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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、クリスにお願いをする

「ブライトリング!」


 真っ暗な視界でも、レオは腕の中にユウトがいれば特に怖いものはない。ただ彼に害が及ぶことだけを気にして、周囲に注意を払った。

 そんな兄の腕の中、抱えていた弟が身動いで形ばかりの呪文を唱えると、頭上に明かりが灯る。


 開けた視界にはエルドワと、今度はちゃんとクリスも近くにいた。

 どうやらボスのフロアはこの一区画だけのようだ。ユウトが明かりの範囲を広げると、周囲に壁面が見え、自分たちがすり鉢状の窪みの底にいることが分かる。


「ボスはまだここにはいないみたいだね。広さはこれだけだから、ずっと上の方を泳いでいるのかもしれない」

「……このフロアの造りから見て、ボスは泳ぎながらのヒットアンドアウェイタイプだな。俺たちのいる底の行動範囲が一番狭く、上に行くほど自由に動けるようになっている。……俺の嫌いなタイプのボスだ。面倒臭え」

「レオくんは力対力のガチンコの方が好きそうだもんね」

「そっちの方が分かりやすいし決着も早えだろ」

「ふふ、それは強者の弁だな、カッコ良いね」


 強者であるのは自身も大して変わらないくせに、よく言う。

 クリスの場合は力以外にも、こういう面倒そうな敵も手持ちの能力を駆使して倒せるのだから、そっちの方がよっぽどだ。

 レオはクリスの言葉を敢えて流して、話を変えた。


「……あんたには、何か策はあるのか?」

「いや、まずは様子を見るつもり。初動は全体攻撃の水魔法だからダメージはないし。その後は敵の攻撃スピードと、水竜との距離を加味して色々考えよう。最悪、また伝説の釣り竿で引き寄せてもいいと思うけど」

「……釣り竿はひとりが掛かりきりになるからな……。おまけにこれだけ底が狭いと、暴れられた時にユウトに攻撃が当たらないとも限らん。ドラゴン系では電撃ショッカーも効かんだろうし」

「ていうか、電撃ショッカーここでやられたら私が気絶するけどね」

気絶スタン無効ぐらい付けとけよ、危ねえな」


 レオは呆れたように肩を竦めて、それからユウトを見た。


「ユウト、危ないからあっちの岩陰に行っておけ。……ここはほとんど隠れる場所がないから、敵に見付からないように気を付けろ」

「ん、分かった。……でもその前にさ、これを設置しておくね」


 兄の指示に頷いた弟だったが、身を潜める前にとポーチを漁る。

 何かと思ってその手元を注視すると、取り出されたのは見たことのある形の10枚の魔石の板だった。


「これは……足場か?」

「うん。これを階段状に設置しておけば、敵が上に逃げてもある程度追えるし、何より下で砂が舞い上がった時に上に抜ければ視界が確保できるでしょ」

「ああ、それはだいぶ助かるね! 底で攻撃が来るのを待つだけでは、どうしても受け身になる。でもこれなら上手く使えばこっちが戦いの主導権を握れるかも」

「なるほど、さすがユウトは賢いな!」


 魔法が効かなくてもこちらの視界が封じられるとなれば、敵は砂を巻き上げる魔法を多用するかもしれないが、これで上に逃げられればそれも無駄になる。結果、魔法の頻度は下がるだろう。

