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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【七年前の回想】二匹の半魔

「ドラゴンの皮と骨を四種?」

「はい。今回封印の老朽化したゲートを攻略するついでに、持ち帰って頂きたいのです」


 魔法生物研究所に着いて早々、出迎えたジアレイスはその廊下を移動しながら本題に入った。

 アレオンに、ドラゴンのゲートで四種の素材を取ってきて欲しいというのだ。


 四種とは炎、氷、風、土それぞれの属性のドラゴンの皮と骨のこと。もちろんどれも稀少で、非常に有用な魔道具や武器防具、魔法薬の原料になる。

 ゲート攻略のついでと言うが、間違いなくこれが主要目的のひとつだろう。


 まあどうせ碌なことに使わないのは分かっているが、残念ながらこれを拒む権利はアレオンにはない。

 ただ何の感情も乗せずに頷いた。


「分かった。……だが、俺は対ドラゴンの武器も防具もねえからな。全部集めて来れる保証はねえぞ」

「一応国王陛下から許可を頂いたので、ドラゴン素材を楽に剥ぎ取れる特製ナイフの支給はいたします。さあ、これを」

「……てめえ、俺の話聞いてんのか? 刃渡り15センチ程度の素材採取用ナイフでどうしろっつうんだ」


 差し出されたナイフを受け取るが、当然こんなものではドラゴンに致命傷なんて与えられない。

 それに文句を言ったけれど、ジアレイスは全く請け合わなかった。


「ドラゴン戦が初めてというわけでもないでしょう。アレオン殿下の実力ならば、特攻武器など必要ないかと」

「単発で一匹二匹相手にすんのと、ドラゴンのゲートに入るのを一緒にすんじゃねえよ。掛かる労力がどれだけだと思ってんだ」

「……文句の多い人ですねえ。だから今回も半魔をお貸しすると言ってあったでしょう」


 実験棟の廊下を歩きながら、男はふん、と鼻を鳴らす。


「この度アレオン殿下にお貸しする半魔は、我々の最高傑作です。前回のように、その辺に捨ててくるなどという愚行はなさいませんよう。必ず連れ帰って下さい」


 最高傑作、ということは魔研に造られた人造半魔か。

 前回半魔が失踪したにもかかわらず懲りずにアレオンにそれを貸し出すというのは、何か裏があるのだろう。


「……そいつはドラゴンに特攻があるのか?」

「そういうわけではありませんが、全てのステータスが高くスタミナも耐久力もあります。殿下にとって大いなる助けになることは間違いありません」


 魔研がそんな性能のいい半魔を寄越すというのがもう胡散臭い。

 それだったらこのゲートだけ限定で、国の宝物庫にあるドラゴンキラー一本をアレオンに貸し出す許可を取った方がよほど簡単だ。


(何を企んでやがる)


 アレオンは疑念と不愉快さを隠さずに顔に出し、ジアレイスに訊ねた。


「……そんな傑作半魔を俺に付けんのは、何が目的だ? 上っ面の建前はいらん。本当のことを言え」

「……ま、そうですね。隠そうがバラそうが殿下は何の影響力も持っていないのですし、どうせだから本当の目的をお伝えしておきましょう」


 いちいち人の神経を逆撫でする言い方にイラッとくるが、この男と無駄な会話が増える方が不快なアレオンはスルーする。

 とっとと用事を済ませて、さっさとここを離れる方がずっといい。


 反論をせずに黙っていると、どこか他人を見下したような視線で振り返ったジアレイスが口端を上げた。


「アレオン殿下には、彼らを連れてゲートに潜り、ドラゴンの肉を食べさせて欲しいのです」

「……彼ら?」


 思わぬ複数形にアレオンは目を丸くする。

 それに、ドラゴンの肉を食べさせて欲しいだと?


