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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、聞き覚えのある名前が気になる

 港には大小の漁船が5隻ほど停まっていた。

 それを横目に見ながら、レオたちはその一角にある市場に向かう。


 魚介市場は村にある施設としてはだいぶ大きく、明らかに他の街村から来る問屋の他に、旅人をターゲットにしているようだった。

 中に入ると魚介だけでなく、ついで買いを狙った村の特産品なんかも置いてある。

 通路を意図的に蛇行させ、全ての店に意識を向けるように工夫されているのも上手い。


 美味しい魚介料理のレシピを掲示して、一緒に使う野菜なんかを近くのブースで売っていたり、単身旅にと1人網焼き用の七輪を売っていたり、よく考えられているようだ。


 ユウトは市場の中にある店を興味深げに1店舗ずつ覗いていた。


「魚介市場なのに色んなお店があるんだね。面白いな」

「もちろん魚介がメインだが、これなら漁師だけでなく村の農家や雑貨屋の売り上げも上がる。客も喜ぶし、いい商法だな」


 精霊の祠が封じられてマナが希薄になっているはずのこの地で、これだけの集客を維持できているのだからすごい。

 感心しながら市場の中を歩いていると、不意にユウトが立ち止まった。


「どうした?」


 何かを注視している弟に訊ねる。後ろからその視線の先を追えば、どうやら何かのレシピを見ているようだった。


「このレシピいいなと思って。これなら僕でも作れる」

「どれ……ふむ、魚介のパエリアか」


 使用するのはエビ、イカ、ほたてなど。本来ならそれ以外のものは別に用意するところだけれど、ここでは米やパプリカなどもセットになって売っている。

 なるほど、これなら材料の買い忘れもないし、作りやすい。


 もっと手を抜きたい人用には、すでに食材がカットされたセットも置いてあった。

 これは野営での食事にも使えそうだ。

 店によって色々趣向を凝らしていて面白い。


 ユウトは食材がカットされていないタイプのパエリアセットを6人前分購入した。

 それを劣化防止ケースに入れる。

 レオも魚や貝、海藻などを買い込んだ。


「何か、ベラールは精霊の祠が閉じていても特に問題なさそうだね」

「それはどうだろうな。上手い売り方で人を呼び込めてはいるが、大型の魚を扱っている店はほとんどないし、流通する魚介の種類も少ないようだ」


 マグロあたりを買いたいと思っていたが、どこの店でも扱っていない。僅かに獲れたものは、エルダーレアの問屋が買い占めたという。

 他にもアワビやサザエのような高級食材もない。単価の高い魚介が獲れないのでは、村にとっては結構なダメージだろう。


「マナの枯渇で不漁になっているってこと?」

「普通に考えればそうだろうな」


 レオたちは買い物を終えて市場を出ると、その入り口にあった屋台でイカ焼きを買って、近くに用意されていた休憩所に座って食べた。

 エルドワには焼いたエビを買って、少し冷ましてから食べさせる。


 濃いめの味付けはとても美味。しかし同時に飲み物が欲しくなる。すると休憩所の近くには狙い澄ましたようにドリンクの屋台があって、それを買いに行くユウトの後ろ姿を見ながら、やはり上手い商売をしていると感心した。


「レオ兄さん、これから宿を探すの?」

「そうだな……。どこかで評判を聞ければいいんだが」


 これだけ商売への意識が高い村ならどこもそれなりに良さそうだけれど、やはり店によって接客や料理に差がある。

 知り合いでもいれば訊ねることもできるが、あいにくそんなものはいない。自分たちで村民にリサーチをするしかないだろう。


 のんびりとそんなことを考えていると、たった今まで穏やかだった港が、俄に騒然としだした。

 漁師たちが桟橋に集まり、海の方を見て何かを言い合っている。


「……どうしたのかな?」

「これは……魔物が出たのかもしれん。海の中から気配がする」

「海の魔物?」

「もしかすると海の中にゲートがあるのかもしれないな。……この気配はかなり高いランクだ」

「えっ、それって、大丈夫なのかな? 僕たちも行く?」

「いや。少し待て」


 レオはそわそわとするユウトを制した。

 漁師たちは騒然としてはいるが、パニックを起こしているわけじゃない。状況からするとだいぶ冷静な方だと言っていい。

 おそらく、魔物が現れたのは今回が初めてじゃないからだ。そして多分、彼らはこの魔物を撃退するすべを知っている。

 だったら自分たちが出て行って、わざわざ目立つ必要もない。

 レオはしばらく様子を見ることにした。


「おい! 誰か、クリスさんを呼んでこい!」

「今回は海坊主だ! 毒麻痺耐性付けて来るように言え!」


 漁師たちが見据える先で、海面が盛り上がる。まだ遠いが、そこから覗いたのは何かの頭のようだった。

 海坊主という魔物なのだろうが、あいにくレオは海の魔物と戦ったことがないので、どんなモンスターなのか想像がつかなかった。


「……あれ? クリスさん? って、どこかで聞いたような……」


 そしてユウトは、魔物ではなく呼ばれた人間の方に意識が向いていた。


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