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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、半魔の隠れ里の存在を知る

 野営地での夜は馬車のおかげで何の問題もなく過ぎた。


 付近を通り過ぎる魔物すらおらず、一応すぐに起きられるようにしていたレオは、ほぼユウトの寝顔を眺めて和んで終わった。途中、3・4時間しか睡眠時間が要らないというアシュレイが目を覚ましたのでいくらか休むことが出来たし、上々の状態と言えよう。


 翌朝、一行は夜明けと共に起き出し、軽めの朝食をとった。


「今日のお昼にはラダの村に着くね。アシュレイはラダの半魔のひとたちに会ったことはあるの?」

「いや、ない。ザインではずっと農園にいたし、今まで俺の半魔の知り合いはヴァルドくらいしかいなかった」

「じゃあ初対面なんだ。みんなの反応がちょっと楽しみだな」

「半魔ユニオンは長のガイナからして面倒見が良いから、問題はないだろうな。気掛かりなのはあそこに数人いる人間だが」


 大きな身体のアシュレイが現れても、半魔の面々は何事もなく受け入れるに違いない。

 ただ、ミワの祖父やイムカ、リーデンたちがどういう反応を示すか。……まあ、ミワの祖父はあっさり受け入れるだろうから、問題はジラックの人間か。


「イムカさんもおおらかだし、気にしないタイプの人だと思うけど」

「まあな。使用人の3人も異世界で色んな生き物をみてきたから動じなそうだ。……リーデンあたりが警戒するかもしれんが、あいつは今一番ラダが注目されることを恐れているから、他言はするまい」


 そう考えれば、しばらくは平和かもしれない。


「今後のことも考えて、そのうちネイさんやオネエさんたちと、あとライネル兄様たちにも紹介しておきたいね」

「兄貴とルウドルトには早めに引き合わせよう。国内を移動する時に、度胸のある危機に動じない馬というのはかなり貴重だ。お呼びが掛かるかもしれん」


 レオがそう言うと、アシュレイは少し微妙な顔をした。


「……俺は、ユウトたちの専属馬車馬ではないのか? 他の人間を乗せるのはあまり気が進まない」


 人間を下に見ることはやめたアシュレイだけれど、そもそもユウトを護りたい彼は、他の者のために馬車を走らせることに抵抗があるようだ。

 まあ、その気持ちは分からないでもないのだが。


「もちろん、お前には俺たちの馬車馬をメインとして働いてもらう。だが、俺たちに養われるのをよしとせずに自立をするつもりなら、稼ぎが必要だろう? ラダで鉱夫をしたり農業をしたりしてもいいが、貴人の送迎には破格の報酬が出る。俺たちが他の仕事にかかずらっている間に、そっちで仕事を受けるのもありだと思うぞ」

「うん、アシュレイにしか出来ない仕事だしね。ライネル兄様は僕たちにとっても国にとっても大事な人だから、アシュレイが護ってくれると頼もしいな」

「俺にしか出来ない仕事……」


 彼は今までその特異な大きさから人化することすら憚られていた。

 農園の外に生きる場所を見付けることが出来なかったアシュレイにとって、その居場所、そして必要とされる場があることは、揺らいで崩れた自信を新たに組み上げる土台になるだろう。


 アシュレイはユウトの言葉に後押しされると、寄せていた眉根を開いた。


「……ユウトたちが馬車を使わない時なら、仕事を受けてみる」

「うん、よろしくね。……そう言えば、ギルドカードみたいなのを作らないと、報酬の受け取りも大変だよね。身元保証人には僕らがなればいいけど、どこかでアシュレイのカード作らないと……。ライネル兄様にお願いして作ってもらう?」

「その辺は大丈夫だ。先日、兄貴が半魔ユニオンをひとつの組織として承認したらしい。ガイナのところが受付窓口になって、カードが発行出来るようになっているはずだ」

「へえ! さすが兄様」


 もちろん組織名は半魔ユニオンという名前ではないが、実質半魔が入ることの出来る組織だ。

 これによって、今までは人間になりきってギルドに入らないと手に入らなかったカードが、半魔だというだけで作ることが出来る。今まで世界からつまはじきにされてきた半魔にとっては、画期的な事だ。


