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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、自分のことには興味がない

次話が書けたのでフライング。

「もしかしてレオくん、魔界と何か関わりがあるんじゃないの? ……魔界っていうか、魔王と」

「俺が? そんなわけないだろう。魔界なんてこの間行ったのが初めてだし、魔王なんて会った覚えもない」


 クリスの言葉を、レオは馬鹿馬鹿しいとばかりに一蹴する。

 しかしクリスは考え込むように腕を組んだ。


「まあレオくんは間違いなく人間だし、出生もはっきりしている。ユウトくんのように、彼らの系譜に関わるわけではないだろう。でも今の話を聞くと、全く何も関係ないとは思えないんだよね……」


 彼はそう言うとテーブルに肘をつき、軽くこちらに身を乗り出してくる。クリスの観察するような興味津々といった視線が、レオに向けられた。


「元々会った時から、君が闇属性的な人間だとは思っていたんだ。だがレオくんには魔力が一切備わっていないよね。いっそ不自然なほどに」

「……魔力のない奴なんて、その辺にごまんといるだろう」

「魔法の行使に必要な量がないだけで、大概の人間には微少ながらも何かしらの属性を帯びた魔力があるものなんだよ。特に君のようにエネルギーの大きな者なら、偏った強い属性が備わっているはずだ」

「それが俺には露ほどもないと?」

「うん、珍しいとは思っていたけど、まるで死人並にない。レオくんは普段属性魔法の付いた装備を着ているから、周囲の人は分からないだろうけどね」


 自分に魔力が全くないことは知っていた。しかし、そこまで空っぽだったとは。

 だからと言って、レオとしてはどうと言うこともなく、何の影響もないのだけれど。


「魔力も闇属性もないんなら、俺はやはり魔王なんかと関わっていないってことだろ」

「逆だよ。ここまでくると、意図的に君の魔力が操作されていると考える方が自然だ。おそらく大精霊もレオくんが何かしら魔王と関わっていることを知っていたんだろう」

「……いや、もし魔王が関わっていたとして、俺の魔力を消す意味がねえだろ。強力な魔法でも与えてくれるならまだしも」

「それが、そうでもないんだよね。……ああ、でもこうなるとやはり、ルガルの文献に信憑性が……ん~」


 ブツブツと呟いて、クリスは両手で顔を覆った。

 互いの視線を遮断することで、何か思考をまとめているのだろう。レオは未だに彼が何に引っ掛かっているのか分からなかったが、ただその邪魔をしないように黙って紅茶を啜った。


 正直なところ、レオにとっては自分のことなどどうでもいい。ユウトが大精霊と魔王が生んだ存在だということの方がよほど気掛かりだった。


 レオは魔属性についてはあまり詳しくないが、人の持つ聖属性と闇属性が危ういものだということは知っている。

 暗黒児ダークチャイルドだった頃のユウトは闇属性ゆえに自己破壊の傾向があったし、今の聖属性の強い状態になってからは自分を省みない利他的なところがあった。


 以前からレオがユウトを平和で平凡な世界で過ごさせたいと思っていたのも、そういう影響を弟に与えたくなかったからだ。

 二人で日本に飛ばされてしまった時は、それが叶うのではないかと思っていたのだけれど。


(……ユウトの出生自体が、世界の存続に関わるものだったということか。この世界に再び呼び戻されたのも、きっと……)


 まるでユウトが最初から道具のように造られたような気がして腹立たしい。

 しかし、彼らがユウトを生んでくれなければこうして命より大事な弟に出会うことはなかったわけで、そこを責めるのは本末転倒な気がした。


 ……まあ、ディアや大精霊がユウトを可愛がり、護ろうとする姿勢があるだけマシか。

 この事実の上に弟を道具のように扱われたら、レオは彼らを殺してこの世界を見捨て、それこそジアレイスたちが拠点にしている新世界を乗っ取って、ユウトとそこに移り住んだかもしれない。


「……レオくん、何か物騒なこと考えてる? ものすごい悪役顔してる」


 いつの間にか顔の覆いを取ったクリスが、目を眇めてこちらを見ていた。

 おそらくレオが考えていたことなんて、彼にはおおよその見当が付いているのだろう。

 特に答えは必要なかろうと、レオはその問いを無視した。


「あんたこそ、何を考えてた?」

「君たち兄弟の、世界での重要性についてだよ。ユウトくんはもちろん、どうやらレオくんにも大きな役割があるみたいだし。……しかし、いつから……? ん~、これはレオくん本人に訊いても意味がないかもな……とすると……」


 こちらに答えていたはずのクリスの視線が外れて、最後にはブツブツとした独り言になる。

 レオに確認しないということは、これも彼の中でまだ検証が必要な事案ということなのだろう。


「……また何か宿題が増えたのか」

「うーん、そうだね……。君に話すには今ひとつ確証に欠けるというか。……彼らがどこまで知っているか分からないけど、話を聞きに行くかな……。ごめん、この辺りの話も今回は保留にして」

「まあ、もしも俺の役割なんてあったとしても、正直どうでもいい。ユウトのこと以外で従う気もねえしな。……ずいぶん話が逸れた。俺の話よりユウトの思い悩んでいたことに関する報告をくれ」


