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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄弟、テムのゲート発生を知る

「馬屋で馬を借りたい?」


 滞りなくザインに到着したレオたちは、仕事を終えた御者の老人に相談をしてみた。


 これだけのベテランなら、各街でそれなりに顔が利くはず。

 交渉はこちらでするとして、話を聞いてくれる相手を紹介してもらえるだけでも十分だ。


「テムまで馬車を持っていきたいんだが、そこまでの馬が必要なんだ。こちらと交渉してくれそうな相手を紹介して欲しい」

「テム? ……テムか……」


 しかしテムの名前を出しただけで、彼は渋い顔をした。


「テムに何か問題でも?」

「いや、普段なら何の問題もないんだがな。最近、村の近くにランクAのゲートが出現したらしくて……。表に出てきた魔物は冒険者がどうにか倒しているんだが、危険なんで今はあんまりみんな行きたがらないんだよ」

「また村の近くにゲートが……? 村長さんたち、大丈夫かな」


 ユウトが眉を顰める。

 ゲートが街村の近くにできることは滅多にない。出現率が低い高ランクゲートだと尚更だ。

 それが、前回の殺戮熊のランクA相当ゲート消滅からこんな短期間で再び出現したとなると、偶然ではないだろう。

 原因は明白だ。


「精霊の祠が閉じているせいで、村周辺のマナが枯渇しているからか……」

「だったら、急いで精霊の祠を開放しなくちゃ。往来に影響が出てるなら、村の物資も足りていないかもしれない。たくさん馬車に積んで行ければきっと助けになるよね」

「だが、その馬車を動かす馬を貸してくれる馬主はおらんと思うぞ。我々にとって馬は財産だからな」

「……まあ、確かにそうだろうな」


 老人の言うことはもっともだ。

 もちろん、魔物が出たところでレオたちなら問題なく倒せる。しかし、馬は魔物を見るとパニックになって逃げ出したり、驚き暴れて怪我をしたりする。それを慣れない自分たちで制することが出来るかというと微妙だ。

 ならば御者も付いてきてもらえればいいが、そうなると当人の実質的な危険も付加されるわけで、首を縦に振る者はいないだろう。


「魔物に怖じ気付かないような戦馬は、ザインにはいないか……」

「そうだな……、ああ、戦馬や馬車馬ではないが、とてもでかくて物怖じしない農耕馬はいるぞ。農作物を荒らしに来た熊やイノシシを見てもびくともしないとか」

「農耕馬か」


 まあ、馬車を引ける力と、魔物から逃げ出さない落ち着きがあれば構わない。持ち主に交渉してみてもいいかもしれない。


「昔、そいつを馬車馬に躾けるために預かったことがあるんだが、人の言うことを聞かん馬だ。結局馬車を引く馬にはなれんかった。ただ、頭は良い。上手く扱えるなら役立つかもしれん」

