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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【ジラック地下への潜入】1

 丸1日の行動不能を経てようやく復活したネイは、王都に着くとライネルへの報告をレオに任せ、その足で宿駅にいるクリスと真面目の元に向かった。


 転移魔石を使おうかとも思ったけれど、レオたちが次のガントの村に行くにあたって、ロジーで馬車の改造をするために3日ほど王都から動かないというから、クリスとそれほど急いで交代することもないのだ。

 そんなわけでひとりの徒歩移動。ほぼ休憩を取らないネイは、本来2日掛かるところを1日とちょっとで歩ききった。


 そして夜に予定通り真面目たちと合流する。

 ……と、レオが懸念していた通り、クリスは敵地に忍び込む気満々になっていた。


「……搬出先の座標に飛びたいって? いや、あんた隠密でもなんでもないでしょ。レオさんたちのとこに戻りなさいよ」

「もちろん、明日の朝には戻るよ。でも夜の間に時間があるじゃない。パッと行ってパッと帰ってくるから、行かせてくれないかなあ」

「だからそれはあんたの仕事じゃないって。そんなに気になるなら俺たちが行くから、その座標とやらを教えて」

「ええ? ずるいなあ、美味しいとこ持っていくなんて」

「いや、これ美味しいの?」


 何でそんなに自分で忍び込んでいきたいのか、意味が分からない。


「夜の眷属である吸血鬼の屋敷に、深夜に忍び込むのが美味しいってアホでしょ。夜の吸血鬼はクソほど厄介で強いよ」

「別にガラシュ・バイパーと戦ったりしないよ。こっそり行って見てくるだけ。書斎なんかを見付ければ、企みの分かる書類や本なんかもあるかもしれないし」


 なるほど、目当てはそっちか。

 無茶はするが無謀ではない、とレオが言っていたのはこういうことだろう。危険の基準がだいぶ普通より緩いだけで、考え無しに突っ込もうとしているわけではないのだ。


「だったら、俺たちで本や書類を取ってくる。確かチャラ男が少し魔界語読めたはずだし、本をダミーと入れ替えて盗ってこれるし、あいつを呼べばいい」

「あ、なるほど、ダミーと入れ替えて持ってくるという手が……。私の読み終わった魔界語の本と入れ替えてしまえばいいね。別にチャラ男くんとやらを呼ばなくても、私で事足りるんじゃないかな」

「……ああ言えばこう言う……」

「同じ事を昨晩真面目くんにも言われた」

「リーダー、クリスさんの聞き分けの悪さは筋金入りです」

「のほほんとしてるくせに面倒臭え男だなあ、もう」


 ネイは呆れたため息を吐いた。

 全く、何で自ら危険な場所に赴きたいのか。


「……仕方ないな。あんた、向こうで誰にも見付からないこと、騒ぎを起こさないことを約束出来る?」

「もちろん。今ジラックで騒ぎを起こすことが得策でないことくらい分かっているよ」


 根負けしたネイの言葉に、クリスは良い笑顔で返す。

 それにもう一度ため息を吐き、ネイは「ただし」と続けた。


「向こうには俺も一緒に行く。……どうせ貴族居住区の地下には一度忍び込みたいと思っていたし、構造を確認しておきたいしね」

「分かった。なら君にも座標を教えるよ」

「真面目くんはここで監視の継続をお願い。今夜もタイムテーブルに誤差がないなら、報告をまとめて陛下に判断を仰ごう」

「了解しました」


 クリスを連れて行くことに不安がないわけではないが、ここまで向こうに行きたがっているのには、きっと何かわけがあるのだろう。

 それを見極めてレオに報告するのもネイの仕事だ。

 ここの監視は真面目に任せれば問題ないし、これが今の最善。


「じゃあ、ネイくん。この文字列が座標だよ。転移魔石を握って、理解しなくていいから映像として頭にインプットして」

「……術式のここからここまでってことだよね。うん、よし。……真面目くん、俺たち今転移しても平気そう?」

「今なら危険を感じません」

「そうか。ならさっそく行くとするかね」

「では私も」


 ネイとクリスは転移魔石を掲げると、宿駅の部屋から姿を消した。






 次の瞬間、2人は薄暗い倉庫のような場所に出る。

 物資の届く部屋だからだろう。隅に積まれた輸送用の空箱には穀物や野菜、衣料品に至るまで、色々なラベルが貼ってある。座標に間違いがなければ、ここがガラシュ・バイパーのいる隠れ家だ。


 2人は周囲の様子を覗うために、その場でしばらく待機する。

 すると部屋の前の廊下を、数人の人物が行き交うのが分かった。ネイがそれに耳を澄ます。


「……この足音の反響の仕方、やはり地下っぽいよね。廊下を歩いているのは使用人かな? 気配からして普通の人間みたいだけど」

「ここに各貴族が物資を取りに来ているなら、それぞれの使用人が歩き回っていても不思議はないね。そこかしこに人間の気配があると、私たちもそこに紛れる事ができるからありがたいな」

「確かに。……とりあえず人目を避けながら、俺たちも歩き回ってみるか」


 ネイはそう言うと、人の気配が切れたところを見計らって、部屋から廊下に出る。

 そこは思いの外幅の広い通路になっていて、いくつもの細い廊下に繋がっているようだった。イメージとしては、大通りと路地のような感じか。


「ここが地下の中心なのかな。……明かりが少なくて薄暗いから、姿を見られても一見で見咎められることはなさそうだ。とりあえずどっかの横道入ってみる?」

「……この通路の奥から魔族の気配がする。私はそちらの方に行くことにするよ。書斎があるとしたらそこだからね」

「あんたはピンポイントでそれ狙いか……。俺は広さの全容とか地表との位置関係とか知りたいから、少し歩き回ってくる。……そうだな、これから1時間程度、別行動としますかね。そのうち合流出来るだろうけど、もし出来なかったら一旦この通路の突き当たりで落ち合うことにしよう」

「うん、了解」


 2人一緒に歩き回るよりは、それぞれ単独の方が目立たない。無茶さえしなければ、クリスの実力ならひとりにしても問題はないのだ。

 隠密に特化しているわけでもない彼が動き回るのは得策ではないし、1カ所に留まってくれている方が危険も少ないだろう。


 そう判断したネイは落ち合う時間を示し合わせ、奥に向かうクリスとは逆に、通路の一番外周に続くと思われる廊下に向かった。


 歩いてみると、やはり貴族居住区と地下の廊下は同等の広さだと分かる。細い廊下は突き当たりで階段になっており、てっぺんの落とし戸を開ければ各貴族の家に繋がっていることが窺い知れた。

 途中、何本かの廊下が頑強な岩で封鎖されていたけれど、これはおそらく金を出せなくなり、切られた貴族の屋敷に続くものだったのだろう。この先では、一体貴族はどうなっているのか。


「……外にいるオネエたちと連絡が取れれば位置関係が分かりやすいんだがなあ……」


 ネイは独りごちながらも、廊下の長さや位置、封鎖の有無をマッピングするようにメモしていく。

 これがあれば後で表に出た時に、それぞれの階段の場所や廃れた貴族の館の位置を見ながら答え合わせをして、地下への突入経路を割り出せるだろう。


 ネイはあらかた細い廊下を回り終わると、クリスがいるはずの中央通路奥へと向かった。

 少し地下にいる人間が増えてきている。おそらく深夜になり、そろそろ物資が届くためだ。貴族の使用人の意識がそちらに向いている間に、ネイはクリスを探した。


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