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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【ジラックからの救出】2

 修練場で鎧を返してリーデンと別れ、ネイは真面目と共に一旦路地裏の暗がりに潜んだ。

 ここからの計画は、罪人を2人連れ出すのとはわけが違う。最初から最後まで気が抜けない。瞬時の判断力も必要となる。

 真面目の危険回避能力に頼るところも多くなるだろう。

 事前確認は重要だった。


「さて、どうよ真面目くん。このまま突入して平気そう?」

「……いえ、リーデン殿が気に掛かります」

「やっぱり? さんざん来るなよって言ったけど、あの人絶対来るよね。そして余計なことしそうだよね」

「来るな来るなと言われると、気になって来たくなるのが人の性というものです、リーダー。……分かっていて、わざと煽っていたように見えましたが」

「あ、分かっちゃった?」


 ネイは悪戯っぽく笑うと、ポーチから対人用罠を取り出した。


「……それは?」

「コレコレ特製の対人用麻痺罠。これをリーデンに掛けようと思ってさ」

「……なるほど。イムカ殿を攫う我々が彼を罠に掛けることで、リーデンの出動を警戒していたように見せかけるのですね」

「騒ぎが起きて出動要請が出た場合、リーデンが動かないのもおかしいしな。駆けつけようとしたのに罠に掛けられたとなれば、領主もリーデンを疑わないだろう」


 イムカが浄化されれば、術式で繋がっている領主はその異変に気付くだろう。公に出来ない弟の事案、その重要性も考えれば、間違いなくリーデンも駆り出される。

 そしてやきもきしていたリーデンは、その要請に従って出動するに違いない。駆けつけたところで、何もできないにも関わらずだ。


「変に躊躇われて行動が読めないより、駆けつける前提で罠に填めた方が早いだろ?」

「確かに、妙なタイミングで現れて、攻撃もせずにもたもたしてれば領主に疑われますしね。良い考えです」


 リーデンの件はこれで問題ない。

 それよりもメインはイムカの救出だ。

 今度はその先の動きを確認する。


「イムカ殿の棺を開けたら、まずは世界樹の葉の朝露で浄化だな。そのまま連れ出そうとすると、おそらく領主に勘付かれた挙げ句、イムカ殿が遠隔使役されて、死兵を動かされるもんね」

「浄化した後の街外への救出は、空間魔法を使うか往来禁止の術式を掻い潜るかのどちらかですね? さっきの金庫が使えそうですが」

「あー、あれね……。どうかな。中に入ってる黒もじゃら、意識のある人間にしか反応しないのよ。転移魔石もそうだけど、浄化した時にイムカ殿の意識が戻らないと使えないんだよなあ」


