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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、魔力充填を拒否る

「何ですか、もう……。パンツ一丁でいる時に呼ぶのやめて下さいよ」


 ようやくシャツとスラックスを身につけ、しかし上着は腕に掛けたまま、ベルトのバックルを填めつつネイが試着室から出てきた。


「初めて狐目の必要性を強く感じたぜ……。突っ込み不在の空気感、怖え……。もしかして変なのは気にしてるあたしの方か? と自分を疑うところだった……」

「ミワさんも空気感とか一応分かるんだ、意外だなあ」


 苦笑をしたネイがこちらに歩いてくる。それにユウトが振り向いて、彼の新しい装備を確認した。


「わあ、ネイさんお似合いです! シンプルカッコイイ!」

「爺さんのデザインに当たって良かったわ~。ミワさんのデザインだったら、もろ一般市民だったもん」

「親父デザインよかマシだろ。……ふむ、とりあえず全体のバランスは問題なさそうだな」


 ネイが最後に上着に手を通す。それを眺めて、ミワは頷いた。

 青を基調としたすっきりとしたフォルムは、幾分細身のネイの体型に合っている。隠密行動中に邪魔になるような無駄な装飾はなく、それでいて安っぽさもない。太腿にベルトで取り付けられたナイフホルダーなどの小物が、良いアクセントになっている。


「狐目は隠密系だから、生地は光を吸収する素材で作ってある。ちょっとした暗がりに入ると、ほとんど見えなくなると思うぜ」

「へえ、そりゃすごい。この手袋は? 素材が違うみたいだけど」

「それは耐熱、耐寒、耐毒の強化革素材でできた手袋。隠密は危険な物や罠に接する機会が多いだろ。これは溶岩なんかに手を突っ込んでも30秒くらいは熱を通さねえから、重宝すると思う」

「マジか、これありがたいなあ! 俺結構ヤバい仕事するから」


 レオから見ても、ネイの新装備はデザインも機能も申し分ない。

 見た感じ、トゲトゲも付いていなそうだ。


「うん、これで大丈夫そうだな。もしかすると親父が仕込みトゲしてるかもしれねえけど、見付けたら折っといて」

「え、ちょ、仕込みトゲって何。何かの拍子に突然飛び出されたらびっくりすんだけど」

「親父、サプライズ好きだからなあ」

「そんなサプライズ要らないから! おたくらの一族、本当に自重しないよね!」

「まあ、変なことはしてないと思うから、問題ねえよ」

「トゲ付けること自体が変なことだっつーの!」


 ……どうやら表面上分からないだけで、結局トゲトゲが付いている可能性が高そうだ。

 仕込みトゲなど要らない機能だが、ミワ父は良かれと思ってやっているから質が悪い。彼的にはカッコイイ+攻撃力アップくらいの感覚なのだろう。


 もしかすると、嫁を救ってくれるお礼だとすら考えているのかもしれない。


「後で親父さん捕まえてサプライズ阻止しよう……。ところでミワさん、そっちにあるのは?」

「こっちはジャイアント・ドゥードルバグの大顎を使った短剣だ。ベルトに合わせて鞘を作ったから、ぴったり填まるはず。ちょっと着けてみ」


 ネイはカウンターの上に置かれている剣をミワから受け取った。

 そして鞘に付いている金具をベルトに填める。それは上下からしっかりとベルトを噛んで、ぴたりと安定した。


「あー、さすが。ちょっとやそっと動いても位置がブレない。俺の攻撃は速さ命だから、攻撃の始点が常に安定してるのはありがたいわ」

「ま、この細かい統一感が武器防具を同じ場所で一式作ることの利点でもあるからな」

「……剣の出来もいいなあ」


 短剣を鞘から引き抜くと、ネイはその刀身を眺める。

 少しだけ反りのある鋭利な刃は、その道の者なら一目で上質なものだと分かるだろう。硬質でありながら金属とは違うしなりがあり、硬軟両面を併せ持った剣だ。


「腕力+に素早さ+か。シンプルだけど俺にはこの属性がありがたいんだよね」

「持ち主が強くなればなるほど、特殊属性が煩わしくなることもあるからな。特に武器は。戦況を予測しながら戦う狐目みたいなタイプなら、安定的な結果が見えるステータス底上げ系がいいだろ」

「……ミワさん、こういう時はちゃんとした出来た職人に見えるんだけどなあ。何でいつもはああなんだろ」


 最後に余計な愚痴をひとつ入れて、ネイは剣を鞘に収めた。


「……ところで、レオさんとユウトくんは何でさっきからナチュラルに手を繋いでるんですか? 俺が試着室に行ってる間に何かあった?」

「おっ、よく突っ込んでくれた狐目! 危うくこのまま、これが普通で話が終わりそうだったぜ」


 ミワが少しほっとしたように言うと、その隣でタイチ母がにこりと笑った。


「2人は現在魔力充填中よ」

「魔力充填?」

「通信機を使用するための魔力を、魔石に充填しているところなの」


 ネイはそのまま、彼女から一通り通信機についての話を聞いた。

 そして、最後に納得したように頷いた。


「ああ、タイチ母の萌え仕様にレオさんが乗っかったと」

「タイチ母は天才だった」

「レオさん、評価があからさますぎる。つか、100%充填するまでそうしてるつもりですか? ユウトくん、どんくらい魔力溜まったの?」

「……まだ31%……んー、確かにこのままじゃ効率悪いかも。一度僕が100%まで一気に充填しちゃおうかな」

「なん……だと……!?」

「あ、弟は全然タイチ母の萌えに乗っかってねえわ。めっちゃナチュラルだった」


 ユウトはレオの手を放し、自身のスマホもどきを手に取った。


「レオ兄さんの通信機もちょうだい。とりあえず1回魔力充填しちゃうから」

「嫌だ」

「即拒否かよ!」


 思わずミワが突っ込む。


「30%くらいしか魔力が無いと、少し使ったらすぐに使えなくなっちゃうよ」

「100%になってから使えば良い」

「せっかく作ってもらったんだから、すぐ使いたいじゃない?」

「100%になってから使えば良い」

「レオさん、すげえ頑な」

「お兄さん、頑張れ!」

「タイチ母、応援すんな」


 2人のやりとりをネイたちは見守った。


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