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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【七年前の回想】カズサとの密談

 カズサに連れられて入った茶屋は、金を払えば密談の空間を作ってくれる店だった。


 外部と音が遮断できる術式が部屋全体に張ってあり、店員が来る時にはちゃんと合図が鳴るという。

 術式を悪用して店の人間が盗み聞きをしたりしないのかと思ったが、カズサは「知ったら殺されると分かっている情報を聞いたって、店員は得しないでしょ」と悪い顔で笑った。


 つまりここを利用するのはそういう人間ばかりだということだ。




 カウンターで先に簡単な飲み物だけを頼んで、用意された個室に入る。

 そこでまずは劣化防止BOXに買ってきた食材を移しながら、カズサの報告を聞いた。


「ザインの拠点は準備できただろうな?」

「もちろんです。路地の奥まったところにある一軒家で、そこそこ広いですよ。部屋も四つほどあるので、殿下とおチビちゃんが泊まっても大丈夫です」

「そうか。……それで、肝心の魔工翁の方はどうだ?」


 特上魔石の加工は、アレオンにとって一番気になるところだ。

 少し緊張しながら訊ねると、カズサが小さく唸った。


「ん~、まだなんとも……今後次第っていうか」

「貴様が胡散臭いから取り合ってくれないのか」

「そういうわけじゃないんですけど。一応ライネル殿下の隠密も使っていいっていうから、最初はコレコレに接触を頼んだんです」

「コレコレに? ……ああ、あいつは罠専門で魔道具や術式に詳しいもんな。魔工翁と話が合うかもしれん」


 コレコレは隠密の中で一番背が低く、猫背で目が隠れるほど前髪が長く、罠オタクで根暗な印象の男だ。しかしその見た目に反して実は弁も立つし冷静で堅実、礼儀もわきまえている。

 ルウドルトがオネエの次に評価して、当てにしているのもコレコレだった。


「あいつなら下手な結果にはならんだろう」

「ええまあ、コレコレは上手くやってくれました。んで、俺に会って話を聞いてくれるというとこまで持って行ってくれたんですけど」

「……やっぱり貴様の胡散臭さが邪魔をしたのか」

「いや、胡散臭いのは関係ないですって。断られたわけじゃないし」


 カズサは食材を詰め終わった劣化防止BOXの蓋を閉めると、それを片付けてアレオンの視線を正面から受け止めた。


「そもそも特上魔石十二個もの加工自体が、胡散臭さ爆発なんですよ。かといってそれを使う理由をごまかして、見当違いの物を作られても困りますし。猜疑心を与えないように本当のことを伝えるのに、どんだけ腐心したか」

「……本当のことを言ったのか?」

「そりゃそうです。魔研の探知から逃れたい半魔を保護しているという程度ですけど」


 とりあえずその半魔が子どもであることや、首輪を着けられていることは言っていないようだが。


「……魔研の名前を出して大丈夫なのか? あっちに情報を売り渡されたりしたら元も子もないぞ」

「その点は問題ないです。魔工翁は昔から魔研を嫌っていて、その依頼をことごとく断っていた人ですから。……まあ、その後も色々あって、とにかく極度の魔研嫌いなので大丈夫」


 カズサはそう言うと、丸眼鏡のブリッジを指先で押し上げた。


「さっきも言いましたが、魔工翁には本当のことを告げた上でも断られていないし、今後次第なんです。ただ、これ以上は殿下の許可がないと進めないと判断して一度戻ってきたんですよ」

「俺の許可?」

「魔工翁は実物を見ずに請け負うことはできないと言っていました」


 その言葉に、アレオンは眉を顰める。

 だってつまりそれは。


「……チビを連れてこいってことか」

「そういうことです。これは俺の一存では決められないですからね。殿下が許可してくれればすぐに連れて行きますけど」

「なら、俺も一緒に行く」

「は? 殿下、ザインに行って戻ってくるだけの転移魔石持ってないでしょ。これから魔研にもゲートにも飛ばなきゃならないんだろうし」


 アレオンの手持ちの転移魔石は二個。

 本来なら魔研に行くのにひとつ、そこからゲートに行くのにひとつを使えば終わりだ。


 しかし、コースを変えればどうにかなる。


「ザインに行くのにひとつ使って、そこから魔研に飛ぶのにひとつ使えばいい。魔研からゲートまでは歩く」

「ゲートまで歩くって……確か今回の8番ゲートって、王都からだいぶ離れたとこじゃありませんでした? 丸一日以上掛かるでしょ」

「魔研に行く前に時間を空けると余計な詮索をされるが、魔研を出てからゲート攻略までの時間は大して重要じゃない。ゲート近くに一瞬で飛ぼうが一日掛けて行こうが、その辺はどうでもいい」


