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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、世界樹の葉の朝露を生成する

 翌朝、レオたちは転移魔石を使ってバラン鉱山の精霊の祠前に飛んだ。

 レオがユウトを、ネイがエルドワを抱えて行けば、魔石は2つで済む。今日でレオが使用した転移魔石の充填もできているし、ザインに戻る時の心配も不要だ。この用事を済ませ、ミワたちにオーダーした装備もろもろができればすぐに帰れるだろう。


 ちなみに、今のレオはスーツ、ネイはジャージ。そしてユウトは犬耳フードとちょっとちぐはぐだ。

 ランクSSSクエスト時の装備バレをしているが、この閉じられたラダの村の中だけなら特に問題はないと思われる。そもそも半魔たちは、自分たちも秘密を抱えているからか、総じて口が固いのだ。

 そのせいで、半魔に関しては未だに分からないことも多いのだが。


「ユウト、余計なものに触るなよ」

「ん、大丈夫」


 レオが精霊の祠の扉に向かうユウトに声を掛ける。


 昨夜、弟が飛ばされた世界のことや、起こった出来事は聞いていた。掛かっていた封印について解決したことも。

 それでもやはり、またユウトがどこかに行ってしまわないかという心配は拭えない。……その飛ばされた先の世界が、弟にとって良くないものなら尚更だ。


 ずいぶん前にウィルが考察していた、魔研が別の世界を作っているという話。ユウトの報告を聞いて、それが記憶のフックに引っかかった。

 ユウトが飛ばされたという世界の様子に思い当たることが多すぎて、可能なら今すぐにでもひとりで乗り込んでぶっ潰して来たいとすら思う。

 もちろんそれは無理な話なのだけれど。とりあえずここを封印していた悪魔と知り合いだったらしいヴァルドに、今度詳しい話を聞こうと決めて、レオは心を落ち着けた。


「わあ、いっぱい精霊さんがいる。おはようございます」


 祠の扉を開けたユウトは、心配する兄を余所にご機嫌だ。

 精霊のペンダントのおかげでその姿を見、声を聞けるようになった弟は、ふわふわと笑っている。


「山にはだいぶ精霊が戻ってきているのか?」

「うん、この竜穴の周りでみんなで夜通しお祝いしていたみたい。開放のお礼に僕たちに世界樹の祝福をくれるって」

「ユウトくん、世界樹の祝福って?」

「朝露の生成を助けてくれるみたいです」


 そう言って、ユウトはポーチから世界樹の杖を取り出した。

 それを竜穴に差し込む。うん、ジャストフィット。


「このまま、待てばいいのかな?」

「はい。1時間くらいで大丈夫ですって」

「結構長いな」

「……じゃあ俺、エルドワ連れてちょっと山頂まで散歩に行ってこようかな~」

「アン」


 時間があることを知ったネイが、軽くレオに目配せをしながら呟いた。

 おそらく、魔尖塔の残骸を調べに行くつもりなのだろう。エルドワがいれば鼻も利くし、何かに気付くかもしれない。


「うん、どうぞ。僕は世界樹の杖の側を離れるわけにいかないし」

「……そうだな。ユウトの側にいるのは俺だけで問題ない」


 そのままの意味で請け合うユウトに、レオも賛同する。それを当然調査の許可だと受け取ったネイは、ユウトの側にいたエルドワを呼び寄せた。


「おいでエルドワ、散歩行こう。……とりあえず30分程度で戻ります」

「ああ」


 短く返して、送り出す。

 昨日見た感じでは残骸が風に流れて消えていたから、あの黒い骨組みは今頃なくなっているだろう。全てを見回るのにそれほど時間は要らないはずだ。

 一応後で報告書を作らせて、ライネルとも共有しなくては。


「別にもう危ないことないから、レオ兄さんも散歩行ってもいいよ?」

「そんなもの、朝露を手に入れてから、お前と行ったっていいだろう」

「そっか」


 祠の扉に続く階段に座ると、ユウトも微笑んでそのすぐ隣に座った。レオにとって護るべきは世界でなく、ユウトだ。何ものと天秤に掛けたって、兄の針は必ず弟に傾く。比較対象が魔尖塔だって例外ではない。ユウトを置いて見に行くほどの価値などないのだ。


