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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、クリスの黒い部分を探したい

 村長の館からクリスの家に戻ると、何故だかレオはすぐにユウトたちに外に連れ出された。

 聞けば、港にスピリット・イーターが現れたという。


「レオ兄さんが伝説の釣り竿で釣り上げて、僕が魔法掛けて、クリスさんが魔物の首を落として、エルドワが魔石を剥ぎ取る、で完璧!」


 レオが戻る前に、すでにユウトとクリスの間で討伐計画が出来ているらしい。

 まあまあ無理のない算段だ。特に突っ込むこともなく、レオはそれを了解した。


「クリス、魔物の首を落とすのをあんたに任せて良いのか? 釣りと交換してもいいが」

「おじさん的には、100%腕力増でも魔物を釣り上げるのは腰に来そうなんだよね。私の得物には水棲魔物特効も付いているし、こっちでいいよ」


 その鎧の下には鍛えられたしなやかな筋肉が付いているくせに、よく言う。

 おそらく彼は自分の方が海の魔物に造詣が深く、イレギュラーに対応しやすいからそちらを選んだのだ。元隊長という立場から、一番危険なところは自分が担おうという意識もあるのかもしれない。


 クリスがやたらに不運そうに見えるのは、そうして自分から厄介ごとを引き受けに行くせいもあるのだろう。


 他人に配慮ができ、穏やかで、性格が良く、そして強い。

 アホ化が消えた今は、思慮深さもある。

 知性がある分、理論派のアイクにとっては女性だった頃より今のクリスの方が魅力的なのかもしれない。

 しかし同様に、レオたちから見ても彼は欲しい人材だ。ユウトも懐いているし、できれば仲間に引き込みたいが。


 そんなことを思いながら港への道のりを歩いていると、不意に弟に後ろから袖を引かれた。振り返れば、彼はどこか嬉しげな表情で兄を見上げている。フードの耳がぴんとして、尻尾がぴるぴるしているのが可愛らしい。


「どうした?」

「あのね、レオ兄さん。クリスさんがここのゲートを消したら、冒険者に復帰するんだって。それで、王都に行くって言うから、だったら僕たちの仲間になってもらえないかなと思って、誘っちゃった」


 あ。アイク遅かった。すでにクリスはユウトに勧誘されている。

 残念でした、ご愁傷様。レオは内心で彼に手を合わせた。


「……クリス、ベラールを出るのか?」

「ゲートがなくなったら、私がベラールで必要とされることもなくなるしね。レオくんも了承してくれるなら、同行させて欲しいな」

「それは構わんが。こちらとしても、あんたくらい頼りになる戦力があるのはありがたい」


 そう、レオたちにとってはとてもありがたい。

 ……さて、アイクにこの状態からクリスの気持ちを覆すだけの言動ができるかどうか。

 レオとしては、アシュレイの拠点をラダにしたように、クリスがベラールを拠点にするくらいは許容出来る。そこまで持って行けるかどうかは彼次第だ。

 あとはこちらがどうこう言う話ではない。


「冒険者に復帰するからには、私も装備を新調しないとね」

「その鎧もだいぶ良いものみたいだが」

「うん、ものは良いんだけどこの装備、海の魔物討伐に特化してるんだよ。もう少しオールマイティな装備を作らないと」

「じゃあ、今度ザインにある『もえす』にお願いしに行ってみましょう。あそこならフル装備が作れるし」

「……まあ、クリスがミワの萌えに該当すれば、『もえす』でいいだろう」


 クリスは着やせするが、おそらくミワ好みの体つきだ。レオほど身長も肩幅もないものの、肌を極力隠したかっちり系が似合うタイプ。彼女なら年齢も然程気にしないだろう。

 ミワがどんな反応をするか考えるとウザいが、レオから萌えが分散することは良いことだ。


 そんなことを話している間に、一行は港に辿り着いた。


「桟橋に向かおう。もうスピリット・イーターがだいぶ近くに来ているはずだよ。レオくん、釣り竿用意しておいて」


 クリスはそう言うと、ひとりだけ先に行って漁師たちに声を掛ける。どうやら港に魔物を釣り上げるから、スペースを空けるようにと頼んでいるようだ。

 漁師たちはいつものこととして、それを快く了解した。


「そこの場所を空けてもらったから、釣り上げた魔物をここに落とすようにしてね、レオくん」

「まあ、善処する」

「んー、スピリット・イーターはどこにいるのかな。海の上からじゃ全然見えない。レオ兄さん、分かる?」

「少し離れた海底に気配があるな。……さっきから、妙な微動を感じる。海面に波紋が広がるように小波が立っているだろう。あの中心の真下あたりだ」


 歩いているとほぼ感じない程度の揺れ。

 クリスも気付いていた様子で、海中を伺っている。


「この微動は前震か……ベースになってるのはナマズの魔物かもしれないね。あいつは静かに人間の住処に近付いて、地下で大地震アース・クウェイクを起こすんだ。取り込んだ精霊が魔法をブーストするタイプだと、多分村にかなり大きな被害が出るよ」

「えっ、それは大変! 早く倒さなくちゃ」


 少し狼狽えたユウトに、クリスは落ち着いた声音で声を掛けた。


「慌てなくても大丈夫だよ、ユウトくん。今回のスピリット・イーターはとりあえず状態異常無効は付いてない魔物になる。レオくんが釣り上げたら、陸に上がったと同時に睡眠魔法スリープを掛けて。私たちなら上手くやれる」

「……はい、分かりました。エルドワ、クリスさんがナマズの頭を落としたら魔石をよろしくね」

「アン!」


 大人の落ち着きというか、何というか。

 クリスの余裕と包容力たるや。あのどこか子供じみたアイクが靡くのも分かる。

 ユウトもすっかり彼を信頼しているようだ。


「レオくん、獲れたナマズは捌いた後に村人に分けていいかな? 素材になるようなものもないし」

「構わん。自分たちが食べる分を少し取ったら、後はくれてやれ」

「ありがとう」


 こういう無欲で村人思いなところも好かれる理由か。……何とも出来すぎた男。ここまでくると、クリスにどこか黒い部分を探したくなるのは人の性だ。

 そのうちこっそり見付けてやろう。


「……では、そろそろ釣り上げるか。準備はいいか?」

「うん、大丈夫だよ!」

「アン!」

「いつでもどうぞ」


 全員で示し合わせたところで、レオは伝説の釣り竿を海の中へと垂らした。


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