表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

434/767

【七年前の回想】アレオン、雪崩れに襲われる

 雪山のフロアは、体力自慢の獣系魔物が多いので助かる。

 魔法属性を備えているものも多いが、魔法特化の魔物と比べて発動が遅く、アレオンでも余裕で対応ができるのだ。


 獣系魔物の攻撃の習性を、アレオンはほぼ把握している。

 その初動に対応するだけの身体能力があれば、短時間で倒すことが可能。アレオンの攻略スピードの速さは正にここに起因していた。


「うわあもう、こっちでまだ素材剥ぎ終わってないのに、もう向こうの魔物倒し終わってる~。速度が追っつかないんだけど。殿下マジ人間じゃねえわ」


 カズサが何か言っているが、気にしない。今日もチビにきちんとご飯と睡眠の時間を取らせるためには、ちんたらやってられないのだ。


「きつねさん、あっちの拾ってきた」

「はいはい、おチビちゃんありがとね」


 チビはカズサの周りで、ドロップされたアイテムを拾って回っている。もこもこウサギが雪山を歩く姿はなんとも和むが、それを見ているとつい手が止まるので、フロアをクリアするまで見るのは我慢だ。


「狐、向こうの峰の岩場に宝箱が見える。解錠してこい」

「はいはい。行くよ、おチビちゃん」


 カズサはチビを連れて宝箱を開けに行く。その間に、アレオンは近くに見えたイエティの亜種を倒しに向かった。

 おそらくこのフロアの敵はこいつで最後。

 今日はここで終わる予定だから、後は残る宝箱を探し、明日のために下り階段を確認し、野営地を見つければ飯だ。

 とっとと終わらせよう。


 アレオンは、こちらに気付いているのかいないのか、どんどん離れていく敵を追う。

 少し深追いになるが、まあ、大して手こずる敵でもない。とにかくあと一匹なのだ。

 アレオンは構わず進んだ。


「……この辺りは傾斜がきついな。雪も結構積もっている……」


 しかし途中ではたと周囲を確認し、足を止める。

 膝上まで埋まるほどの雪、上の方から妙にせり出した山の傾斜は下に来るほど次第に大きくなり、最後は谷へと落ち込んでいた。


 近くには木も遮蔽物もないし、さすがのアレオンも雪崩が起きたらひとたまりもない。


(……まずいな。これ以上は危険だ)


 そう判断して戻ろうと思った、その瞬間。

 まるで見計らったように、前方のイエティ亜種がこちらを振り向いた。

 その毛むくじゃらの顔は、どこか笑っているようにも見える。


 それを見たアレオンは、内心で舌打ちをした。


(まさかこいつ……俺をここに誘い込みやがったのか……!)


 即座にその場所を離れようとするが、足下の深い雪のせいで速度は出ない。

 その間に、イエティが大きな雄叫びを発した。


「ヴオオオオオオオオオオ!」


 ビリビリと空気を震わす声は、明らかに雪崩を誘発するためのものだ。


「危ない、殿下、上の方亀裂入ってる! 雪崩が来ますよ! 逃げて!」


 隣の峰の辺りにいたカズサたちもイエティの声で気付いたようで、遠くから声を掛けてくる。だが、もはやアレオンにはどうしようもない。

 どこまで耐えられるか分からないけれど、剣を地面に深く突き刺して、そこに縋るしかない。


 握力はどうにか耐えても剣自体が折れてしまう公算は高いが、やらないよりはマシだろう。ある程度踏ん張って谷の下にさえ落ちなければ、おそらくカズサが見つけてくれる。


(チビがそばにいる時じゃなくて良かった)


 上の方から崩れ始めた雪の地響きを聞きながら、そんなことを思う。後は自分の運を信じるまでだ。

 普段は好まない運頼みだが、この際仕方がない。


 アレオンは剣で雪を突き通し、地面まで刀身を深く刺し込み体を低くして、大きな衝撃に備える。

 足下の雪も谷に向かって滑り始め、上から大きな雪煙が間近に迫ってきた。


「来る……!」


 緊張に身体を硬くした、その瞬間。


 何故か突如目の前に、アレオンを雪崩から守るように大きな黒い壁のようなものが現れた。


(な、何だ、壁……? いや、違うな、これは……)


 アレオンの両脇と頭の上を、壁らしきものに阻まれたおびただしい量の雪が滑り落ちていく。

 足下は雪もろとも谷底へ持って行かれそうになるが、覚悟していた身体への付加は雪崩に比べたら微々たるものだ。

 剣で踏ん張ってやりすごす。


(……おそらくチビの出したもんだよな。……何だこれ……)


 触れてみる気は到底起きない。なぜなら、この壁のようなものから感じられるのは強い闇の気配だったからだ。


(闇魔法の何か……防御の類いじゃない。まさか、召喚……、っ!?)