 できるだけ直接攻撃でやり合いたいレオたちからすると、これはかなりありがたい。


「じゃあ、螺旋階段状に2メートルごとに足場を置いてくれ。場所は固定で、もしも水竜に散らされても同じ場所に戻せ」

「うん、分かった」


 ユウトはレオの指示通りに足場を配置すると、それを微調整してからエルドワを抱き上げた。


「じゃ、僕はあそこの岩陰にいるね。何か出来ることがあったら言って」

「ああ。だが目立ったことはするな。エルドワがいるとはいえ、お前が襲われるのが一番困る」

「うん。2人も無茶して怪我しないでね」

「心配しなくても大丈夫だよ」


 リスク上等の男が言ってもあまり説得力がないが、素直なユウトはそれに頷いて岩陰に身を潜めた。

 それを確認したレオは、おそらく水竜がいるだろう上を見る。


 少しずつ近付いてきている気配はあるが、だいぶゆっくりだ。

 余裕をかましているのか、もしくはまだ気付いていないのか。暗くて判別できない。

 レオは岩陰のユウトに声を掛けた。


「……ユウト、ブライトリングをもうひとつ出せるか? 足場のてっぺんの高さにも明かりが欲しい」

「ん、出来るよ」


 すぐに請け合った弟は、2つ目の明かりの魔法をふわりと浮かべ、足場の一番上のところまでそれを飛ばした。当然周囲はさらに明るくなる。

 深海で明かりに敏感な魔物が、これで気付かないはずがない。


 はるか頭上の大きな気配が、次第に目的を持った速さで近付いてくる。そこに殺気が含まれて、向こうがこちらを認識したことが分かった。


「来るぞ」

「うん、来るね」


 レオとクリスは特に気負うことなく剣を抜く。

 そのまましばし待つと、上から光を反射する銀色の影が現れた。


「……でけえな」

「まあ、竜だからね」


 蛇のように身体をくねらせながら泳いできたのは、明らかに巨大な水竜だった。水中を移動するのに特化した形。ドラゴン特有の鱗が、その皮膚をびっしりと覆っている。見るからに固そうだ。


 水竜はこちらとある程度距離のあるところでぴたりと止まると、その身体を揺すった。


「水流の渦を使った全体攻撃が来るよ」

「分かっている。まず、発動と同時に足場使って近付いて、一撃食らわせに行くぞ」

「了解」


 この一撃で首を落とせれば話は早いのだが、もちろんそう簡単には行かないだろう。

 特効が付いているとはいえ、このランク以上のボスは攻撃耐性が大きいのだ。レオは今までそれをゲートのルールなのだろうと漠然と思っていたけれど、中ボスなどは普通に一撃で倒せることを考えると、これはボスに集まった魔性によるシールド的な力なのかもしれなかった。


 水竜の周りに渦が巻き、それが一気に膨張して広がり、周囲を飲み込む。

 水圧に左右されないレオたちだけれど、渦潮のような激しい水の流れによって周りの石や砂は巻き上げられる。レオとクリスは舞い上がったそれを逆に隠れ蓑のようにして、一気に足場を駆け上がった。


 そのまま濁った水域を飛び出して、ドラゴンキラーを振るう。

 ユウトの明かりのおかげで目測を誤ることなく、レオは水竜の首元を狙って剣を振り抜いた。そしてそのすぐ後に飛び出したクリスが、敵の直接攻撃の要である尻尾を切りに行く。

 2人の攻撃はいずれもその皮膚を切り裂いたけれど、やはりそれは致命傷にはまだ遠いものだった。


「固えな、クソ!」

「うーん、尻尾でも一撃じゃ落とせないか」


 水竜の体表を蹴って上手く足場に戻ると、その攻撃に怯んだ敵が一度上の海域に逃げて行くのが見えた。


「やっぱり上に逃げやがるな。うぜえ」

「でもさっきの巨大鮫みたいに傷が修復されたりしないみたいだし、地道に行けば十分倒せる相手だよ」

「時間掛かるんだよ、面倒臭え。俺はこれ以上飴を食いたくない」

「はは、子どもみたいなこと言うねえ」

「うるせえわ」


 笑いながらクリスが海底に降りていくのに、レオも続く。

 水竜にはできるだけ下まで降りてきてもらわないと攻撃が届かないからだ。

 それにしても、こうして攻撃を当てては逃げられるを繰り返していたら、どれだけ時間を食うのだろう。考えるだけでうんざりするのだが。


「短期で決めるなら、やはり釣り竿で引き寄せてみるかい?」

「あれだけでけえヤツ相手だと、釣ってる人間ごと上の海域に連れて行かれそうだけどな」

「あー、それもそうか。釣ってるつもりが釣られてる的な? ステータス補正が入っても、水中同士じゃ向こうに軍配が上がる気がするもんね」

「海底はあんまり踏ん張りが利かないのに加えて、上に向かって引っ張られると俺たちでは堪えようがないだろ」

「確かに」


 電撃ショッカーが効けば違うのだろうが、おそらく効果がない上にクリスが気絶する。話にならん。


「やっぱり地道に行くしかないかな? 酸素キャンディもう1個2個は覚悟しておいてよ、レオくん」

「……嫌すぎる……」


 レオは眉間にしわを寄せて舌打ちする。

 そうして兄が苛立ちながら敵を待って上層を見上げていると、弟が岩陰から顔を出して、クリスに声を掛けた。


「クリスさん」

「ん? なあに、ユウトくん。顔を出すと危ないよ」

「はい。でもちょっと、お願いがあって」

「お願い? 私にかい?」


 首を傾げたクリスに、ユウトは頷く。

 そして妙なお願いをした。


「さっき手に入れた斧、貸してもらえます?」


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