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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、グルムと対面する

 ハンドルを回した途端に、ユウトとエルドワは洞窟のようなところに飛ばされた。


 それほど暗く感じないのは、前方に伸びる通路に篝火が点いているからか。最奥は見えないけれど、ユウトたちを導くような一本道だった。


「……ここ、異世界かな。エルドワ分かる?」

「異世界じゃない。空気の匂いが違う。多分ゲート」

「ゲートか。じゃあクリアすれば普通に方陣が出て脱出出来るね」


 隣にいるエルドワが、クンクンと周囲の匂いを嗅いでいる。


「ここにいるのはやっぱり吸血鬼っぽい。ひとりだけみたいだ」

「ひとりならどうにかなるかな。……っと、進む前にレオ兄さんに連絡しなくちゃ」


 ユウトはポーチから通信機を取り出した。

 通話ボタンを押せば、すぐにコールが始まる。そして、ワンコールも終わらぬうちにレオが応答した。早い。


『もしもし、ユウト!?』

「レオ兄さん、祠の鍵を開けて敵のいる場所に飛んできたよ。どうやらゲートみたい」

『そうか、祠は無事に開錠できたんだな。さすが俺のユウトは可愛くて賢い。……しかし、問題はここからだ。敵はどんな奴だ?』

「まだ分かんないけど、エルドワはやっぱり吸血鬼だって言ってる。ただひとりだけみたいだから、どうにかなるんじゃないかな」

『ひとりでゲート……ベラールの吸血鬼と同じ状況か。あまり宜しくないな……』


 レオは通信機の向こう側で何か思案している様子だ。ユウトはそれに首を傾げた。


「宜しくないって、何が?」

『……今回の敵は厄介だということだ。ユウト、敵に会ったら問答無用で速攻で倒せ。話を聞こうとするな、気を抜かず全力で潰すんだ。ちゃんとヴァルドも召喚しろ』

「もちろんヴァルドさんは召喚するけど……」


 レオは少し強めにまくし立てる。

 とっとと終わって欲しいのもあるのだろうが、何か心配なことがあるのだろうか。見えないところにいる分、不安が増幅されているのかもしれない。


「エルドワもいるし、ヴァルドさんも吸血鬼殺し(ダンピール)だし、そんなに神経質にならなくても大丈夫だよ」

『魔族を侮るな! 吸血鬼と戦う時、向こうの初動は必ずエナジードレインだからな! それも忘れるな!』

「うん、分かった。じゃあ、そろそろ行くから、切るね」

『くっ、もう行くのか! 何かあったらすぐ連絡するんだぞ! 敵を倒した後も報告しろ! 3時間越すな!』

「はいはい」


 全く、兄は心配性過ぎる。

 ユウトは苦笑と共に通信を切った。そして通信機をしまいながらエルドワに声を掛ける。


「さてと、まずはヴァルドさんを召喚しようか」

「うん。敵に関するデータはヴァルドにもらうのが一番手っ取り早い」

「そうだね。ヴァルドさんの叔父さんだし、特殊能力とか分かるかも」


 ユウトは右耳のピアスで指先を傷付けると、それをブラッドストーンに塗ってヴァルドを呼び出した。


「ヴァルディアード!」

「……お呼び頂き光栄です、我が主」


 魔方陣から艶やかな髪の悠然とした美青年が現れ、ユウトの目の前で跪く。

 いつものようにこちらの手を取ったヴァルドは、今回もエルドワに血を舐めるよう指示をした。


「どういう事情か知りませんが、またレオさんが同行していないご様子……。我々でユウトくんを護るなら、あなたもその姿では都合が悪いでしょう、エルドワ。主の血を頂きなさい」

「うん」


 子どもがすぐにこちらの指に吸い付いて、途端に大きな男に変化する。これで戦う準備は万端だ。もちろん傷はヴァルドが消してくれた。


「お呼び出ししてすみません、ヴァルドさん。今回も力を貸して下さい」

「もちろんです、我が主。貴方のお役に立てることは私の至上の喜び……。いつでもお使い下さっていいのですよ。差し当たって、今回の状況をお聞きしても?」

「はい。実はここ、最後の精霊の祠を封じている吸血鬼の居場所なんです。魔力がメインの祠で、周囲が瘴気まみれの環境のせいもあって、レオ兄さんを連れて来れなかったんですけど」

「……なるほど。つまりこの3人で精霊の祠の攻略をするということですね。ここの敵は、残る私の叔父のひとり……」


 すぐに理解したヴァルドは、思案して黙り込んだ。

 叔父の顔を思い出してあたりを付けているのだろうか。


「多分ここにいるヴァルドさんの叔父さんって、魔力に長けたひとだと思うんですよね。心当たりありますか?」

「……ええ。と言うか、残る私の叔父で未だ表に出ていないのがもうそのひとりしかいません。おそらくここにいるのはグルム……」

「ヴァルド、そいつはどんな奴?」

「……魔力、知力が高いのはもちろんですが、加えて予知能力を持った手強い男です」

「予知能力?」


 思わぬ敵の能力に、ユウトは目を丸くした。


「つまり、未来を見通せる力ですよね。どうしてそんな能力があるのに、こんなゲートにひとりでいるんでしょうか」

「予知と言っても、自分の未来は全く見えないらしいです。世界や他人の未来も断片的で、自分が目的を持って見れるわけじゃないとか。……それでも厄介な男なのにはかわりありませんけどね」


 そう言って、ヴァルドはまた思案する。


「……あの男がこの特殊な能力を捨てて転生しようとするわけがない。魔性を持つ配下もいないし、利がありませんから。このゲートには、おそらくその能力を疎む者に閉じ込められたのでしょう。……とすると、グルムはここから出るために動く」

「だったら俺たちにここのゲートのボスの座を押しつけて、自分は出ようとするかも。全員殺しちゃうと結局自分も出れないし」

「そっか。……でも、ボスの座って互いの了解無しに勝手に出来るものなの?」

「いえ、当然双方の了解が必要です。……ただ、吸血鬼は相手を眷属化して思い通りに操ることが可能ですし、……あの男の場合、見える未来を利用して言葉巧みに丸め込んでくる可能性もある。気を引き締めて行きましょう」


 自分の未来が見えないからこんなところにいるのだろうが、その能力自体はだいぶ強力なのだろうか。

 ……断片的にでも見える世界の未来。確かにそれは気になる手札だけれども。


「とりあえず、あまりグルムには近付かないようにして下さい。エルドワも」

「うん、気を付ける」

「はい、分かりました。……じゃあ、行きましょうか」


 ようやく3人は歩き出した。

 真っ直ぐ続く通路。どういう意図の作りなのか、進むほどに明かりが少なくなっていく。なんとなく、心も沈んでいくようだ。


 やがて通路の終わりに差し掛かると、突然周囲の燭台に火が灯り、広間とユウトたちを照らした。妙に儀式的で厳かな雰囲気だ。

 その火は最後に天井から下がるシャンデリアに灯り、真下の玉座にいる狡猾そうな男の姿を炙り出した。


 この男がグルム。


 彼はユウトを見るとニヤリと笑い、大きく声を掛けた。


「よく来たな。聖なる犠牲を担う者よ。何も知らずに利用されて、儚く命を散らす哀れな者よ」


 聖なる犠牲。

 さっき聞いたばかりのその言葉に、ユウトは瞳を瞬いた。


次から週一更新になります。

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