 これによって半魔が国中を移動するのも容易になるし、仕事を受けやすくもなる。国が承認してデータを一部参照不可にしているから、人間の見た目に合わせて年齢を偽ったり、人間の寿命に合わせてカードを放棄したりする必要もない。良いこと尽くめだ。


 しかし当然、ライネル側は親切心だけでそれを承認しているわけではない。思惑は別にある。

 これによって国中の半魔の総数と滞在場所など、今まで把握出来なかった半魔の情報を手に入れようという魂胆だ。

 関係を良くしておけば、ガイナを通じて彼らの力を借りることも可能。


 半魔は人間界でも魔界でも活動出来る、稀有な存在なのだ。囲っておくに越したことはないという判断だろう。

 まあ、どちらにもメリットのあるWinWinの関係。ライネルはこういう手回しが本当に上手い。


「とりあえず、ラダに着いたらガイナのところでアシュレイのカードを作らせよう。そこにまずはランクAゲートで手に入った素材を売った金の4分の1を振り込んでやるから、当面の生活に必要なものはそれで揃えればいい」

「えっ、金を? しかし、俺はそれほど……」

「同じゲートに入って戦ったのだからきっかり4等分だ。これがウチのルールだ、文句があるのか」

「これは、頑張りに応じた正当報酬だよ、アシュレイ。ちゃんと受け取ってね」

「……わ、分かった。ありがとう」

「うん」


 ユウトに噛んで含めるように言われると、アシュレイは素直に頷いた。昨日の問答で、弟を前にして自分を卑下することが得策ではないと理解したのだ。

 代わりに感謝を述べれば、ユウトは笑顔をくれる。


「じゃあ、そろそろラダに出発しようか。向こうに着いたらアシュレイのついでにエルドワのカードも作ってもらおうね」

「アン!」


 朝食の片付けをして、ユウトはエルドワを抱えて立ち上がった。

 アシュレイも立ち上がって獣化をし、レオがその身体にハーネスと金具を着ける。


「アシュレイ、今日もお願いね。頼りにしてるよ」


 その鼻頭をユウトが撫でれば、馬は誇るようにひとついなないた。






 ラダに辿り着くと、その馬と馬車の大きさに、門番が絶句した。

 しかし、すぐにこの馬車を引く馬が半魔だと気が付いて、彼はガイナを呼びに行く。新参者が来た時は、やはり長の出番らしい。


「……お前らはずいぶん新入りを連れてくるなあ」


 少し呆れた様子で言いつつも、そのまま村の中に通してくれる。そして一旦村の広場に馬車を停止させ、レオたちを自身の家に招いた。

 もちろん、アシュレイも人化してついていく。


 人の姿で村の中を歩くのは初めてらしく、彼はきょろきょろと辺りを気にした。


「兄ちゃん、でけえな!」

「良い身体してるねえ!」

「ガイナさんちの天井に、頭ぶつけんなよ!」


 しかし、さすが獣人の村。奇異な者を見るような目は無く、新参者に興味津々な様子で、超フレンドリー。

 アシュレイは逆に面食らった様子だった。


「……みんな、普通だ」

「そりゃまあ、獣人同士だし珍しくもねえしな。あんたほど身体が大きいのはここにはいねえが、他の村にはもっと大きいのもいる」


 ガイナは軽く言うと、一行を家の中に招き入れた。

 入り口はもちろんアシュレイの身長より低い。彼は頭をぶつけないように屈んで入って行った。


「俺のように大きな獣人が他にもいるのか」

「ああ、象とかバッファローとかな。ここ以外にも、半魔の隠れ里みたいな村はあるんだ」

「……それは初耳だな。国は把握しているのか?」

「存在だけは知っているらしい。陛下から渡りを付けて欲しいと言われてるが、先方とはまだ交渉中だ」

「他にもここみたいな半魔の村があるんだ! 行ってみたいな」

「まあ、そのうち話が進んだらおそらくユウトたちが派遣されんじゃねえかな」


 ……その可能性は高い。ユウトはライネルに近く、信頼を置かれている半魔の筆頭だろう。レオが必ず付いていくとなれば、心配も少ない。

 この先また余計な仕事が増えそうだ。


 レオは少しうんざりしつつ、通された居間でクッションに腰を下ろした。


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