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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、ライネルにクリスを紹介する

 レオは昨晩のうちに、兄にも書簡ボックスで連絡を入れていた。

 おかげでクリスと共に隠し通路から出て行くと、すでにそこにはライネルとルウドルトが待っていた。


「いらっしゃい、2人とも。待っていたよ」

「兄貴、こいつがクリスだ」


 ライネルの挨拶に軽く頷くだけで、レオは後ろについて来た男を紹介する。それを受けて、クリスは恭しくお辞儀をした。


「お初にお目に掛かります、ライネル国王陛下。私はクリスティアーノエレンバッハ。クリスとお呼び下さい。このたび、レオくんとユウトくんのパーティに加入させて頂くことになりました」

「うん、そんなに畏まらなくていいよ。アレオンとユウトが認めたなら、私にとっても友人のようなものだ。どうぞ、そこに掛けて」


 ルウドルトを後ろに控えたままソファに座るライネルは、向かいのソファに座るようにレオたちを促す。すでにテーブルには茶菓子が用意されていて、2人が座ったのを見計らったルウドルトが紅茶を淹れた。


「しかし、ユウトが来なかったのは残念だな。久しぶりに可愛がりたかったのに」

「代わりに俺が2人分可愛がっておいてやるから心配するな。……ユウトを連れてくると、どうしても出来ない話があるから仕方ないだろう」

「……お前も過保護だねえ。いつまでユウトに肝心なことを隠したまま話を進める気だい? あの子は未だに自分が何のために戦っているのかも知らないんだろう?」

「世界に害を為す悪い奴と戦っている、ということは分かってる。それで十分だ」

「まあ、あの子の保護者はお前だからあまり口は出さないけど。……他の何かから知ることになるよりは、アレオンが正しく教えてあげる方がいいと思うがね」


 ライネルはため息を吐きつつそう言うと、1枚の用紙をクリスの前に差し出した。

 冒険者登録用紙だ。


「さて、とりあえずこれが一番の目的だろう? ランクSSSのギルドカード。今回は冒険者ギルドのギルド長に書簡ボックスで依頼するから、一応項目を全部埋めてくれ」

「はい。ではペンをお借りします」


 クリスは紙を受け取ると、名前から書き始めた。

 ギルドの受付で書いた紙では名前がはみ出したが、今回は『バッハ』という偽名を使うことにしているから問題ない。


「ギルド長……ってことは、イレーナに頼むのか」

「そう。書類送ったらすぐに作ってくれると言っていたから、午後には出来ると思うよ」

「そうか」


 ザインに行く前に出来るなら、カードの指紋登録は自分たちの時と同様にロバートのところで頼めばいい。


「そういえばアレオンからの報告書を読んだが、あなたは昔、白銀隊の隊長をしていたんだってね。ならば実力は申し分ない。私の可愛い弟たちをよろしく頼むよ」

「いや、どちらかというとしがないおっさんの私の方が、レオくんやユウトくんに助けられる方かと思いますが」


 ライネルの言葉に書類から顔を上げて、クリスは苦笑する。

 しかしライネルは首を振った。


「謙遜をするな。私はそれなりに人を見る目はあるつもりだ。というか、それで今までやって来たようなものだ。あなたが強いことも分かるし、弟たちを任せるに足る人間だということも分かる」


 ライネルは剣の腕はいまいちだが、人の本質や能力を見る目があり、人材を育てて適材適所に配する手腕では右に出る者はいない。

 そんな男から見ても、クリスはやはり頼りになるのだ。この醸し出される大人の余裕のようなものも、そこから来るのだろう。


「ユウトはもちろん、こう見えてアレオンも、それにネイも、精神的に未熟なところがある。弟たちのところには、あなたのような包容力のある落ち着いた大人が必要だ」

「私はそんな大した人間ではありませんが……。でももちろん彼らの仲間に加わったからには、できるだけのことはする所存です」


 国王にそんなことを言われたらプレッシャーが掛かりそうなものだが、クリスはいつもと変わらぬ様子で微笑んだだけだった。レオの正体に気付いた時もそうだけれど、本当に動じない男だ。


 彼は平然と登録用紙を記入し終えると、それをライネルに差し出した。


「では、こちらをよろしくお願いします」

「うむ。ルウドルト」

「はっ」


 用紙を受け取ったライネルは、それをそのままルウドルトに渡す。

 ルウドルトはそれをすぐに、棚の上に準備してあった箱の中に入れた。おそらくあれがイレーナ直通の書類転送ボックスだろう。


「さて、後はイレーナからのカード待ちだな。……それを待つ間、ちょっと色々秘密の話をしてもいいかな?」

「それがあるからユウトを置いてきたんだ。クリスにはここまでのことをほぼ説明してある。今の状況を聞かせろ」

「それは話が早い」


 ライネルはにこりと笑うと、背もたれから身体を起こして、膝の上で手を組んだ。


「ネイが来るまでジラックの話は置いておいて、ウチにいる元ジラック臣下のことを先に話そうか」

「ああ、イムカからジラックを奪還した後どうするか考えろって言われていたヤツな。どうなった?」


 クリスの見解では、イムカを領主とした街の再興を目指すだろうという話だったが、実際のところはどういう結論になったのか。

 少々興味を持って訊ねると、ライネルは苦笑をした。


「結論から言うと、イムカ殿を領主としてジラックの街を復興させるということになった」

「ほう」


 ちらりとクリスを見たが、彼の様子はいたって普通。その予想が的中してもドヤることはない。大人だ。


「彼らは元々イムカ殿の直属配下の人間と、彼が後継になることを望んでいた前領主の配下で、現領主に従うのをよしとしなかったため追い出された者たちだ。彼らがジラックで見たかったのは、イムカ殿が治める街……。それを自分たちで作ろうということらしい」

「領主のイムカが死んでいて不在でもか?」

「ああ。表向きはな。だが彼らはイムカ殿が生きていると勘付いているようだ」


 やはりそうか。イムカ直属の配下のみならまだしも、前領主の配下もいるのなら、死人を領主に据えるのに反対する人間もいたはず。

 その異論が出なかったのは、イムカが生きている可能性を見付けたからだろう。


「『街を奪還した後にどうしたいか』の問いが私からのものではないと、彼らはすぐに分かってしまったようだ。『誰からの言葉か』と問われて、はぐらかしたのが逆に決定打になったかもな。失敗したよ」

「まあ、おそらくそいつらは世界樹の葉の朝露を探して国中を回っていたリーデンとも会っている。元々がイムカが死んだことに対して懐疑的だったんだろ」


 イムカにとっては生きていることを覚られたのは誤算だったろうが、ジラックにとってはこれが一番良い形での復興になるはずだ。

 バイタリティがあって超ポジティブな領主は住民を導く光になる。ライネルも復興の手助けをするつもりは満々だし、王都とのしがらみがなくなって往来が盛んになれば、街も潤うだろう。


「……なるべくしてなった結果か。とりあえずザインに行った後にラダにも寄る予定だから、その時に結果を伝えてくる。王都にも一度あいつを連れてくるべきだろうな」

「そうだね。配下たちにも引き合わせれば、士気がぐんと上がるだろう」


 あと一ヶ月弱でイムカがどれだけ回復出来るかは分からないが、とりあえず彼はいるだけでも配下たちの力になる。

 ジラックの攻略の際、イムカがキーパーソンになることは間違いなかった。


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