表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

428/767

【七年前の回想】王都への一時帰還

「このゲートに入って12日か……さすがにそろそろ一回外に出るべきか」


 途中でいくらか現地調達出来るとは言っても、食料はそろそろ尽きてくる。魔石燃料などの消耗品もだいぶ不足していた。

 それでも結構粘っていたのだが。


 地上に戻ることに気が進まなかったアレオンも、60階の中ボスを倒したところでとうとう観念した。数階前からほとんど食料の手に入らない雪山フロアになってしまったからだ。


 自分だけならまだもう少し耐えられるが、子どもがいるとそうも言っていられない。


「ウサギのブランケットのおかげでフロアを動く分には問題ないが、食料がないのはどうにもならん」

「殿下、何なら俺だけ一度出て、必要なもの補充して戻ってきてもいいですけど」

「そうだな……。いや、しかし」


 頷いてみたものの、アレオンも一度ここを出て、ライネルたちの調査状況を聞きに行きたかった。子どもを連れて地上に戻る前に、だ。


 今後ゲートを出た時に、途端にチビが魔研の探知に引っ掛かったら元も子もない。その前に対処出来る策があるのなら、今のうちに知っておきたいのだ。


 アレオンは一旦考え直し、結局熟慮の末、カズサの提案を退けることにした。


「……正直、ものすごく気は乗らないが、外には俺がひとりで行くことにする。狐、貴様はチビと一緒にここで待機していろ」

「あれ、いいんですか? もちろん、俺は構いませんけど」

「これだけ下ってくれば、さすがに後続の暗殺者ももう来るまい。ここは中ボスフロアで敵も出ないし、この洞窟なら風雪もしのげる。……貴様さえ変なことをしなければ問題ない。チビ、こいつに嫌なことされたら焼いていいからな」


 一番の懸念はこの子どもと離れることだ。アレオンは内心の不安を隠しつつそう言い置いた。


「……アレオンお兄ちゃん、ぼくを置いて行っちゃうの?」

「いや、いやいやいや、一瞬いなくなるだけだ、すぐ戻ってくる」


 寒さ対策でウサギの着ぐるみを着た状態のチビにそんなことを言われると、小動物を見捨てて行くような気分になるから止めて欲しい。

 魔研の探知さえなければ、自分だって連れて行きたいのだ。


「良い子で俺のことを待っていろ」

「……うん」


 そう命令すれば、子どもは素直に頷いた。


「できれば一両日中には戻るつもりだ。一応今ある食料は全部置いていく。今後の分はまた新たに買いそろえて来よう」

「まあ雪山フロアになってからはギミック関係が消えたし、ここからは進みが早いはずです。クリアするつもりならあと5日分も食料があれば十分な感じですね」

「ああ。その辺は考えて買ってくる」


 普通にクリアして良ければそれで済む。

 ただ、まだ地上に出るのに危険があるならば、どこかのフロアで時間を潰す必要が出るかもしれない。

 その場合、買う食料も増えるだろう。

 どちらにしろ、ルウドルトを通じてライネルの策を聞いてからだ。


 アレオンは立ち上がり、ブランケットを外して子どもに掛けた。

 ちなみに、カズサは元々耐寒・耐暑付きの上等装備を着けているので全く平気だ。腹立たしい。


「さて、じゃあとっとと行って来よう。後は頼んだぞ」

「はいはい、いってらっしゃーい」

「……お兄ちゃん、早く帰ってきてね?」

「分かってる」


 小首を傾げて、無表情ながら心細そうに言われて、アレオンは強く頷いた。






 アレオンがマントのフードを深く被ってゲートを出ると、多少は待ち構えているかと思った暗殺者や冒険者の類いはいなかった。


 ……いや、いなかったというか、その辺りに数人、死体で転がっていた。


(……狐の仕業か)


 おそらくあの男は、ゲートに入ろうとする他の暗殺者たちを押し退けて(有り体に言えば殺して)突入して来たのだろう。

 他にいた輩も、きっと諦めて散ったに違いない。


(ひとりで見張りをしながら呑気に釣りなんてしていると思ったら)


 カズサはあの時点で、後続の暗殺者が来ることはほぼないと分かっていたのだ。

 元『死神』、そのネームバリューもさることながら、目の前で実力の差を見せつけられれば逆らう気は起きないだろう。さらにそれを後追いしてゲートに入っていく猛者などいるはずもない。


 ……まあ何だ、余計な手間が省けて助かった。

 ほんの少しだけ心の中でカズサに感謝して、アレオンはそのまま歩いて王都エルダーレアに向かった。


(まだ昼前……今ならルウドルトが街の外で警邏けいらしているはずだ)


 それを見越して裏門に向かう。

 本当は転移魔石を消費して戻ってもいいが、効率が悪いし、帰ってきたことをすぐにルウドルトに伝えることも困難だ。だったら見付けてもらった方が早い。


 そもそもアレオンは通行証を持っていないから、普通に王都に入る事ができないのだ。……まあ、やろうと思えば忍び込むことはできるけれど。


 街道を行く人の波に逆らって、アレオンは城壁をぐるりと回り、裏門に続く小道へと入った。


 ここは一般人が通ることなどない場所。

 そこに正体の分からない人間が通りかかれば、すぐに騎士団に連絡が行く。そして今ルウドルトが巡回しているなら、現在騎士団長補佐をしている彼に間違いなく報告が行くはずで、その足でここにやって来るだろう。