 今回はドラゴンのゲートに特攻武器も何も無しで挑むのだ。攻略にいつもより日数が掛かって当たり前。文句を言われてもそう反論できる。


「はあ、まあいいですけど。でもどうせ交渉すんの俺なんだから、殿下は後ろで見てるだけなのに」

「俺は目の前で加工の可否を確認できればそれでいい。貴様に任せて一人でゲートに行っても、気になって戦ってられん」

「はいはい、殿下はあの子に関することだと心配性ですねえ。じゃあ、後でザインで落ち合って、おチビちゃんを連れて魔工翁のところに行くって事で」


 ザインでの報告がちょうど切れたところで来訪者を告げる合図が鳴り、店員がお茶と簡単な菓子を持ってきた。

 それを軽くつまみながら、カズサは再び眼鏡のブリッジを上げる。


「……さて、次は殿下の方のお話を。ゲート攻略の話は聞いていますが、なんでこの後魔研に?」


 その問いは、アレオンだってしたいところだ。


「さあな。詳しいことは俺もよく分からん。ただ魔研は、俺にゲート攻略の供を付けるらしい」

「供? またおチビちゃんみたいな感じですか? ゲートに連れて行って殺してこいみたいな」

「それはねえだろ。俺のせいでチビと首輪を見失ってるんだし、同じ役目を俺に与えるとは思えん」

「じゃあ、逆に殿下を見張る監視役とか?」

「……チビのことがバレてるなら、そういうこともあるだろうが」


 でもそれなら父王にチクって動かす方が早いし、ジアレイスなら間違いなくそうするはずだ。

 そうしていないということは、おそらく今回の供の話はチビとの直接的な関係がないのだろう。


「今回はドラゴンの素材を取ってこいとか言ってるから、単にドラゴン特攻のある供を付けるだけかもしれんがな」

「……魔研がそんな殊勝なことしますかね?」

「まあ、怪しいとこだが……何にせよ、俺に拒否権はないんだ。とりあえず連れてくしかねえだろ」


 父やジアレイスにとってアレオンは脅威でありいけ好かないガキだろうが、常人では太刀打ちできないようなゲートを一人で攻略し、稀少な素材を手に入れてこれる稀有で有益な存在でもある。

 そんな『剣聖』アレオンに、一歩間違えば即死の高ランクゲートの中で足を引っ張るような供を寄越しはしないだろう。


「……殿下って結構反抗的っぽいのに、文句たれるだけで別に暴れたりしないですよね。……陛下って、なんでそんな従順なアレオン殿下のことだけめっちゃ警戒してんの?」

「従順なわけじゃねえわ。逆らったところで面倒くせえし、あきらめてるだけだ。……親父が俺のことを目の敵にしてんのは、分かんねえな。小せえ頃に何かきっかけがあったような気もするが……覚えてねえ」

「第一次反抗期がよほど激しかったんですかね?」

「3・4歳のガキの癇癪で警戒するってどんだけ弱い王様だよ」


 アレオンは呆れたため息を吐いて話を戻した。


「とりあえずザインに行って魔石加工の話がついたら、俺は魔研に飛んでその供とやらを連れてゲートに向かうつもりだ。貴様は魔石の加工が終わるまでチビと一緒にザインで待機。探知魔法に掛かる心配がなくなったら8番ゲートで俺に合流しろ」

「了解です。ザインにいる間は探知の心配もないし、おチビちゃんを少し外で遊ばせてあげようかなあ」

「……長袖を着せて、フードはかぶせたままにしておけよ。あの肌の変色は人目を引く」

「もちろん、その辺りは気をつけます」


 チビと離れるのは落ち着かないが、まあカズサと一緒なら大丈夫だろう。

 そもそもチビを魔研に連れて行くのは絶対に無理だし、そこから丸一日歩かせるにも体力が心配だ。こればかりは妥協するしかない。


「じゃあ早速ザインに飛びますか。殿下、多分御用邸のあたりに転移しますよね。だったらその近くの公園で落ち合いましょう」

「分かった。一度部屋に戻ってチビを連れて行くから、30分ほど掛かるが」

「だったら俺はその間に、ザインで鑑定に出してたアイテムを引き取ってきます」

「ああ、この間のボス宝箱から出たやつか」


 腕輪と薬二つ。いいものだったらチビに持たせよう。


「そういや、チビにもポーチが欲しいな」

「大容量でなければ魔工翁のとこで買えますよ。まあ、値は張りますけど」

「そうか。あそこのものなら多少高くても構わん。品質に間違いないからな」


 そうとなれば、善は急げだ。

 アレオンはお茶を飲み干して立ち上がった。

 そして部屋の出口に向かう。


 すると、何故かカズサに呼び止められた。


「殿下、帰りはそっちじゃないです」

「……何?」

「店から出る時って、入る時と違って周囲を警戒できないでしょ? だからこの店では、出口は裏側の見えないとこにあるんですよ。お会計を済ませないと開かないんですけど、さっき支払っといたんで出られるはずです」


 ……なるほど、さすがその系列の御用達。危機管理が行き届いている。


 カズサが部屋のインテリアを動かして壁を押すと、果たしてそこには隠し扉があった。

 それを抜けて、裏口に出る。そこは、塀と軒に囲われた完全な死角だった。足下には防犯用なのか感知式の魔方陣があって、それに乗ると店側に退店が伝わるようになっているらしい。よくできている。


「じゃあ俺はこのままザインに行きます。殿下も早めに来て下さいね」

「ああ」


 アレオンはそこでカズサと分かれると、その足で墓地へ向かった。


 これで探知魔法が本当に遮断できるようになるのか、若干の不安はある。しかし、子どもの安寧を手に入れるためには、何でもやってみるしかない。


(……魔工翁が魔石の加工をどうにか引き受けてくれればいいが)


 未だに特上魔石をどう加工すればチビが安心して暮らせるのか見当もつかないが、即時に断られることがなかったのなら、魔工翁には何か手があるのかもしれない。


 それを期待して、足早に子どもの元へ急ぐ。


(……万が一駄目だったとしても、あきらめるわけにはいかん)


 もしダメでも、チビのためなら何でもやる心づもりがある。

 ……そう、何でもだ。


 改めて決意し、しかしその『何でも』という選択肢の中に対価の宝箱を並べてしまう自分を、アレオンは自覚した上で心の中できつく戒めた。


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