 レオの関心事は、何もかもユウトが優先だ。そもそも兄は弟さえいれば、自分が何者であっても関係ないし興味もない。

 申し訳なさそうに言うクリスにそう告げると、レオはすぐに話を戻した。


「ユウトの出生の話が出たのは、あいつの悩みに関係するからだろう。ユウトに何があったんだ?」

「ああ、うん。……ええとね、最後の精霊の祠のボスと会った時に、ユウトくんは大精霊たちに造られた傀儡だと言われたらしくて」

「傀儡……。なるほど……それでディアがユウトの疑念を払拭するためにその出生を明かしたのか。まあ実際、俺だって端から見ていたらその魔族と同じ感想を抱く」


 話だけ聞くと、ユウトは世界の有事に備えるために造られたような印象だ。高位魔族なら弟の聖属性にはすぐ気付くはずだし、そういう理解をしてもおかしくない。


 だがその出生の話を聞き、ディアと言葉を交わしたことでユウトの悩みが消えたのなら、レオが口を挟むことではないだろう。

 弟はレオよりもずっと人を見る目がある。ディアは実母でもあるのだし、ユウトが彼女たちを味方として扱うなら、レオとしてはそれを信じるだけだ。


 とりあえず、弟に仇為すものがないのなら問題ない。


「ユウトは一応、自分の出生に納得したんだな?」

「うん。生まれのいきさつはともかく、大精霊もディアさんもユウトくんのことはすごく大事に思ってるからね。……結構軽く明かされたけど、生命を宿す殻を魔力で造るなんてディアさんも命削ったはずだし、大精霊と魔王も自身の魔力の一部を託したはずなんだ。そりゃ自分の半身みたいに思い入れもあるから、可愛いよね」


 確かに、ユウトの持つ力を考えれば、彼らが渾身の魔力を注ぎ込んだことが分かる。

 さらに、あれだけめちゃめちゃ可愛く育ったのだ。大事にしたくもなるだろうと兄も納得する。


「……しかし自身の出生を知ったとなると、ユウトは世界を護ることに義務感を抱きそうだな……」

「そこはユウトくんの性格にも起因するから、これこそ私たちでフォローをしていくところだろう。ディアさんも、絶対ユウトくんを護ると言ってた。みんなでこの災厄が時流に乗る前に潰そうって」

「時流?」

「あー……ええと、……説明するのが難しいな」


 災厄が時流に乗るとはどういう意味だろう。

 レオが訊ねると、クリスは少しだけ言葉を選んだようだった。


「簡単に言うと世界の時勢の流れみたいなもの、かな。そのうねりに巻き込まれると、悪い流れを止めるのが難しくなるんだって。だから、事がその流れに乗る前に決着を付けようってことだね」

「世界の流れ……」


 みたいなもの、か。この言い方こそが、クリスが正確にそれを語っていないことを表している。ここに何かを隠しているのだ。

 しかしそれを加味しても、彼の語る内容にはレオが不信に思うところはなかった。


 そうだ、話はいたってシンプル。結局ユウトが危険な目に遭う前に、全て潰せばいいということ。


「一応、今回のユウトくんに関する報告はこんなところだよ」

「……分かった。あとはさっきの文献の話なんかが確認出来たら、報告を早めにくれ」

「了解」


 クリスの返事を聞いたレオは、これで話は終わりだとばかりに、乗り出していた身体を引いて椅子の背もたれに預けた。

 しかし、何故かクリスはテーブルに肘をついたままの姿勢でこちらを見ている。


 それを不思議に思い、レオは軽く眉を顰めた。


「……何だ。まだ何かあるのか」

「ん-、あのさ。……魔研の話、ユウトくんにしちゃったら? って言うか、陛下やルウドルト様との情報交換の場に、ユウトくんも入れた方がいいと思うんだけど」

「却下だ」


 何を言い出すかと思えば。

 クリスの提案を、レオは即座に一蹴した。


「世界の重荷を背負わされたユウトに、さらに気疎い思いをさせる気はない。必要なことは俺が告げるし、あいつは余計なことを知らなくて良いんだ」

「でもさ、今後奴らと対峙した時に、その余計な情報があるとないとじゃ大違いだよ。もちろんユウトくんのことは全力で護るけど、万が一ってこともあるし」

「……一応魔研が敵で、降魔術式を使う奴らだということはユウトも知ってる」

「上っ面の情報すぎるでしょ、それ。……これは過保護で済む話じゃないよ?」


 頑ななレオの態度に、クリスは呆れたため息を吐いた。


「本当なら君たち兄弟の間のことは黙って見守っててあげたい。でも、この状況では黙っているわけにはいかない。私だってユウトくんのこともレオくんのことも護ってあげたいからね」


 いつも柔和なクリスの瞳が、常にない厳しさでレオを捉える。

 それに僅かに怯んでしまうのは、レオの中に拭い去れない負い目があるからだ。


 そんなレオの微妙な変化をクリスが見逃すはずもなく、彼はことさら静かな低い声で促した。


「正直に話して」

「……何を」

「それは、君が一番分かってるでしょ」


 この段になってもうそぶくレオに、クリスは大きなため息を吐く。

 しかし、そこで逃がしてはくれなかった。


「ここまで頑なにユウトくんを魔研の記憶から遠ざける理由だよ」

「だから、それは……」

「……ユウトくんが昔魔研に捕まっていた事は君に聞いたし、彼が酷い目に遭わされてたことも想像つくけど。……でもレオくんがユウトくんに記憶を思い出させたくない本当の理由は、他にあるんでしょ?」


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