「マナが満ちて、精霊さんたちが歌ってる。レオ兄さんにも聞こえるといいんだけどなあ」

「杖に祝福を与えてるのか?」

「うん。聞いてる僕もすごく元気になる感じ。そうだ、レオ兄さんも精霊のペンダント着けてみる?」


 精霊の歌など特に興味もないが、ユウトがいそいそと自身のペンダントを外してこちらに着けようとするのに任せる。

 それが首に掛かった時点で、ふわりと鈴の転がるような歌声が聞こえてきた。そして、周囲にいくつもの光の玉が見える。


「……これが精霊か」

「一般の精霊さんは言葉を持たないみたいだけど、綺麗な音を出してるでしょ。歌声を発しているのは、意思のある上位の精霊さん。……ひとりだけ、小さな人型をしてる精霊さんがいると思うんだけど、それが僕に加護を付けてくれている精霊さん」

「人型?」


 目の前にいるのは大小様々な光の玉だ。属性によるのだろうか、少しずつ色が違う。その中にユウトの言う人型を探すと、何のことはない、弟の肩に乗っていた。


 表情などは全く分からない、人型の発光体だ。そいつがこちらを見ている(多分)。

 互いに特に言葉を発することなく視線を合わせて(多分)いたけれど、何の発展もなさそうなのでレオはペンダントを外してユウトに返した。


「……とりあえず、そこにいるのは分かった」

「この精霊さん、何となくレオ兄さんに似てるよね」

「俺に? ……よく分からんな」


 見た目ということではないだろう。声? 性格? いや、単にユウトに甘いということかもしれない。……誰よりもユウトを愛でている自負があるレオとしては、ちょっとだけ面白くない。


「そいつ、俺に対して一言も発しなかったが」

「あれ、そうなの? 僕にはよく話しかけてくれるけど……。ふふ、そういう雰囲気もレオ兄さんに似てるかも」

「そいつと一緒にするな」


 そう言うと、ユウトは小さく吹き出した。


「精霊さんも今同じこと言った」


 ……何だと。それは不本意だ。

 しかし、くすくすと楽しそうに笑う弟を見て、不愉快になるレオではない。まあいいか、とその頭を撫でた。


「あ、見て、レオ兄さん。世界樹の杖に小さい葉っぱが生えてきた」


 不意に、祠の中を振り返ったユウトがそれを目に留める。

 レオも見れば、そこには3枚ほどの小さな葉が見つかった。おそらくあの葉の上に溜まる朝露が薬になるのだろう。


 そのまま祠の中に入っていくユウトに、レオも付いていく。


「これは3回分になるということか?」

「うん、1枚の葉から採れる朝露が一滴だから、そうなるみたい」

「じゃあ一滴は予備でとっておけるな」

「ん? 特殊な薬だから、今必要な量しか提供しないって精霊さんが言ってるけど……。それだと、ミワさんのお母さんと、タイチさんのお父さんの2人分だよね? あとひとりは……?」

「もうひとり、回復が必要な人間……? ああ、そうか」


 そう言えば、ジラックのリーデンが世界樹の葉の朝露を求めて探し回っているという話を聞いたっけ。

 となると、残りの一滴を使う相手は、おそらくジラックの領主の弟だ。


 しかし、我々が彼らにこれを提供する義理があるだろうか?

 いっそユウトに何かあった時用に、保管しておきたい気分だが。


 そんなことを考えていると、突然祠の外に人の気配が現れて、レオは振り返った。

 誰かがここに転移してきたのだ。

 ……何だこの仕組まれたようなタイミング。


「……そこに誰かいるのか?」


 年配ながらも凜とした声がして、ユウトも外を振り返る。


「あれ、誰か来た?」

「来たな。誰かというか、これは……タイミングが良すぎて、精霊に仕組まれたとしか思えんが」

「ん? なあに? ……精霊さんは、『巡り合わせだ』って言ってるけど、なんのこと?」

「嘘くせえ……」


 レオは眉間にしわを寄せつつも祠の外に出た。

 そこにいたのは、予想通りの男。

 昔、領主の護衛として王都を訪れた彼を、何度か見かけたことがある。そう、リーデンだ。


 祠の中から現れた2人を、男は警戒半分、期待半分といった様子で見た。


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