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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、主精霊ガラと契約をする

 クリスに紹介された宿は、雰囲気の良いきれいなところだった。

 部屋数は多くないけれど、全ての部屋が海に面している。そこの4人部屋をとって、案内された部屋でレオたちは上着を脱いだ。


「すごい、ほんとに露天風呂だ! 夕日きれいだね!」

「アン!」

「晩飯は部屋に準備してくれるらしいが、まだしばらく時間がある。今のうちに風呂に入ってこい」

「うん、お先に。行こ、エルドワ!」

「アンアン!」


 ユウトたちが喜び勇んで脱衣所に向かう。

 どうせ今日はもうすることもないし、のんびり長湯すればいい。レオも備えられた座り心地の良いソファに腰掛けて、一息吐いた。


 村の外に待機させているアシュレイには、食べ物をたくさん渡してきたから問題ないだろう。とりあえず数日は平気なはずだし、どこかに行きたいなら1日で戻れる場所ならどこでも行っていいと言ってある。


 ただ、ここの海中ゲートの攻略に何日掛かるかは気になるところだった。さすがにアシュレイも何日も放置されていたら心配になるだろう。


「普通のランクAゲート程度なら、2・3日で行けるがな……」


 レオは独りごちた。

 ここのゲートは同じランクAでも状況が違う。水棲魔物ばかりなのはもう分かっているし、フロアは水場がメインになるはずだ。

 クリスについては心配ないが、ユウトとエルドワは戦えるのだろうか。いや、レオだって怪しい。完全な水中戦になったら、勝てるかどうか。


「祠を解放したら、一旦クリスにゲートについての話を聞くか……」


 祠自体も、どんな封印がされているか定かではない。

 とりあえずアイクが間近まで行っても扉が閉じているだけで何も起こらないようだから、人間でどうにか出来るものではないのだろう。

 ……となれば、やはりユウト頼りか。


 今日現れたスピリット・イーターが、何かの鍵になっているかと思ったのだけれど。


 身体を休めつつもこれからのことに考えを巡らせていると、ユウトたちが風呂から上がってきた。

 弟はショートパンツにうさ耳フードのもこもこパーカー、エルドワはユウトのロングTシャツを着ている。


「エルドワ、人化してたのか」

「うん。犬のままだと湯船で足がつかないから。一応泳げるけど、お湯の中でずっとは疲れる」

「こっちおいで、エルドワ。髪の毛拭いてあげる」

「行く!」


 ユウトに呼ばれ、シャツの上からでもめっちゃ尻尾ぴるぴるしてるのが分かる。

 自分に背中を向けてソファに座ったエルドワの頭にタオルを掛けて、ユウトは優しくその髪の毛を拭いた。

 ……待て、そうしている弟の髪の毛からも、雫が垂れているではないか。


 レオは立ち上がり、ユウトの後ろに回って彼が首に掛けていたタオルでその濡れた頭を拭いた。


「ありがと、レオ兄さん」

「……エルドワの世話も良いが、自分が風邪を引いたら本末転倒だぞ」

「ん、でも……この状態で放置してたら、きっとレオ兄さんがこうして僕の世話をしに来てくれるだろうなあって思ってたから」

「……俺はまんまと引っ掛かったか?」

「そう。ふふ、ごめんね?」

「激可愛いから許す」


 悪戯っぽくも甘えた笑みでこちらを見上げる弟に、激萌えする兄である。こんなふうに可愛らしく翻弄されるのも、ユウトからなら大歓迎だ。


「はい、終わり。エルドワ、もう動いていいよ。レオ兄さんも、ありがと」


 タオルが大体の水分を取り終わってしまって、レオは少し名残惜しげにユウトを解放する。しかし、


「レオ兄さんがお風呂から上がってきたら、今度は僕が頭拭いてあげるね」

「風呂入ってくる」


 そう言われれば、すぐにレオの機嫌は良くなる。つくづく、兄の扱いを分かっている弟だ。


「俺が風呂に行っている間に料理が運ばれて来るかもしれん。3人分頼んであるが、エルドワは姿を見られないようにしておけよ」

「分かった」

「どんなお料理来るのか楽しみだね」

「うん、楽しみ!」


 はしゃぐ2人を残し、レオは風呂へ行く。

 明日のことはまた後で考えるとして、とりあえずリラックスしてこよう。






 レオが風呂から上がった頃にはもう食事の準備が出来ていたが、約束通りしっかりとユウトには髪の毛を拭いてもらった。

 その後で、3人は魚介の天ぷらや焼きものに舌鼓を打つ。やはりクリスに宿のおすすめを訊いて正解だった。

 彼の知り合いならとデザートを一品多く付けてもらって、レオたちは満足の夕食を終えた。


 そうして食後にまったりとしていると、目の前に座っていたユウトがおもむろにポーチを漁り、さっきのナマズの魔物から手に入れた魔石を取り出す。

 そしてそれをテーブルに置いた。


「どうした?」

