。

 ドラゴンの中でも特段に物理防御力と耐久力がある、アレオンが一番相手にしたくない面倒な奴。特攻武器がないと剣撃がほとんど通らないので、以前一対一で戦った時は倒すのに半日掛かった。


 その一方で魔法やブレスなどの属性攻撃は割と効く。

 翼竜たちの実力を見るにはちょうどいい相手かもしれない。


 アレオンがその場から少し離れたところに離脱すると、すぐにドラゴン二人は浮上して攻撃を開始した。

 速さは明らかにこちらの翼竜の方が上だ。

 頭上を二人に舞われ、敵は鬱陶しげに砂嵐のブレスを吐いたが当たりはしない。


(俺が細かく指示をしなくても、勝手に考えて動いているな……。俺が手を出すまでもないか)


 もしかすると逐一命令をしないといけないかと思っていたけれど、その必要はないらしい。

 上手く距離を取りながら、赤いドラゴンが炎のブレスを吐いた。


「うわ、熱っ……!」


 結構離れているというのに、アレオンの元まで来る熱の伝播が半端ない。通常の火属性ドラゴンとはその熱量が違う。


 おそらくこの赤い竜はだいぶ高位のファイア・ドラゴンと合成されたのだろう。体内にかなり高火力の魔力炉を持っている。

 その威力に、普通は炎に焼かれても熱を持って赤くなるだけのアース・ドラゴンの鱗が、溶岩となって崩れ始めた。


 僅かな時間で防御の要を溶かされて皮膚が露出し、敵はたまらず土に潜る。

 地中で身体を冷やし、体力と防御力を回復するためだ。これもあるせいで、アース・ドラゴン戦は時間が掛かる。


 しかし敵が土に潜ると、今度は青いドラゴンが間髪入れずにその場所へ水流のブレスを吐いた。

 本来なら土に阻まれて地表に水たまりを作るところだが、その水流は土を抉り、地中に突き刺さる。


「うわっ、マジか!」


 アレオンは慌ててさらにその場から離れた。


 超高温の溶岩に水、そして地中の密閉空間。

 一瞬にして水は水蒸気になり、一気に1700倍にふくれあがる。

 そう、翼竜たちはそれを利用した水蒸気爆発を狙ったのだ。


 次の瞬間、地中で大きな爆発と地震が起こる。

 噴火のように岩と土が飛び散り、アレオンは爆風でしなる大きな木の陰でどうにかそれを回避した。


「……派手なことすんなあ……」


 爆発の余波が終わるのを待ちながら、呆れとも感嘆ともつかない呟きを零す。

 防御力の高いアース・ドラゴンも、その鎧のような鱗を溶かされてから引き起こされた爆発に、為す術はなかっただろう。


 ようやく木陰から出たアレオンがゲートの辺りを確認すると、大きなクレーターが出来ていた。

 その底にはアース・ドラゴンの亡骸。

 残念ながら損傷が大きく、素材を剥ぐことはできなそうだ。


 とりあえず近くに落ちているドロップアイテムを拾いにクレーターに降りると、空を飛んでいた翼竜たちもその場に降りてきた。


「お前ら、こいつ食っていいぞ。俺もアイテムを拾ったらあの木の根元で一旦休憩する。食い終わったら来い」


 指示だけを出して、アレオンはドロップされたアイテムを拾ってクレーターの外に出る。

 そして木の根元に座ると、せっかくなのでチビ代わりのウサギを取りだして、手慰みにモフりながら今の戦闘を分析した。


(青いドラゴンの方も、水と氷を使える高位との合成だな。水流自体も強いが、それをあんなふうに収斂して威力を増すのは、普通のフロスト・ドラゴンには無理だ。おそらくもっと一点に絞れば、大概のものは貫通できる)


 なるほど、ジアレイスが最高傑作と称するのも頷ける。 

 彼らがいればこのゲートはだいぶ楽に攻略できるだろう。


(二人は連携も出来ていた。水蒸気爆発も狙ったとすると、知識を引っ張り出す思考力はあるということか)


 だとすると、ゲートの中で放っておいても上手いこと敵を倒してくれるはず。だけれども。


(ただ、やはり意思がないというのは危ういな。知識にないことだと対応出来ないだろうし、何より命令がないと行動決定が出来ない。高ランクゲートなんてイレギュラーなことばかり起きるんだから、自分で意思決定出来ねえとすぐ死ぬことになる)


 まあ、その危惧があるからこそ、ジアレイスも彼らをアレオンに付けたのだろうけれど。


(脳みそが正常に動いているんなら、どうにか感情や意思を発現できそうなもんだがな……。それを形成するには何か足りないのか?)


 アレオンがそんなことを考えていると、食事を終えた翼竜たちがクレーターから出てきた。

 魔研ではドラゴンの肉を食わせることで彼らを成長させると言っていたけれど、さすがに一回の食事では変わらないか。少しだけ鱗の艶が良くなった気がするけれど。


「……よし、食事が終わったなら早速ゲートに入るか」


 とりあえずはチビたちが合流する前に、彼らと一緒に浅いフロアのドラゴンは一掃しておこう。


 アレオンはウサギをしまって水筒の水を一口飲んで立ち上がると、封印の解けたゲートへと入っていった。


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