 イムカの意識さえ戻れば、だいぶ容易に脱出できる。

 しかし彼は長い間半死半生の状態だったし、当然身体もやせ細っている。その脳に十分な栄養と酸素が行くには、だいぶ時間が掛かるだろうと推察する。


「となると、城門を強行突破ですか?」

「いやいや、城門は一番最初に警備が敷かれるだろうし、動けない人間を1人抱えて強行突破は辛いよ。出来ないことはないけど、追っ手がだいぶ先まで付いてくる羽目になる」

「では、別のところから? それでも往来禁止術式に引っかかれば、すぐに追っ手が来てしまいますが」

「そこをどうにか危険を冒して掻い潜るために、真面目くんに来てもらったのよね。まずは先に脱出口確認に行くから付いてきて」

「リーデン殿に掛ける罠は?」

「そっちは事を起こす直前に掛けに行くからいいよ。万が一事前に罠に掛かられたら面倒だし」


 そう言うと、ネイは暗がりを伝って歩き出した。向かうのはジラックの奥だ。

 しばらく進めば街の明かりが遠のき、生活する人の気配が失せていく。

 それでもなお月明かりしか頼りのない道を歩いていくと、途中で真面目が行き先に気付いたようだった。


「リーダー、もしかしてこの先は……」

「そ。闘技場跡地」


 以前ネイたちがヴァルドの力を借りて破壊した場所だ。


「キイとクウの話だと、崩落したまま瓦礫から何から放置されてるらしいんだよね。再生不能だし、魔研の降魔術式のフロアも完全に潰れてるし、もう興味ないんだろうな」

「利用価値がない上に再崩落の危険もありますから……」


 真面目がそこではたと言葉を切った。

 おそらくネイの思惑に気付いたのだ。


「俺を連れて来たのはまさか、崩落の危険を冒して坑道を通り、街の外に脱出するつもりだからですか!」

「ご名答。崩落しそう、もしくは崩落してる坑道なんて本当なら危なくて通れないけどさ。真面目くんがいれば心強いでしょ」

「言っておきますが俺の危機回避は、計画時点でのざっくりとした印象か、目の前の直近の危機にしか反応しませんよ」

「知ってる。でもそれで十分でしょ。とりあえず頭の上に土砂が降ってくるのさえ回避出来ればどうにかなるって」


 軽い調子で返すと、真面目は呆れたようなため息を吐いた。

 しかしそれ以上口答えしないのは、そうなった時のこともネイがちゃんと考えていることを知っているからだろう。

 だからこそ彼は信頼されるチームリーダーなのだ。


「闘技場の監視センサーの術式もそうだったが、感知系の術式は地面の下までは認識できない。坑道からの脱出は敵にバレにくいんだよね」

「しかし、坑道に繋がる場所があるかどうか……」

「その辺はキイとクウが調べてくれてる。崩落で出来た縦穴の壁面に、3カ所くらい坑道に続く横穴が見付かったらしい。一応見えないように、彼らが瓦礫で隠してくれてるって」

「そこから俺が一番マシなルートを探すわけですね……。了解です」


 それがリーダーの考える最善の計画ならと、真面目はそれ以上グダグダ言わずに受け入れる。

 ネイは真面目の能力をアテにしてくれているのだ。ならば期待に応えるだけ。彼は出来ないことは要求しない。


「よし、着いたぞ」


 闘技場の跡地に辿り着くと、見張りも何もいない陥没した大きな穴を、ネイは軽やかに降りていった。

 真面目も同じようにその後を追っていく。

 2人は足音も立てず、瓦礫の陰にある坑道の横穴を探した。


「お、見っけ。そっちの下の方にも」

「こちらにもあります」


 街の外に面した壁面を重点的に探せば、目的の脱出口候補は程なく見付かる。奥をうかがい知ることができない、真っ暗な穴3つ。

 ネイは真面目を振り返った。


「どう? 何か感じる?」

「……現時点では印象で判断するしかないんですが、この一番下の穴は多分駄目です。もう潰れてます。他2つは同じような危険度ですね。安全とは言いがたいが、不可というほどでもない」

「それなら十分。ひとり人間を抱えて入ることを考えれば、一番上の大きめの開口がいいかな」


 すぐに決断をしたネイは、決めた横穴に少しだけ入って、風の流れを確認した。


「うん、空気が流れてるってことは、少なくとも行き止まりじゃない。ガスも溜まってないし、酸欠になることもないだろ」

「問題は崩落だと思います。ジラックは温泉が豊富に涌くことで分かるように、近くに火山がある。体感出来ない微震動もよく起きるんです。この辺りの地下は掘り尽くして、古い坑道だらけでだいぶ地盤が不安定ですし、闘技場崩落の時のダメージもありますし、いつ微細な衝撃が引き金になって崩落するかわかりません」

「分かってるって。そっから先こそ真面目くんの危機回避頼みだからね。よろしく」


 正直、追ってくる刺客よりも、こちらの方がだいぶ手強い。

 それでも、追っ手に気付かれずにこの坑道に入ることができれば、真面目の能力で無事に外に抜けられる公算は高いのだ。後はイレギュラーが起きないことを祈るばかり。


「よし、じゃあルートは決まったし、リーデン殿のとこに罠を掛けて仕事を始めようか」


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