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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、ロバートに鑑定を頼む

 リリア亭は相変わらず一般客が入っていない。おかげで久しぶりに顔を出すと、ダンにものすごく歓迎された。

 新参者のクリスもいたが、その穏やかな雰囲気にリリアから一発で宿泊OKが出ている。問題ない。

 レオたちは一度部屋に行ってアイテム整理などをした後、食堂でダンの絶品料理を頂いた。相変わらず美味い。クリスは感激しきりだった。


「ああ、満足。部屋もきれいだし料理も美味しいし、今のザインの宿はこんなにレベルが高いんだねえ。もっと繁盛していても良さそうなのに」

「ここは特殊だ。店主の眼鏡に適わないと泊まれないからな。まあ、おかげで俺たちは静かで良質な宿を使えるわけだが」

「ダンさんの料理はザインに来る楽しみのひとつだもんね」

「アン」


 食後のお茶を飲みながら、一行は一息吐いて、これからの話にシフトした。


「ところでレオ兄さん、この後はもえすに先に行くの?」

「いや、絶対疲れるから先に職人ギルドに行く。売りたい戦利品なんかも色々あるしな」

「今のザインの職人ギルド支部長ってロバートさんなんだろう? 会うのいつ以来かな、楽しみだ」

「……あんた、ロバートとも知り合い?」

「冒険者だった頃はあちこちのギルドに知り合いがいたからね」


 まあ、確かにそうか。白銀隊という有名冒険者パーティ、当時はあちこちのギルドから依頼が引きも切らなかったに違いない。昔の無秩序な冒険者ギルドの頃は、信用出来る者に直接依頼するクエストが多かったようだし、当然だろう。


「そっか、クリスさん、ロバートさんのこと知ってるんですね。王都で会ったウィルさんは、ロバートさんの息子さんなんですよ」

「あ、そうなんだ。ふふ、言われてみればあの子、ロバートさんにそっくりだ」


 ロバートとウィルは、見た目はあまり似ていない。クリスの言う『そっくり』は、つまりそういうことだろう。……ウィルを相手にして彼があまり怯まなかったのは、すでにその父で耐性があったからかもしれない。


「他に、冒険者界隈で当時からいる人……。あ、だったらクリスさんって、現役時代の魔工のお爺さんのことも知ってるんじゃ?」

「魔工翁かい? もちろん知っているよ。昔のそれなりのランクの冒険者なら、彼とロジー爺に世話になってない人間はほとんどいないんじゃないかな。……ただ、パームとロジーは2代目が潰したと聞いているけど」

「一応、王都で先日2店とも復活した。それに先代の魔工翁はこのザインで、ロジーの爺さんはラダで、隠居しつつ気ままに小さな店をやってる」

「へえ、そうなんだ! そのうち時間があったら訪ねてみたいな。……でもその2人の居場所を知っているのに、装備を作るのは『もえす』というところなのかい?」


 クリスとしては、ロジーとパームの先代が武器防具やアイテム作成の最高峰という位置づけなのだろう。もえすはその特殊さゆえにほぼ無名だし、仕方がないか。


「もえすは魔工翁とロジーの爺さんの直系の孫が2人でやってる店だ。ちょっと……いや、かなり変わった店だが、腕だけは保証する。鍛冶とアイテム作成の両方をやってるから、トータルで装備が作れるしな」

「ああ、先代の孫なのか! それは期待出来るね」

「今僕たちが着てるのももえす製です。デザインは変わってるけど、着心地や性能はすごく良いですよ」


 鎧がなくてもそれと同等の性能がある装備は、戦闘時の可動域が段違いだ。このデザインも、着慣れてしまえばもはや気にならない。


「魔法金属が織り込まれた素材で作ってあるのか、面白いなあ。違う素材を縫い合わせることで属性も重ねられるんだね」

「素材が揃っていてデザインさえ許容できれば、できあがりも早いんだが……」


 一番の心配はデザインがミワだということだ。

 クリスが彼女の琴線に触れないと、ネイのようにひどくやる気がない感じでデザインされる。もちろん仕上がりに遜色はないのだが、形が決まるまでにものすごく時間が掛かるのだ。

 まあ最悪の時は、ラダの爺さんのところに行ってデザインだけしてもらって、作成はミワに頼むという形でもいいかもしれない。


「とりあえずこの後は街に出て、8時までは必要なアイテムの買い出しをしよう。飲料水や食材も結構減ってしまったしな」

「了解。あ、今日はもう鎧脱いじゃったけど、街中を歩くだけなら必要ないよね?」

「ああ、いらん。どうせもえすに行ったら鎧は脱げと言われる」

「……そう言えばこの間までタイチさん王都にいたけど、戻ってるのかな?」

「大丈夫だろう、開店の手伝いと言っていたからな。店が開いた今はもうタイチ母だけで普通に回っているはずだ」


 あちらも店が軌道に乗れば従業員を雇うだろうし、こちらに店を構えるタイチやミワが手伝いに行くこともなくなる。今後はそれぞれの店が独自色を持って発展して行くに違いない。