「人の言うことを聞かない、か。……とりあえず、見るだけ見に行ってみよう。そいつは農場地区に?」

「そうだ」


 どうせ他に候補もいない。ダメ元で確認しに行くか。

 その馬が無理なら一度転移魔石でテムに行き、全てを解決した後に向こうから馬を連れてくるしかあるまい。

 いっそ馬車がポーチで運べればいいのだが、さすがの転移ポーチにもこれほど大きいものは入らないのだ。


「じゃあとりあえず、馬の前に馬車を探しに行くか」

「そうだね。……お爺さん、ここまでありがとうございました。とても快適な馬車旅でした」

「ああ、こちらこそご利用ありがとうな。また機会があったらよろしく」


 ユウトが御者の男に丁寧に挨拶をする。

 そうして城門のところで別れると、レオたちはまず真っ直ぐ職人ギルドに向かった。


「ロバートさん、いるかな?」

「テムで問題が起こっているなら、ギルドで忙しくしているだろう。職人ギルドはテムの村と取引があるからな」

「じゃあ、邪魔しちゃうかも……。嫌がられるかなあ」

「……逆に諸手を挙げて歓迎されると思うぞ」


 ロバートはレオたちがランクAゲートを余裕で潰せることを知っている。この状況を打開できるパーティの登場をみすみす逃すわけがないのだ。

 ……まあどうせ、遅かれ早かれユウトがテムのためにゲートを潰しに行くと言い出すにちがいない。だったらいっそ、ロバートに恩を売っておいてもいいだろう。


 久しぶりに職人ギルドの正面扉から中に入ると、カウンターが結構ばたばたしていた。

 どうやらテムの方面からの素材が入らず、職人が遅れる納期の調整に訪れているようだ。


 そのカウンターテーブルの奥に、事務仕事に駆り出されたのか、書類を捌くロバートがいた。

 めちゃめちゃ仕事が早い。

 冒険者の来訪にふと視線を上げた彼は、それがレオたちだと気付くと即座に立ち上がった。そのままカウンターの方に来て、まるで事前約束があったかのように挨拶をする。


「お待ちしておりました! 例の商談の件ですね。こちらの応接室にどうぞ。……すまない、私はちょっと席を外すよ」


 何だ、例の商談って。

 レオたちを案内するそぶりをしつつ、近くにいる職員に声を掛ける。あまりに自然に言うものだから、それを疑う職員は誰もいないようだった。

 さすがというか、何というか。


 何にせよ、こちらとしては余計な口実を作る必要がなくなったのだからありがたい。そのまま黙ってロバートについて行く。

 事務ブースの奥の扉を出て廊下を進むと、レオたちはそこに沿った一室に招かれた。


「よくぞいらっしゃいました。この時間ということは、納品ではないんですね。何か職人ギルドにご相談でも?」


 ロバートはソファに座るのとほぼ同時に会話を切り出す。

 とりあえずこちらの用件を優先してくれるらしい。それに対してユウトが少し恐縮した様子で応じた。


「お忙しいところに、突然来てすみません。あの、実は良い馬車がないか探してまして。ロバートさんに、修理工なり仲買人なり、ご紹介して頂けたらなあと思って来ました」

「馬車……先日言っていた、テムにお礼として送るという?」

「はい、それです」


 素直に頷いたユウトに、ロバートはにこりと微笑んだ。正しく我が意を得たりといった様子だ。


「そうですか。でしたら信頼出来る仲買人を紹介しましょう。……ただ、馬車を手に入れたとしても今テムに行くには問題がございまして」

「聞きました。テムの村の近くに、ランクAゲートが出来たそうですね?」

「おや、もうご存じでしたか」


 ならば話は早い、と言外に聞こえてきそうな顔で、ロバートがレオに視線を送る。

 特に口を挟まない兄に、彼はこのまま話を続けて良いと理解したようだった。


「ちょうどテムとザインを結ぶ村道の近くに発生してしまいましてね。人の往来がほとんど出来ずに物流も滞って、馬車などとても安心して通れないのです」

「村道の近く……? それは大変です……! レオ兄さん、ゲート攻略できないかな」

「できる」


 レオはあっさり頷く。

 どうせここでごねても時間の無駄だ。それよりもロバートに最大限のサポートをさせる方が良い。


「馬車を届けるついでにゲートを攻略してもいいが、そのためには魔物を見ても動じない馬が欲しい。テムへの行きだけで構わん。農場地区に肝の据わった農耕馬がいるという話なんだが、渡りは付けられるか?」

「肝の据わった農耕馬……? ああ、アシュレイのことでしょうか」

「アシュレイ……馬の名前ですか?」

「そうです。とても個性的な馬で、ちょっと馬車馬には向かない気がしますが……まあ、飼い主に渡りを付けるくらいならもちろん大丈夫ですよ」


 ロバートは思いの外簡単に請け合った。農耕馬なら毎日の仕事に必要だろうに、そんなに軽く貸してくれるだろうか。


「……できれば明日にはテムに出立したいと思ってるんだが」

「では、先方に急ぎ連絡を入れておきます。馬車の仲買人の方は私も同行しましょう。いくらか目利きはできますので」

「え、お忙しいのに、いいんですか?」

「当然です。こちらの方が重要ですから。テムに送る物資もこちらで用意しますので、馬車に積んで頂いても?」

「もちろん構いません。ありがとうございます!」


 これで馬が全然使えないやつだったら意味がないんだが。


「……ゲート攻略、俺たちはランクAの依頼は受けられん。今回は勝手に入るから、冒険者ギルドに適当に言ってクエスト取り下げてもらっておいてくれ」

「了解しました」


 まあとりあえず、片っ端からやっていくしかない。

 魔工爺様にアイテムの加工も頼まなくてはいけないのだ。ゆっくりしている暇はない。

 それでもロバートの同行があるおかげで、かなり時間は省けるだろうけれど。


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