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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【七年前の回想】アレオン、地下の部屋にて

アレオン回想。しばらく続きます。

レオ=アレオン。昔の話なのでアレオン表記です。

 同じ王子の身でありながら、ライネルとアレオンはまるで対極の境遇だった。


 片や騎士に護られながら大切に育てられている第一王子、片や地下の一室に追いやられ、毎日のように命の危険がある任務につかされている第二王子。


 歴然たる扱いの差だが、それを知る者は王宮内にも極少数だった。

 ほとんどの者はアレオンがどこを拠点としているのかも知らず、その顔すらも見たことがないという状況だったのだ。


 アレオンが十代の後半になった頃にはすでに、顔も思い出せないほど父親とは疎遠になっていた。

 王宮でアレオンが極稀に言葉を交わすのは、兄のライネルとその側近であるルウドルトだけという、軟禁にも似た状態。


 その日もアレオンの部屋に訪れたのは、国王に命じられて次の任務を告げに来たルウドルトだった。




「……アレオン殿下、次の対象ゲートはSSランク16番だそうです」


 王宮で管理されている高難易度ゲートは、ランクや発生順で番号が振られている。そのリストは、常にアレオンの手元にあった。

 その攻略が、一方的に与えられた仕事だからだ。

 そこから対象の番号を知らされて、アレオンは思わず眉を顰めた。


「……ここは俺以外にやらせろと言ったはずだが。霊体やら物理無効やらが混在してて、剣一本の俺だと対応が難しい」

「陛下にはそのように伝えましたが、『いいからやれ』と」

「チッ……クソ親父が」


 ライネルさえいれば、正直アレオンはどうなってもいいということだろう。

 別にその扱いは構わない。

 王位なんて欲しくもないし、煩わしい権力争いなんてまっぴらごめんだからだ。


 こんなつまらない世界で、命だって別に惜しくない。


 いっそ全力を出し切って死ねるような敵と戦えれば本望。いつもそんな気持ちで高難易度のゲートを歩いている。


 それでも、いや、だからこそ、不利だと分かっている自分の力も発揮出来ない場所で死ぬのは、不本意極まりないのだ。


「……お前、よくそんな親父のクソ伝言を俺に伝えられるな。……親父のこと、殺したいくらい憎いくせに」

「せっかく手に入れた陛下の信頼を裏切るわけにはいきません。……今はまだ。おかげで私はライネル殿下とアレオン殿下の橋渡しができているのですし、今がその時でないことは弁えております」

「はっ、忍耐強いことだな。俺だったら問答無用でぶん殴る」


 ライネルとアレオンの境遇差は、その生まれ順だけによるものではない。

 こうして敵意を隠せない息子と、それを隠せる息子の差だ。

 あの穏やかなライネルの上っ面しか見えていない父。

 自身の傀儡だと思っているあの息子が、その喉元に噛み付こうと虎視眈々と狙っていることに気付くのは、きっと死ぬ間際だろう。


「……これ以上拒否ったところで、クソ親父は撤回せんだろうな。仕方ない、ルウドルト。せめて聖水数十本と呪文無効アンチスペルの魔石、あと霊体に特効のある剣くらい親父に用意させろ」

「それなら事前に陛下に打診しました。即断られましたが」

「……ルウドルト、やっぱあのクソ親父今すぐ殺してこい」


 聖水も呪文無効の魔石も、霊体特効武器も、当然どれも高額だ。

 しかしランクSSのゲートを潰すのだし、本来出し惜しむべきものでもないだろう。


 ……分かっている。ただ単に、アレオンに使わせるのがもったいないのだ。

 一国の王が実益と私情を分けて考えることができないなんて、そりゃあエルダールも荒む。アレオンは半ばうんざりとして、きつくしわの寄った眉間を押さえた。


「陛下がクソ過ぎて同情いたします、アレオン殿下。……ですが、代わりに別の使用許可が下りました」

「別の?」


 そんなアレオンに、ルウドルトが思わぬ情報の提示をする。

 不意に訪れた常にない展開に、アレオンはぱちりと目を瞬いた。

 代わりに何を使えというのだろう。想像がつかない。


「何の許可だ?」

「魔法生物研究所から、半魔の使用許可です」

「はあ? 魔研だと……? 半魔って……」


 魔研の名前を聞いて、アレオンは顔を顰めた。


 正直、あまり関わりたい場所ではない。

 王命で何度か魔物を捕らえてあそこに届けたことがあるが、狂気じみた研究者の遊び場のようだった。


 所長のジアレイスは父親の友人で、そのコネでやりたい放題。

 奴らが人道にもとる研究をしていることも知っている。

 ……そう、人間と魔物を掛け合わせた、人工の『半魔』を造っていることも。


「……何でそんなもん使用しろって?」

「魔研に、ちょうど捨てたい半魔がいるのだそうです。ただ、まだ魔力はあるので無駄に処分するのは惜しいとかで……。だからゲートで死ぬまで使い切って、そのまま捨ててくればいいと」

「はあ~……俺は厄介もんの処分屋じゃないぞ、クソが」


 残念ながら、アレオンはその半魔に同情するような心根の持ち主ではない。ただただ、そんな廃棄物寸前のものを押しつけやがって、という面倒な思いしかなかった。


 しかし、実体を持たない魔法生物に、アレオンがひとりで対抗する術は限られている。装備の耐性だって、父が金を出し渋るせいで大して付いていないのだ。

 敵陣にひとりで突っ込むよりは、そんな死に損ないでも少しは役に立つか、とアレオンは割り切ることにした。


 捨ててきていいというのなら、最低限、囮としてくらいは使えるだろう。


「気分は乗らねえが、魔研に行ってくる。……ルウドルト、ゲートの封印解除コードは?」

「は、こちらのメモに。……それから、ライネル殿下からこれも預かって参りました」

「何だ? ……ああ、特上のハイポーションか。どうせ死ぬときゃ死ぬんだから、こんなん要らねえのに」

「そうおっしゃらず。ライネル殿下もアレオン殿下を頼りにしていますので」


 ルウドルトの差し出したハイポーションは、大怪我も一発で治すとても高価なものだった。

 表向きはアレオンと距離を置いているライネルが、こんなものを弟に送っていると知ったら、父はどんな顔をするだろう。


「……まあ、一応もらっとく」


 アレオンは立ち上がると、腰にポーチを着けてその中にポーションを入れた。

 それから動きやすさを重視した軽鎧を着け、マントを羽織る。


「アレオン殿下、魔研からはそのままゲートに?」

「ああ。半魔がどんな奴か分からんが、それを連れて街中を歩くわけにもいかないだろう。とっとと終わらせてくる」


 とっとと、と言っても、ランクSS級のゲートは深度が100階から150階くらいある。しばらくはここに戻って来れない。


 けれどこれはいつものこと。

 アレオンは面倒臭そうに転移魔石を取り出した。


「じゃあ行ってくる。必要ないだろうが、一応親父に報告だけしとけ」

「かしこまりました。いってらっしゃいませ」


 父親のために働くのはムカつくが、こんなところにいるよりもゲートで戦っている方がずっとマシだ。

 部屋にルウドルトを残し、アレオンは不機嫌な顔をしたまま魔研へと転移した。


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