「その辺の魔物の肉では成長に足りないのです。栄養を与えれば、彼らはもっと強くなる。……さあ、彼らがいるのはこの部屋です」


 そう言って、ジアレイスはひとつの扉の前で立ち止まった。

 一部がガラス張りになっているせいで見える内部は、きれいできちんと管理されている。チビがいた暗くて狭く汚れた部屋とは雲泥の差だ。

 アレオンはそれだけでムカついて、目の前の男を思い切りぶん殴りたくなった。が、ぐっと堪える。


「……ずいぶん、待遇のいい部屋だな」

「当然です、彼らは我々の自信作ですから。反抗もしませんし、野良のように逃げ出すこともありませんしね」


 部屋に入ると二重扉になっていて、当然だが術式の鍵が掛かっていた。ジアレイスはそれを解除すると、何の警戒もなく中に入る。

 つまりそれだけ奴にとって従順な半魔だということだ。


「管理№35、36。こちらに来なさい」

「……これは……ドラゴン?」


 ジアレイスに呼ばれて近寄ってきたのは、子どもほどの背丈の小さなドラゴンだった。

 赤と青の二匹。その首にはやはり首輪が付いている。形状や大きさがほとんど変わらないところを見ると、双子だろうか。


「この二匹は小さい見た目ですが、その実力はとても大きいのでご心配なく。変化の能力があり、命じれば人間の姿にもなれます」

「人間にも……。俺の命令も聞くのか?」

「ええ、一応殿下の命令にも反応するように、首輪に許可しました」


 首輪に入っている術式は、もちろん使役。

 このドラゴンもチビと同じで感情は見えないが、これは首輪でなく半魔合成の影響だろう。


 王宮図書館の書庫には魔研の研究書類も保管されている。

 先日ライネルに貸し出してもらって、アレオンはその半魔に関する文献を読んでいた。


 人と魔族を人工的に合成すると、人の精神は破壊され、記憶と感情は消え失せる。そしてひどく攻撃的になるか虚無に陥るのだそうだ。

 おそらくこのドラゴンは、そうして虚無になったところを首輪で使役をされているのだろう。


 反抗しないのも逃げ出さないのも当然だ。

 魔研にとってはさぞかし扱いやすい半魔に違いない。

 ……全く、胸糞悪い。


「……とりあえず、連れ歩くのに魔物の姿だと都合が悪い。人型になれ」


 アレオンが命令をすると、ドラゴンはすぐにその形態を変えた。

 その姿はアレオンより少し下くらいの年齢だ。思ったより大きい。

 最初から服を着ているのは、その服を含めて変化の魔法の一環なのだろう。ということは変化の形状は固定しておらず、見た目は自在に変えられるのかもしれない。


「こいつらは、言葉を喋れるのか?」

「意思がないので言葉は発しません。まあ道具が喋らないのは当然のことですし、何の不便もないでしょう?」

「……チッ、下衆が……。おい、お前らこっちに来い」


 アレオンは小さく悪態を吐いて、ドラゴンたちを自分の側に呼び寄せた。

 二匹はただその言葉に従う。

 言語の認識はしっかり出来ているのだ。まあ、連れ歩くのに問題はない。


「……じゃあ預かっていく」

「殿下、この二匹は強いですが、戦闘中に死ぬことなどないように十分気を付けて下さい。そして必ずここに連れ帰るように」


 ……チビのことは見殺しにして捨てて、首輪だけ取ってこいと言ったくせに。

 吐き出せない憎悪がアレオンの胸の内に黒い溜まりを作る。


 それでも我慢をするのは、ひとえに子どもを守るためだ。

 魔研に手を出すと、確実に父王が動く。それは避けたいのだ。自分が追われる羽目になれば、チビも巻き込んでしまう。


 アレオンは努めて深く静かに息を吐くと、ジアレイスから視線を外したまま口を開いた。


「……そういや、この間の半魔の子どもを探してるらしいな。その後どうなった? 別に殺すつもりだったんだし、ほっときゃいいだろ」

「は、何をおっしゃるかと思えば……ご自分で放り出して来ておいて、いけしゃあしゃあと……」


 他人事のようなアレオンの言葉に、男は一気に機嫌を損ねたようだ。その声のトーンが下がる。


「子どもは現在も捜索中です。そのうちどこかのゲートから炙り出されて、探知魔法に引っかかるとは思いますが。……全く、あんな危険物を処理しないまま持ち帰って、おまけに放置するなんて」

「……危険物? 確かに魔力はすごかったが……おとなしくて小さくて、放っておいたら死にそうだったじゃねえか」


 出会った当初は死にたがりだった子ども。それが危険物と言われたことに、アレオンは怪訝な顔をした。

 しかし男はその言葉を撤回せず、不愉快げに鼻を鳴らす。


「ふん、殿下にはお分かりにならないだけでしょう。……もしもあの子ども半魔をどこかで見つけたら、今度はここまで連れて来るように」

「……要るのは首輪だけじゃねえのか?」

「そういうわけにもいかなくなったんです。……まあ殿下には関係のないこと。優先するべきあなたの任務は、№8のゲートを攻略することですから」


 ジアレイスはそこで話を切り上げると、アレオンを急き立てた。


「さあ、行って下さい。このドラゴンは我々の有能な手駒……。くれぐれも丁重に扱うことです」


 これ以上、こちらと話す気はないのだろう。

 ならばアレオンとて、こんなところに長居はしたくない。

 挨拶もせずに踵を返す。


「お前ら、ついてこい」


 ドラゴンだけに声を掛けると、アレオンはそのまま魔研の出口に向かって歩き出した。


 廊下を無言のままついてくる二匹……二人は、まるで亡霊か何かのような気配だ。生きている者の揺らぎが感じられない。


 その違和感に眉を顰めたまま、アレオンは魔研を出た。


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