 もえすの仕事に支障はないだろう。


「では、10分後にリリア亭を出る。各自準備してまたここに集合しよう」


 みんなが食後のお茶を飲み終わると、レオは号令を掛けた。






 細々とした買い物をしていると、時間が過ぎるのは早い。

 8時を越えたところで一行は職人ギルドに向かい、裏口から支部長室に入った。


 普段なら、ここの支部長が突然現れたレオたちに驚くことはない。

 しかし今回に限っては、ロバートは現れた一行の中にクリスの姿を見つけて目を丸くした。


「えっ、クリスさん!? どうしてレオさんたちと一緒に……?」

「お久しぶりです、ロバートさん。このたび冒険者として復帰しまして、レオくんたちのパーティに入れて頂くことになりました」

「復帰って……、レオさんがここに連れて来たってことは、そういうことですよね?」

「ランクSSSの冒険者登録を頼む」


 レオがさらりと言うと、ロバートは引き攣った笑みを浮かべた。


「嘘みたいですね、過去のレジェンドが、現代のレジェンドとタッグを組むとは……。ていうか、今現役復帰なんて、クリスさん元気すぎるでしょう。体型とか見た感じもほとんど変わってないじゃないですか」

「そうですか? 20年もアホで生きてきて、悩みやストレスがほとんどなかったから元気なのかもしれません。と言っても、体力なんかはだいぶ落ちてますけど。……そういうロバートさんは、だいぶ落ち着いたように見えますね。昔はウィルくんみたいなテンションだったのに」

「ウィルとも会ったんですか……。まあ、私ももういい大人ですからねえ。そうテンション上げてひっくり返ってもいられないんですよ」


 やはり、ロバートも昔はそういうテンションだったようだ。落ち着いてくれて良かった。レオは心底思う。

 ウィルも後10年もすればこのくらい落ち着くのだろうが。


「今日はクリスのギルドカード登録と、溜まった素材や戦利品の買い取りを頼みに来た。直接倉庫に送ったものと合わせて精算してくれ」

「かしこまりました。代金の分配は?」

「パーティメンバー等分で構わん」

「レオくん、そうすると私が関わってない討伐の戦利品の代金まで、こちらに分配されてしまうけど」

「そんなのいちいち計算してられるか、面倒臭え」


 ポーチに入っている戦利品の類いは、ごちゃごちゃでどこのゲートで取ったかなんて分からない。それを分ける方が手間だ。


「私は私で今まで取った素材や戦利品があるし、そっちを売るから今回はいいよ」

「等分で構わんと言っているだろう。もえすで装備を2着作ったらどうせすっからかんになる。その分ユウトのために働いて返せ」

「え、別に僕のために働く必要はないけど……。でもクリスさんはすぐ危険なことするし、心配だからもえすで良い装備作って欲しいです。そのためにもお金は受け取って下さい」


 兄弟に押されて、クリスは苦笑する。

 それだけレオは彼の働きに期待を掛けているし、ユウトは無茶な行動の心配をしているのだ。無下に断り、金額を気にして中途半端な装備を作る方が余程迷惑だと、クリスも分かっているだろう。

 彼は兄弟の厚意を受け入れた。


「じゃあ、遠慮なく。……こんなことならアイクさんから少しお金を受け取ってくるべきだったかなあ」

「あっちはあっちで必要な金だろう。ユウトのために良い働きをしてくれれば、俺としては何の問題もない。ユウトを護るための先行投資みたいなものだからな」

「うん、期待に応えられるよう頑張るよ」


 ブレないレオの言葉にクリスは笑って頷く。

 彼はロバートの指示に従ってカードの登録を済ませると、次はアイテムを売った。

 十数年分だからだいぶ数は多い。しかし、種類や大きさの選別がされていて、計算にはそれほど手間取らなかった。こういうのには性格が出るようだ。


 続けてレオも素材と戦利品を売っていく。

 こちらは手当たり次第に取り出すので、ロバートは少し計算が難儀そうだった。


 素材や戦利品を手に入れるのは、ほぼこの2人だ。

 解体をさせてもらえないユウトと魔石くらいしか取らないエルドワは、それをソファの上で眺めていた。


「すごい、いっぱいあるね」

「アン」


 宝箱から出たものも、必要のない場合はレオが受け取って保管していることがほとんど。積もり積もるとこんな量になるのかと、ユウトは感心しているようだった。

 ロバートが計算書に記入する金額が、すでによく分からない額になっている。弟は途中で桁を数えるのを諦めた。


 そうして精算を終えて積み上がるアイテムを眺めていたユウトだったが、不意にはたと何かを思い出したのだろう。自身のポーチを漁りだした。


「あ、忘れてた。僕、あれ持ってた。サメの魔物からドロップした3つの宝石が付いてる指輪と、酸素キャンディの巾着。ロバートさん、最後に鑑定お願いしていいですか?」

「もちろんいいですよ。少し待って下さいね」


 そういえばこのアイテム2つは魔笛のことがあったせいで、そのままユウトに持たせっぱなしだった。

 弟はそれをポーチから取り出してテーブルの上に置く。


 ロバートは手早くアイテムの計算を済ませると、ユウトの依頼に従って、そこに置かれた未鑑定品を手に取った。


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