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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【ジラック地下への潜入】2

「あ、いたいた」


 中央通路の奥にある扉をひとつひとつ調べていると、そのうちの一部屋の中にクリスを見付けた。

 他の扉は全部魔法鍵で封じられていたのに、何故かこの部屋だけ開いている。この男の仕業だろうが、一体どうやったのだろう。


 とりあえずここはガラシュ・バイパーの執務室か何かのようだ。

 ネイが入っていってもクリスはこちらに目をくれることもなく、壁面の本棚の前で手元の魔術書を眺めている。

 おそらくまだまだここから動くつもりはないのだろう。

 ネイは扉を閉め、腕を組んで背中をその扉に預けた。


「……さっきまでの魔族の気配がなくなってるみたいだけど」

「私が辿り着く前にいなくなったよ。深夜になると吸血鬼は吸血衝動が強まるから。満月も近いし、月に一度の食事にでも行ったのかもね」


 本のページを繰りながらも、一応返事はしてくれるようだ。

 しかしさらりと言われたその内容は、少々物騒だった。


「食事か……。そういや上位吸血鬼って生娘の血を好むって話なのに、魔族の血とかでも飲めるもんなのかね。ユグルダで会った吸血鬼は男悪魔を眷属にしてたけど」

「生娘以外は不味いってだけで、飲めないわけじゃないみたいだよ。毒も効かないし、唯一飲めないのは聖属性の魔力を含んだ血液だけらしい」

「へえ、聖属性は飲めないんだ。……ヴァルドは半吸血鬼ダンピールなのに、ユウトくんの血を飲んでよく平気だな」

「……ユウトくんの血?」


 ネイの呟きに、クリスが反応して顔を上げた。


「ユウトくんって、聖属性なのかい?」

「……あれ、レオさんから聞いてない?」

「レオくんはユウトくんのことに関してはほぼ可愛いしか言わない」

「あ、確かにそうね。……そういや、最近のレオさんは頓にユウトくんに関すること話さなくなったなあ。もちろん可愛いはずっと言ってるんだけど、彼の能力について、その話題を避けているような……」


 多分、ユウトの特異性が明らかになり始めてからだ。元々どこかの片田舎で目立たず2人で平和に暮らすことを希望していたレオは、今の状況を苦々しく思っているに違いない。


「ふむ。自分の手元からユウトくんを取り上げられるのが怖いのかもね。あの子が大精霊に受ける特別待遇からしても、その加護たるや尋常じゃない。間違いなく世界にとって重要な存在で……何か大きなものを背負っている。……もしかすると、リインデルで唯一私が生き残り、ユウトくんと会ったのも、世界の導きなのか……」


 クリスは話を切って、手元の本をポーチに入れた。

 代わりに別の本を取り出して本棚に入れる。それを何冊分か繰り返して、ようやくこちらを見た。


「……王都に用事が出来てしまったな。そろそろ家主も戻るかもしれないし、ここを離れよう。興味深い書類や文献はこうしていくつか拝借できたしね。私の目当ての本はなかったけど」

「目当ての本?」

「以前リインデルにあった本だよ」


 そう言われて、ネイは彼が自分でここを見たがった意味を知った。

 クリスは焼き討ちにあったリインデルから持ち出された本を探していたのだ。その本は、村の生き残りである彼が見なくては分からないもの。他人が見たところで区別がつかない。


 その本を所持している者が、彼の故郷を滅ぼした者……仇だということだ。


 人間ではなく魔族の元でそれを探しているのは、何か分かっていることがあるのだろうか。まあ、ネイが詮索することでもないけれど。


「ネイくんの方の首尾はどう?」

「魔法鍵が掛かってるとこ以外は回ったよ。できればレオさんの偽物も見付けたかったけど今はいないっぽいし、今回は大体この辺に重要な部屋がまとまってると分かっただけで十分。……そういや、この部屋の魔法鍵あんたが開けたんだよね? これどうやって施錠すんの」


 開けっ放しで帰ったら、侵入者がいたことがバレてしまう。

 そう思って訊ねると、クリスは何でもないように頷いた。


「ああ、大丈夫。倉庫にあった術式にガラシュ・バイパーの署名印があってね。それを全く同じように水晶パネルから魔石粘土に写して、こっちのパネルに翳してやれば開閉できるんだ」


 部屋を出たクリスは、言った通りに粘土板を翳して扉を施錠する。


「うそ、簡単! これなら他の部屋も開けられんじゃん!」

「いや残念ながら、ガラシュ・バイパーの署名印で施錠されてるのはここだけなんだ。他はおそらく魔研の者たちの仕掛けた鍵だ」

「あー、ジアレイスたちか。ジラックでの拠点は領主宅でなくここなのかな」

「おそらくね。彼らはジラック領主のことを信用していないし、ここの方が地上より安全だもの」

「確かに」


 何にせよ、今はこれ以上ここにいても仕方がないようだ。

 ネイは転移魔石を取り出した。


「じゃあ、宿駅に戻りますか」

「あ、ごめん。その前に、私はこのまま一度ザインに飛ぶよ」

「ザイン?」


 意味が分からず眉根を寄せたネイに、クリスは自分の鎧を指差して見せる。未だに彼の装備はベラールから来た時のままだ。


「もえすで私の装備が出来ているはずなんだ。この時間ならまだやってるかもしれないし、そこで装備を受け取ってから直接王都に戻ることにする」

「もえす!? こんな仕事した後に、よくあんな疲れるとこ行く気になんね……尊敬するわ。まあ、この後は俺たちも宿駅を出て王都に戻ることになると思うし、転移回数節約でいいんじゃない」

「うん、じゃあ私はここで」


 ネイが請け合うと、クリスはにこりと笑った。


「今日は私のごり押しに応じてくれてありがとうね」

「別に、あんたの知識のおかげで俺もここに転移できたんだからお互い様でしょ」

「そう言ってもらえると助かるよ。……では、また王都で」


 クリスは軽く手を上げると、そのままザインへと転移していった。


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