「ん、これに封じ込められてる主精霊さんを解放して、精霊術の契約してもらおうと思って」

「……は? この魔石に、主精霊が!? ちょっと待て、スピリット・イーターが食ってたのって、主精霊なのか!?」

「うん、そう。あれ、言ってなかったっけ?」


 聞いてない。アイクのところから戻ったら、問答無用で外に連れ出されたのだ。

 ただ単にベラールを護るためのスピリット・イーター討伐だと思っていたのに、まさかそんなサブクエストがあったとは。


「よくそれをあんな人だかりのある場所で退治しようと思ったな……。俺が先にそれを知ってたら、絶対反対して場所変えたぞ。……クリスも知っていたのか?」

「精霊さんと話してる時に横にいたけど、ちゃんとは言ってないから知らなかったかも」

「……どうかな」


 ベラールを護るクリスだが、見た目に反して結構無理筋の討伐をやってのける、リスク上等の剛の者だ。レオたちと協力すれば行けるという自信があった上で、あえて何も言わなかった可能性もある。

 ……もしあそこで主精霊の魔法が放たれていたら、おそらく村はそれだけで吹き飛んでいたというのに。すごい度胸だ。


「……まあ、結果何もなかったから良かったが。今度からはもっとちゃんと説明してくれ」

「うん、気を付ける」


 ユウトはそう請け合うと、今度はポーチから世界樹の木片を取り出した。精霊術の契約に使うらしい。

 精霊の見えないレオは、ただその成り行きを見守ることにした。


「えっと、この魔石からガラさんの意識を解放……」


 ユウトが魔石を手のひらに乗せて魔力を注ぐと、虹色に輝く。そうやって魔力の流入口を作ることで、精霊を魔石の外に誘引しているのだろうか。

 やがて弟の視線が魔石からテーブルの上に落ち、魔石の輝きが消えたことで、レオはおそらくそっちに主精霊が出てきたのだろうと推察した。魔石からの解放がなされたのだ。


 ユウトは何もないテーブルの上に一礼した。


「あ、はい。初めまして、ガラさん。僕はユウトと言います。……いえ、そんな……ありがとうございます。それで、契約を……え? あ、いいんですか? はい、お願いします」


 端から見ると独り言だが、弟は主精霊相手に交渉を進めている。どうやら話がトントン拍子に進んでいるようだ。ユウトはあたふたと木片を頭上に捧げた。


 すでにひとつ刻印のある木片に、二つ目の刻印が現れる。

 これが精霊術の契約の証なのだろう。


「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。……はい」


 主精霊との契約なんてかなり難渋なもののはずなのに、あっさりと終わってしまったらしい。

 ……それがユウトの世界に対する特異性を物語るようだが、レオは見て見ぬ振りをした。


「……終わったのか?」

「うん。契約してもらえた」


 ユウトはほっとした様子で世界樹の木片と魔石を片付ける。


「そいつ、何で魔物なんかに食われてたんだ?」

「高位魔物って、一部に精霊が見えるタイプがいるんだって。海を泳いでたらいきなり食べられたって言ってた」

「うっかり過ぎんだろ、おい……」


 まあ、本来なら精霊喰い(スピリット・イーター)が成立する可能性なんて、極小さなものだったのだろうけれど。精霊でも運が悪い者がいるものだ。


「しかし、精霊が見える魔物なんているんだな。……そういえば、魔界にいたルガルもそうだったか」


 大精霊と魔王が同位体なのだから、魔王に従う彼らがその姿を見ることが出来るのも当然かもしれない。そう考えると、あのナマズもだいぶ高い地位の魔物だったということか。


「ところで、今契約した精霊の能力は?」

「えっと、ガラさんは知性を司る主精霊だって。蛇の姿をしてるんだ。呼び出すと攻撃魔法の他に、補助魔法を掛けてくれるみたい」

「補助魔法?」

「うん。ブースト系とか、ステータスアップとか、そういうの。それを、広範囲に掛けられるんだって」

「広範囲か。それは使えそうだな」


 普通なら補助魔法による数値アップは然程でもないが、それが主精霊の魔法となれば話は違う。その数値の上がり率もさることながら、味方への効果範囲がでかいのはかなりありがたい。

 エリア一帯や、分かれて戦う遠方のパーティへの効果まで期待出来るのだ。


 これからはいくつかの味方パーティと動くことにもなってくる。

 こういう魔法は貴重だ。


 ひと月先のことを考えると憂鬱ではあるけれど、そこをユウトと乗り越えて行くには必要な力。

 そう、今は必要だ。しかし、最後には全ての力を放棄して、ただのレオの弟として生きてくれればいい。世界にとっての特別な存在だなんて、知ったことではない。それまでの我慢だ。


 レオはそう自分に言い聞かせて、ユウトの特異性に目を瞑った。


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