 不意に、自分のいる方の壁の反対側でギイッと音がして、アレオンはざわりと総毛立つような気配を覚えた。


 すごい威圧感だ。これは、そこらの魔物の気配ではない。

 もしや魔界から滅多に出てこないという、特級魔物の気配ではなかろうか。


「グルルルルル……」


 凶悪な魔物が喉の奥で唸る声がする。

 雪崩の直撃を受けているはずだが、魔物が動じている様子はない。

 犬かオオカミ、それ系の魔物のようだが……。


(扉から何か出てきた……もしかしてこれ、魔界の門(デモンズ・ゲート)の召喚か!)


 おそらくチビが、アレオンに向かう雪崩をせき止めるためにとっさに呼び出したのだ。つまりここは、扉の裏側ということ。

 アレオンを守るためとはいえ、何というものを召喚するのだ、あの子どもは。


 ふと見ると、横を流れていく大量の雪の隙間から、黒く逆立った毛並みの何かが駆け出していくのが見えた。

 あっちはイエティ亜種のいる方向だ。


 すぐに2体の魔物の咆吼が周囲にこだましたが、何度かギャアギャアと叫び声がした後に静かになった。

 二つあった魔物の気配が一つになる。当然、イエティがやられたのだ。

 どう考えても、魔物としての格が違う。


(あ、雪崩が……)


 アレオンは、僅かに安堵の息を吐いた。

 イエティが死んだおかげか、とたんに雪崩れていた雪の量がみるみる減ってきたのだ。

 ようやく広がってきた視界の先で、かなり大型の漆黒の犬らしき魔物が勝利の雄叫びを上げ、煙のように消え失せるのが見えた。


(……あれは魔界の門の番犬か……? あれを呼び出せるなんて……)


「うぶっ!?」


 突然、頭の上から雪を被る。目の前にあった壁が突然消えて、その上に積もっていた雪がアレオンの上に落ちてきたのだ。

 もちろんすでに大した量ではない。

 頭を振って雪を払って周囲を見れば、さっきまで膝上まであった積雪のほとんどが谷底に落ちて、だいぶ山肌が見えていた。


「殿下! 大丈夫ですか!?」


 気付けば隣の峰にいたはずのカズサが、すぐそこまで来ている。

 あの直後に急いでこちらに向かってきたのだろう。


 男の姿を視界に入れたアレオンは、その腕の中にくったりとした子どもがいることに気がついて、驚いて慌てて駆け寄った。


「チビ……!」


 その身体をカズサから受け取って、腕に抱く。

 どうやら気を失っているようだ。


「おチビちゃんは心配しなくてもガス欠なだけですよ。それより、殿下が雪崩れに巻き込まれた時は心臓が止まるかと思いました」

「俺は全くの無傷だ。……こいつの召喚してくれた『壁』のおかげでな」


 おそらくあの魔界の門(デモンズ・ゲート)の召喚は、かなりの魔力を使うのだろう。

 アレオンを守る命令に従ったとはいえ、よくこんな大それた魔法を使ったものだ。


「……俺は遠くからでよく見えませんでしたけど、あれ、魔界の門でした?」

「ああ、多分な。本物を見たことがないから確定はできんが」

「そんなもの呼び出せるって、この子一体何者……? そういや扉開いた時に門の中にガンガン雪入ってたけど、向こう側大丈夫なんですかね」

「何の心配だ。……それよりあっちにイエティの死骸があるはずだから、アイテムと素材回収してこい」


 アレオンはカズサにそう命じると、子どもを抱えたまま雪の消えた傾斜を上り始めた。

 上の方の張り出した部分、その下にくぼみを見つけたのだ。

 さっきまでは雪に埋もれていて分からなかったが、洞窟になっているようにも見える。だとしたら、野営にちょうど良い。


 早いところ子どもをちゃんと寝かせてやりたいアレオンは、その入り口まで上ると中をのぞき込んだ。


「結構深いな。やはり洞窟……魔物が巣にしていたところか?」


 当然だが中は暗い。仕方なくカズサが来るまで待って、魔石燃料のカンテラで洞窟の奥を照らした。


「魔物の巣っぽくはないですね。どちらかというと隠し通路? ほら、壁面の材質が違う」

「材質?」

「基本、ゲートの建造物や地形って破壊できないでしょ? でも、ここは壊せる壁になってんですよ。……これは超レアな宝箱がある予感」


 わざわざ宝箱を探すことなど今までしなかったアレオンは、初めて壊せる壁なんてものがあると知った。

 もしかすると今までに見たことがあるかもしれないが、自分なら地形の変わる罠の一種か何かと考えて、警戒して近付きもしなかったと思う。今後は覚えておこう。


 そのままカズサを先頭に洞窟を進んでいくと、彼はどん詰まりの通路の奥で立ち止まった。


「お、見っけ。殿下、このひび割れが壊せる壁の目印ですよ」

「……どうやって壊すんだ?」

「本来はツルハシやハンマーが必要なんですけど、殿下なら蹴りでいけると思います」

「こうか」


 子どもを抱えたまま、壁を蹴り飛ばす。

 すると壁は硬質な音を立ててがらがらと崩れ落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