 アレオンが歩いて行くと、思った通り、小道を抜けたところで待ち受けていた騎士団と対面することになった。


「……こんなところで何をしている」


 六名の警邏隊、その隊長はルウドルトだ。

 問い質す声が少し呆れたような響きに聞こえるのは、「こんなとこにいてバレたらどうすんだ」という彼の気持ちが入っているからだろう。


 マントを頭から被っていたって、ルウドルトにはその気配だけでアレオンだと分かっているのだ。


「ギルドの依頼で受けたゲートを探している途中で、通行証と地図の入った財布を落としてしまって。行き先が分からなくなったのでとりあえず壁伝いに城門まで戻ろうと思ったんですけど」

「……こちらは裏門だ。正門は逆方向になる。……だが、行ったところで通行証がないのでは城内に入れないだろう。別の手続きが必要だぞ」


 ルウドルトはそう言うと、後ろの部下を振り返った。


「……ここから彼をひとりで行かせるわけにはいかん。私が送り届けてくるから、君たちは残りのルートを巡回して戻っていてくれ」

「はっ、了解しました」


 指示をされた部下たちはすぐに踵を返す。

 思ったよりもあっさり信じてくれるものだとその後ろ姿を見送りながら思っていると、隣にいたルウドルトからじとりと睨まれた。


「……ここからは、城門まで貴方を監視させていただきます。王都に仇為す不届き者かもしれませんので」

「あ、ひとりで行かせるわけにはいかないって、そういうことかよ」


 アレオンの部屋以外の場所で、ルウドルトがこちらを敬うことはない。自分は馬に乗ったまま、アレオンを歩かせる。

 もちろんアレオン的には全く気にしていないが、ルウドルトは気になるのかちょっと敬語が混じってしまうようだ。


「騎士団長補佐様が直々にお見送りするって言って、部下は何にも言わないんだな」

「貴方が醸す雰囲気が強者のそれだからですよ。我が騎士団は精鋭です。各々が貴方と自分の実力差を精査して、もしも反撃されたときに対応出来る者が申し出て監視に当たる。今回は貴方に当たれるのが私だと判断したまで」

「もしも俺がもっと弱かったら、他の人間が監視に来てたのか」

「そういうことです」


 互いに目を合わせることなく会話する。

 城壁の上から、他の警備兵たちが監視しているからだ。

 付き添っているのはルウドルトひとりだが、実際はこの辺りの警備兵全員を相手にしているようなもの。下手なことはできない。


 まあとりあえず妙な動きさえしなければ、敵対行動を取られることはないのだから気にしないけれど。


「通行証がない場合って、どんな手続きをするんだ?」

「身分を証明出来るものを準備するか、身元を証明してくれる人間を呼び出し、それが承認されれば通行証が再発行されます。基本的に後ろ盾がなく、身分が証明出来ない人間は王都に入れません」

「うわ、めんどくせ」


 転移魔石を使った方が楽だったかと今さら思ったけれど、それよりもいち早くルウドルトに帰ってきたことを知らせたかったのだから仕方がない。


 アレオンは手続きをとっとと済ませようと、足早に城門へと向かった。


「……では、私に付いて検問所の奥に来て下さい」


 城門で馬を下りたルウドルトは、それを部下に預ける。そして、アレオンを引き連れて重点検査用の個室に入った。


「俺の身分証明はどうすりゃいい?」

「証明出来るわけないでしょう、全く」


 ため息を吐きつつ一枚の書類を取り出す。そこに、ルウドルトは自分でどんどん記入していった。


「今回は特例措置です。私が貴方という人間を保証し、責任を負います。これから王都を出るまでの間に問題を起こすと私の罪になりますので、くれぐれも行動には気を付けて下さい」

「へえ、保証人を付ければどうにかなるんだな。さっき言ってた後ろ盾ってやつか」

「言っておきますが、保証人になれるのは相応の権限を持つ者だけです。エルダーレアでは私でギリギリですね。……もしも万が一、他の街や村で通行証が必要になったら、そこの領主や村長に人格や働きを認めてもらい、保証人になってもらうしかありません」

「なるほど。……まあ、そんなもんが必要になることなんてないだろうが」


 会話をしながらルウドルトが書類の項目を埋めていくのを眺めていると、最後にこちらに向かってその書類を差し出される。どうやらサインをしろというようだ。


「ここに名前を。くれぐれも本名など書かないように。できれば字体も変えて下さい」

「了解」


 言われた通りに適当な名前を書き込むと、ルウドルトは一枚のカードを差し出した。


「次に王都を出る時は、必ずこのカードを城門で提示して下さい。退出の実績がないと、いつまでもこの偽名の人物がエルダーレアの在籍名簿に残ってしまいますので」

「分かった」


 それを受け取ってポーチに入れる。

 これで手続きは終わりのようだ。アレオンは街に出ようと立ち上がった。

 向かいのルウドルトも筆記用具を片付けて立ち上がる。


「この後はどちらに?」

「部屋に戻るつもりだが、時間があるなら先に買い出しに行く」

「ではそうして下さい。一応あの方にもお伝えしておきますが、すぐには動けないので」

「そうか」


 まあ、ライネルもルウドルトも忙しい身だ。今すぐ対応しろと言っても難しいだろう。

 だったら先に買い出しをしてしまおう。獲得してきた金を徴収される前に使ってしまえば、そこそこの食材も買える。とりあえず5日分買っておいて、足りなければまたゲートに行く前に買い足せば良い。


「ではまた、後程」

「ああ」


 ルウドルトに見送られて検問所を出ると、アレオンはひとまず大通りの方に向かって歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