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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、5年前のことを語り始める

 ルアンが去ってしまうと、ウィルはレオに向き直った。

 そしてやはり前置きもなく、報告が始まる。


「ジアレイスが来るのは大体いつも午後、比較的私がギルド内で自由にしている2時くらいから、帰路につく7時くらいまでのようです。私は気付けないのですが、ルアンさんはほぼ毎日周囲を警戒してくれているみたいですね」

「師匠と同じで、あいつも真面目だからな」


 まあ、そうでなければネイはルアンをわざわざ指導しなかっただろう。あの男は結構そういうところに細かい。部下たちにも普段の素行に関しては何も言わないが、仕事に関しては厳しいのだ。


「彼女は時々私の前に現れて、事務所の方に行くよう勧めたり、ここから連れ出したりしていました。おそらくあれがジアレイスが近くに現れた時だったんでしょう。その回数は12回、ルアンさんがたまたま居合わせない時に私がジアレイスと接触したのが3回」

「結構な頻度で来てるな。余程お前の能力が欲しいとみえる」


 降魔術式の長ったらしい詠唱を一字一句間違えずに唱えるには、相応の記憶力が必要になる。

 ジアレイスがウィルに目を付けたのは正にその有能さだ。

 別に他の誰かを連れて来て頑張って記憶させれば良いと思うのだが、ここまでウィルにこだわる事から鑑みるに、そう出来ない理由が見え隠れする。


「多分、奴らは急いでいるんだろうな」

「そうですね。おそらく降魔術式を、一ヶ月後の建国祭にぶつけたいのでしょう。そのためには悠長にその辺の誰かの記憶力に頼る時間がない」

「……やはりお前もその見解か」

「ジアレイスのように逆転の一手を狙う者は、『弱り目に祟り目』よりも『天国から地獄』の落差にカタルシスを感じるものです。建国祭をXデーにしているのは間違いないかと。祭りに浮かれるエルダール国民を自身の意図ひとつで恐怖に陥れることは、選民意識の高い彼にとって、大きな愉悦となるでしょうから」

「ああ。そういう奴だ、あの男は」


 レオは魔研によく出入りをしていたから、その性格を知っている。

 他人を虐げ、支配することで自尊心を満たす男。


 今はジラックの中だけで事を進め、エルダーレアの住民を油断させようとしている。建国祭には、魔尖塔もどきに降ろすモンスターと死者の軍団を総動員して、一気に王都を滅ぼしに来るつもりだろう。

 それを易々と許すわけには行かない。


「ジアレイスと3回接触したと言ったな。どんなことを話した? 何か有用な情報は?」

「今のところは私の記憶力を試すようなことをちょっとと、世間話ですね。いきなり勧誘してくるようなことはありませんでした。まあ、私的には下心丸見えで若干引いてましたが」

「……ウィルの記憶力なら建国祭間際の勧誘でも間に合うと踏んだのか。それまでに懐柔する気だな」

「まあ、無理矢理連れて行かれたら私は絶対唱えませんし」

「とはいえ、建国祭が近くなればどんな手で来るか分からん。人質を取られたり、術を掛けられたりして従う羽目にならないよう気を付けろ」

「分かりました」


 ウィルは頷くと、僅かに逡巡してからおもむろに話を変えた。


「……ところで、少し訊ねてもよろしいですか? ジアレイスと世間話をしていて、その端々にこの世界と陛下への根深い怨嗟が垣間見えました。その原因となっているのが、5年前の陛下によるクーデターだと思うのですが……」

「……ああ、そうだな。間違ってはいない」

「私はその憎悪の、根幹となる怒りがどんなものなのか知りたいのです。教えて下さいませんか、『殿下』」

「……根幹の怒り? ……今さら……そんなものを知ってどうするんだ?」


 レオが分かりやすく不機嫌な態度で訊き返すと、訊かれたくないこちらの内心を分かった上で、あえてウィルがたたみ掛けてくる。


「あのクーデターで吹き飛んだ建物は王都の外にある魔法生物研究所でした。何故前国王とライネル陛下はその場所で相対したのか。そこで何があったのか。……ジアレイスは親友で出資者だった前国王が殺されたことも恨んでいるでしょうが、彼の性格からして、ここまで根深いのにはもっと自分本位な原因があると思うんです。何か、プライドを著しく傷付けられるような……。それが何か分かれば、ヒントになりそうなんです」

「……ヒント?」

「ええ。ジアレイスが今回の騒動で、自分のどんな鬱憤を晴らそうとしているのか。当時に何か失策をしたならそのリベンジかもしれません。その辺りを探るヒントです。それを知った上で上手くやれば、思考の誘導もできるかもしれない」


 5年前のクーデター。

 レオとしてはあまり思い出したくない話だ。全てが一変したあの日。まあ、直後に飛ばされた日本では社畜をしつつ、ユウトと平和で穏やかな日々を過ごせたけれど。


「レオさんとユウトさんの関わる部分は端折って頂いてもいいですよ?」


 話し渋っていると、ウィルが軽い譲歩を見せた。

 それに対してじろりとにらんで見せる。


「……何でそこに俺とユウトが関わっていると思うんだ」

「たった今、レオさんが話し渋っているからです。元々ユウトさんが5年より前の記憶がないのも、レオさんがその記憶を取り戻させたくないのも、それが関わっているのではないかと薄々思っていましたけど。違っていますか?」

「……チッ」


 この観察眼、役には立つが自分に向けられると厄介この上ない。

 レオはこれ見よがしに舌打ちをして、それから問いには答えずに淡々と5年前のことを話し始めた。


「……そもそもあのクーデターは、親父とジアレイスたちが結託して、秘密裏に俺を殺そうとしたのが事の発端だった」


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