弟、反国王派が許せない
反国王派というのは、現国王であるライネルを糾弾する組織だ。
本来は組織と言いがたいものだったが、とにかくそういう団体だった。
ライネルは前国王を殺し、王位を簒奪した王子。そして同時に、第二の後継者である弟王子アレオンを殺したと、まことしやかに囁かれる。
それを市中に流布するために、エルダール国内で遊説をしていたのが奴らだ。
もちろん国王殺しは事実。それは国民も知るところだけれど、それでも悪政を敷かれた前国王時代からの劇的な国力回復によって、今ではライネルを責める声はほぼない。
だから、反国王派の遊説は国民に煙たく思われるだけだった、のだが。
唯一、国を凶悪な魔物から護っていた守護者、無二の強さを誇る『剣聖』アレオンを殺した疑いは、未だに小さな火種として残っていた。もちろん冤罪なのだが、現在ライネルにはそれを完全に払拭する術が無い。
反国王派はその疑いを、真実としてじわじわと国民の深層心理に植え付けた。
今はレオとユウトたちの働きによって減ったが、以前は魔研の降魔術式で呼び出された高位魔物が街を襲うたび、「剣聖様がいれば」という怨嗟が起こっていた。
おかげで国内には、ライネルの潔癖な政治を嫌う者などが、それを理由とばかりに抗議を行うこともあった。その主たる層は以前得ていた利権を失った貴族たちで、ここ数年は王都を嫌ってジラックに移り住んでいる。
そんなジラックで、反国王派は反逆の狼煙を上げようとしていた。
「以前、反国王派を主導しているのは一貴族、という話をしたのは覚えてます?」
「ああ。街中で活動していた奴らは反国王派の組織の人間ではなく、金と術か薬で操られていたんだろう?」
「それを各地で手配していたのがパームとロジーだったそうです。全国に仕掛け人と金を送る流通の伝手がありましたからね」
「パーム工房とロジー鍛冶工房が? 2つの工房が反国王派に手を貸してた……ってことは、やっぱり一連のことって裏で繋がってるんですね?」
ユウトが首を傾げて訊ねる。それを肯定するようにネイは頷いた。
「両工房は、その規模と知名度に目を付けられて、良いように利用されたという感じです。まあ、タイチ父たちはその分金を稼がせてもらっていたから、どんどんずぶずぶの関係になってしまったと」
「取っ掛かりは魔工翁たちの魔道具の設計図や術式目当てだったんだろうが、そのまま彼らの伝手を流用して悪事の一端を担わせたのか。……途中で奴らの事情が変わったからな」
「そうですね。……5年前のあの事件によって」
5年前……そう、前国王暗殺の後からだ。
そこからの5年間、レオはユウトと日本で平和に暮らしていたせいで、エルダールの詳しいことは分からない。
それでも、今までの話やここまでのジアレイスたちの行動を鑑みると、全てに何かしらの思惑があることが分かった。
ユウトの前でそれを詳らかにするつもりはないけれど。
「……それで、反国王派の貴族の正体は分かったのか?」
事情やら思惑やらの考察はすっ飛ばして、レオはネイに単刀直入に訊ねた。
わざわざ報告があるということは、これまで不明だった何かが判明したということだろう。ならば、今回の報告はこれか偽アレオンの話か、もしくはその両方か。
反国王派の活動に荷担していたならば、タイチ父たちがその人物を知っている可能性は十分ある。
「一応、分かりました」
「本当ですか!? じゃあ、レオ兄さんの偽物のことも……?」
ネイがレオの問いに首肯すると、先にユウトが食い付いた。
弟はライネルを貶めようとする反国王派の存在と、レオを騙る人間の存在を酷く嫌悪している。その判明は、彼にとって重要なことなのだ。
ユウトにとっては血は繋がっていなくても大事な2人の兄。
その2人の対立をでっち上げるなんて、我慢ならないのだろう。
「レオさんの偽物も、噂でなく本当に準備しているようです。ただ、タイチ父もミワ母も直接会ったことはないそうですが」
「まあ、そっちはいることが分かっただけで十分だ。どんな奴か知らないが、俺の偽物なんて排除したところで新たに別の人間で替えがきく。今は対応のしようがない」
「そっか……じゃあやっぱり、反国王派自体をどうにかしなくちゃ」




