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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、弟が何者か答えられない

仕事が多忙のため、一週間ほど更新文字数少なめになります。

「レオさんは魔界に行った時、廃墟となった大小のコロニーを見ただろうか?」

「ああ。ずいぶんあったようだが、あれはただ勢力争いで潰された街村じゃないのか?」

「違う。あれは、コロニーを放棄して全員でこの世界のゲートに移った跡だ」

「……ゲートに?」


 魔界に居場所がありながら、わざわざ退治される危険のあるゲートに全員で移り住んだということか。意味が分からない。

 訝しがるレオに、アシュレイはさっき描いたピラミッド構造の位階を指差した。


「ゲートに連れて行ってもらえるのは、このてっぺんに君臨する主の作ったヒエラルキーに含まれる者だけだ。下位の魔物は、ここに入るために上位魔物の元に集まる」

「ちょっと待て、どうして魔物が魔界の街村を放棄してまでゲートを作って退治されに来るのか、先にそっちを説明しろ」


 まずは気になる自殺行為の説明を求める。すると、アシュレイは端的に返した。


「それは、魔物は死の時点が唯一成長の機会だからだ」

「成長……? 魔物が死ぬ時に? それは意味があるのか?」


 死んだ時に成長したって、どうしようもない気がするのだが。


「もちろん、意味がある。魔界の輪廻にはある程度法則性があって、細かいことは割愛するが、条件を満たせば上のランクの魔物に転生出来るんだ。つまり、魔物たちがこぞって人間界でゲートを作るのは、転生をするためだということだ」

「上のランクに転生か、なるほど……! しかし、どうしてこっちの世界なんだ? 魔界で死ぬのではいかんのか」

「ゲートの方が色々魔物にとって条件を満たすのに都合が良いんだ」

「……色々とは?」

「まあ、色々だ。ここで、さっきのヒエラルキーの話に戻る」


 さして重要ではないのか、アシュレイはレオの問いに答えず、再びピラミッドに目を向けた。


「下位の魔物は弱くて魔力もないから、一緒にゲートに連れて行ってもらうために上のランクの魔物に従属しようとする。単純にその辺で弱くて死んだら、ランクは上がらないどころか下がることもあるからだ。下位魔物を従えた上のランクの魔物も、自分にゲートを作る力がなければさらに上の魔物に従属して、どんどん入れ子状態になる」

「……その入れ子階層の頂点になるのが各コロニーの主か」

「そうだ。主によって階層構造は千差万別……。下位魔物には主選びが重要となるんだが、まあその辺りは今は関係ない。要は、魔物は格上に従属することによってより良い転生ができるということだ」


 ……何だか聞いていると、魔物のヒエラルキーは上が下を支配しているというよりも、下が勝手に上に付いているだけに見える。

 明らかに恩恵があるのは下位の者だけだし、魔物は主を護るために戦う訳でもないようだし、わざわざ主がそれを従える意味があるのだろうか。


「もちろんこれは上位魔物にとっても意味がある。従属契約をして多くの下位魔物を従えると、彼らの魔性を吸い上げ、上位魔物の魔性が上がるんだ。魔性が強くなると、次の転生の時により強い魔物に生まれ変われる。……魔物にとっては良い仕様だが、これこそが高位の半魔にとっての悩みだ」


 高位の半魔……つまり、ヴァルドやエルドワのことだ。


「魔性……。もしかして、それが強くなると魔物寄りになるのか……!」


 レオが呟くと、アシュレイは頷いた。


「魔物の傾向で、半魔も上位の者に従属したい質がある。ラダでいえば、みんながガイナの下に付きたがる。すると従う者は魔性を発散し、それはガイナの元に集まる」

「その割に、ガイナはあまり魔物寄りという感じはしないが」

「ガイナは、さらに上位のヴァルドに従属している。入れ子になっているんだ。つまり、ガイナとその下の者、全員分の魔性がヴァルドに行っている。……ちなみに、ヴァルドにはおそらく他の地域の半魔も従属していると思う。エルドワの魔性の強さはどこから来ているのか俺には分からないけど」


 魔性の強さが魔物寄りの原因。

 だとすると、それを解消するためには。


「……ヴァルドはユウトを救済者セイバーと呼んでいた……」

「ユウトはヴァルドが溜め込むしかなかった魔性を、発散させてくれる立場……つまり、彼の上位に当たるんだろう。エルドワもおそらく稀少魔獣でヴァルドと同等程度のランクだ」

「じゃあ、今は2人の魔性がユウトに行っているのか……!?」

「そうに違いないが、しかしあの2人の魔性が行っていたら、ユウトはもっとずっと魔物に傾いていないとおかしい。俺の魔性も行っているはずだが、どうしてだろう、あのひとは今も普通に全部がきれいだ」


 強い魔性を受け入れ、それでもユウトは汚れない。


「……いったいユウトは何者なんだ?」


 再びアシュレイが訊ねた。

 だが、彼の話を聞いた今、さっきよりもっと答えが分からない。

 そんなレオを察して、アシュレイもまた口を閉ざした。

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