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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、布と魔石を手に入れる

 レオは姫を護る騎士ナイトよろしく、迫り来る岩石からユウトを護りきったエルドワの頭を撫でた。


「エルドワ、よくユウトを護ってくれた。礼を言う」

「アン!」

「ユウトくんとエルドワ、怪我がなかったみたいで良かったね。……じゃあユウトくん、これを返しておくね」


 クリスが側にやってきて、ユウトに魔法のロープを渡す。その先に付いていた例の斧は、すでに岩の隙間から引っ張り上げて回収したようだ。


「あ、クリスさん、斧ありがとうございました」

「ありがとうはこちらこそだよ。ユウトくんのおかげでずっと早くボスの討伐が出来たもの。これでやっと帰ってお風呂に入れる」

「おい、風呂の前に水竜の素材を剥ぐぞ。鱗と骨は特に良い装備の材料になる。肉や爪も珍重されるしな」

「ああ、はいはい」


 大きな水竜を解体するには、やはり2人がかりじゃないと時間が掛かる。早く帰りたいのはレオも同じこと。とっとと仕事を済ませるために、2人で素材を剥いだ。

 ドラゴンの素材はとても固いが、レオもクリスも慣れているからそれほど手間ではない。手早く部位ごとに解体していく。


 ユウトはその間に足場を回収し、ドロップアイテムも拾っていた。


「……ドロップは1個だけか。まあ、ボスは討伐すると宝箱がでるからそっちがメインだもんね。どこにあるのかなあ……あれ? もしかして脱出方陣と宝箱って、この岩の下……?」


 宝箱を探すユウトが周囲を見回した後に足下を見る。

 もしこの埋まった海底に宝箱が出ているとしたら、掘り出すのも一苦労だ。エルドワに岩を全部噛み砕いてもらうしかない。


「エルドワ、宝箱の場所わかる?」

「アン」


 ユウトはこの岩の下のどこにあるのか、という意味で訊ねたのだけれど、返事をしたエルドワは彼の思った場所ではなく、すり鉢状の壁の上の方を見上げた。


「……え? この上にあるの?」

「アン」


 子犬に肯定されて、ユウトも上層を見上げる。

 そのままでは暗くて全然分からない。けれど、ブライトリングを壁に近付けると、壁面の一部に棚のように平らなところがあるのがユウトにも見えた。


「あそこ?」

「アン」

「宝箱と脱出方陣は上か」


 レオとクリスも素材を剥ぎながら、当然今の話は聞いている。2人は水竜の解体を終えると、ユウトの側に来てその棚段を見上げた。高さ的にはさっき作った足場のてっぺんより少し上のあたりだろうか。

 それを確認すると、レオは何でもないように言った。


「これくらいなら、少し出っ張った岩を足場にすれば行けるな」

「うん、そうだね。傾斜はきつめだけど、十分行けそう」

「え、危なくない? 魔法のロープをどこかに引っかけて、伝っていった方が……」

「いらん」


 横やりを入れてくるような敵がいなければ、何の問題もない。

 口の中にある2個目の飴も小さくなってきているし、とっととアイテム回収を済ませて地上に戻りたい兄だ。


 レオはユウトを問答無用で抱え上げると、クリスに声を掛けた。


「クリス、あんたはまたエルドワを頼む」

「はいはい、任せて」


 エルドワを彼に託し、ユウトにも声を掛ける。


「結構飛ぶから、落ちないようにちゃんと掴まってろよ」

「ロープの方が安全なのにぃ……」


 文句を言いながらも兄に縋り付く弟をしっかりと抱え、レオはひょいひょいと岩の足場を上り始めた。

 落ちないように、とユウトには言ったけれど、当然何があっても落とす気などない。それはもちろん弟も分かっていて、ロープの方が安全だと言いながら腕の中ですっかり安心している様子につい嬉しくなった。


 そうして2人はそのまま目的の棚段に上り切る。

 そこにはエルドワの示した通り、宝箱と脱出方陣があった。


「あった、宝箱! 僕が開けても良い?」

「もちろんだ。お前が一番の幸運持ちだからな」


 後から上ってきたクリスとエルドワも当然反対するわけがない。

 彼らもユウトが何を出すか、興味があるようだった。

 全員の視線を集めた弟は、特に気負うことなく宝箱に駆け寄る。そしてその蓋を開けた。


「……あれ、布? 何だろ、これ……?」


 想像したものと違ったのか、ユウトが戸惑う。おそらくもっと分かりやすい報酬アイテムを期待していたのだろう。

 しかし宝箱から取りだしたのは、一見では何か分からない畳まれた厚手の布のようなものだった。


「何か描いてあるみたい。ユウトくん、広げてみたら?」

「あ、ほんとだ、何か……」


 ユウトはクリスに促されて、その布を広げてみる。

 すると、1メートル四方くらいのその布には、大きく魔方陣のようなものが描かれていた。


「……見たことのない魔方陣だな。召喚に近い気がするが……」

「あー、確かに、ヴァルドさんを呼び出した時に出る魔方陣に似てるかも」

「アン!」

「ん、どうしたんだい、エルドワ? ……ああ、まだ宝箱に何かが残ってるみたいだね」


 エルドワが宝箱を覗き込んでいるのに気付いたクリスが、そこにあるものに気が付いた。

 魔石だ。何かの術式が刻印されている。


「魔石……これ、この布とセットなのかな?」

「かもしれんが、正確なとこは俺たちでは分かりかねる。持ち帰ってウィルかロバートに鑑定してもらおう」

「そうだね。何か良いものだといいな」

「ユウトくんが手に入れたものだから、きっと良いものだよ」


 レオもクリスと同意見だ。特に今回は、大精霊がユウトに過剰すぎる幸運を与えている。

 レオとしても初めて見るアイテムだが、使えるものに違いない。


「……よし、これでもう取り忘れはないな? ゲートから脱出するぞ」

「うん、平気」

「アン」

「……このゲートともお別れかあ。長い付き合いだったし、何となく感慨深いものがあるよねえ」


 クリスが郷愁めいた表情で呟いているが、レオとしてはどうでもいい。ユウトの手を引いてさっさと脱出方陣に乗る。


「おい、行くぞ。早くしろ」

「はいはい」


 弟以外のことには無関心な兄に、クリスは苦笑する。


 止まっていたクリスの世界が、このゲートの消失によって動き出すのだ。

 それが彼にとってどんな意味があるかなんて、レオたちはもちろん知る由もない。そう、それでいい。


 ただクリスは微笑んで方陣に乗り、その過去ゲートに別れを告げた。


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