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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、指輪をはめる

 ロバートはポケットから鑑定用のモノクルを取り出してはめると、ユウトの出した未鑑定品をひとつずつ見定めた。

 指先で軽く叩いたり擦ったりしているのは、このアイテムが目視だけでは判定出来ない稀少なものだからだろう。

 そもそも海のゲートにいた時のユウトは精霊の影響で幸運が爆上がりしていた。バンマデンノツカイを呼ぶ魔笛と一緒に出たものだと考えると、かなりのレアものに違いない。


「……これは、すごいものを手に入れて来ましたね」

「何だか分かりました?」


 ワクワクと訊ねるユウトに、ロバートはまず巾着を差し出した。


「こちら、中身はただの酸素キャンディですが、巾着には増殖の術式が掛かっています」

「増殖ですか?」

「やってみた方が分かりやすいですね。この巾着の中に酸素キャンディを1個だけ入れて、口を閉じます」

「……はい。閉じました」

「それを上からぽんっと軽く叩いてみて下さい」

「? はい」


 ユウトは言われた通りに、巾着の上からぽんと一度叩く。


「では、中を開けて」

「はい……え!? キャンディが2つになってる!」

「それが増殖です。クッキーを入れればクッキーが、チョコレート菓子を入れればチョコレート菓子が2つになります」

「何これ、夢のアイテム……!」


 説明を聞いたユウトが瞳をキラキラさせている。おそらく大好きなチョコレート菓子を殖やして食べる想像をしているのだろう。頬を緩ませながら大事そうに巾着を胸に抱いた。


「一応増殖には条件がありまして、食べ物、飲み物、薬などの口にするものであること、殖えた状態でも巾着の口がきっちり締まる大きさであることが必要です。それから、殖える回数にも上限があります」

「あ、無尽蔵に殖えるってわけじゃないんですね」

「ええ。一律2回まで。つまり、ひとつのアイテムから2つで、計3個までしか殖えません。ちなみに殖やしたアイテムからは増殖しません」

「へえ。でも結構使えそうです。貴重な薬とかは、これで殖やしておけば予備ができますもんね」


 確かに、世界樹の葉の朝露なども殖やしておけば、後々役に立つこともあるかもしれない。このアイテムは当たりと言って良いだろう。

 普段はユウトのお菓子を殖やせるし、日常使いになりそうだ。

 弟もそのつもりらしく、いそいそと巾着をポーチにしまった。


「次にこちらの指輪ですが」

「水中呼吸が付いてるか?」

「いえ、水中呼吸は付いていません」

「……ちっ」


 これで酸素キャンディ不要とは行かないようだ。期待していたのだが、やはり今後は余程必要でない限り水中ゲートは却下しよう。


「レオさんは不服そうですけど、これはすごいアイテムです。制限時間付きですが、超稀少なリバースリングですよ」

「え!? リバースリングって、魔物がドロップするものなんですか!? 魔界の古代遺跡からしか発掘されないという話を魔書で読みましたけど……」

「リバースリングって?」


 ユウトが首を傾げてレオを見る。しかし、超稀少というアイテム、レオだってお目に掛かったのは初めてだ。かろうじて名前と、ざっくりとした効果くらいしか知らない。


「……俺も正確な情報は知らん。リバースリングというのは確か、死者を生き返らせる指輪だよな?」

「そうです。この世界では、魔界から入ってきたと言われるその指輪が遙か昔には2つほどあったようですが、一度使うと壊れてしまうため今は失われています」

「あのサメの魔物が魔界で飲み込んだか何かしたのかな? もしも装備扱いだったらこのリングを使って復活していたはずだけど、身体の脂で覆われてサメの身体に触れていなかったのかもね。私たちにとってはラッキーだったな。……まあ何にせよ、すごいものを手に入れたね」

「そうですね、生き返りの指輪……。でも、制限時間付きってどういうことですか? ロバートさん」


 訊ねたユウトに、ロバートは指輪を人差し指と親指で摘まんで、宝石を指差して見せた。


「普通のリバースリングにはこんな宝石は付いていません。時間制限もなく、条件として頭部を含めた肉体が6割以上残っている者ならば必ずひとり生き返らせることができます。しかし、このリングには時間制限の術式が入った宝石が付いている。この宝石ひとつにつき有効なのは1時間のようです」

「……つまりこの指輪は、死んでから3時間以内のひとでないと生き返らせられないってことですか?」


 普通に考えればそういうことだろう。それに対してロバートは頷いたが、横で聞いていたクリスは顎に手を当てて思案した。


「……そう聞くと一見ずいぶん融通が利かないように感じるけど……。でももしかしてこれって、使い方によっては普通のリバースリングよりも強力なんじゃないのかな?」

「ああ、さすがクリスさんは察しが良いですね。確かに、これは死後3時間以上が経過してしまったら誰も救えないのですが、逆となると有能なんです」


 ロバートはそのままユウトの前で宝石の説明をする。

 弟はその手元を覗き込んだ。


「死んですぐ、1時間以内にリバースリングを使うと、宝石は1個しか消費しません。つまり」

「あ、1時間以内なら3人生き返らせることが出来る!」

「そういうことです。もちろんこれをはめて戦闘していれば、討ち死にしたとしても宝石をひとつ消費して即座に生き返る。ひとりが3回リバースすることも可能です」

「へえ、すごい!」


 そう考えると、普通のリバースリングよりずっと使える。

 ロバートから指輪を受け取ったユウトは、すぐさまレオを振り返った。


「じゃあこの指輪はレオ兄さんが着けて」

「俺が?」

「私もユウトくんに賛成。レオくんが着けるべきだと思うな。君が生き残れば何かと安心だし。誰かがやられたらレオくんが復活させてくれればいい」


 指輪なんて正直鬱陶しい。しかし、ユウトに万が一のことがあった時に、何を措いてもこの子を生き返らせる選択ができるのは、自分しかいない。……そう考えると、自分が着けているのが一番か、とレオも納得した。


「分かった。俺が着ける」

「うん、良かった」


 ユウトとしても、これでレオが死ぬ心配がぐっと減ると安心したのだろう。弟は、兄が指輪を素直に着けてくれたことに安堵して微笑んだ。

 こんなことでユウトが安心してくれるなら、レオだって鬱陶しさなど気にしない。


 レオは指輪を着けた上から革の手袋をはめると、これで用事は済んだとばかりに立ち上がった。それを察したロバートも向かいで立ち上がる。


「これでだいぶ身軽になった。あんたには手間を掛けさせたな。礼を言う」

「いえ、職人ギルドにも上級素材が回るようになって、レオさんたちのおかげで売り上げも評判もだいぶ上がっているんです。お礼を言うのはこちらの方ですよ。戦利品の武器防具や魔法アイテムなんかも商人ギルドに卸せますし、良いこと尽くめです」

「今後は私も頻繁にお世話になると思いますので、よろしくお願いします、ロバートさん」

「こちらこそ。クリスさんまで加わったとなると、これからどれだけすごい素材が納品されてくるのか楽しみです。ユウトくんとエルドワも、どんどん強い魔物と戦うことになりそうだから気を付けて下さいね」

「はい、ありがとうございます。ロバートさん」

「アン」


 ユウトもエルドワを抱いて立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。


 さて、時間は夜10時を回ったところ。

 この後は気が進まないがもえすに向かおう。


 ロバートに見送られながら職人ギルドを後にすると、レオたちは夜に紛れ、人目を気にしながらもえすを目指した。


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