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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、オーダーを終える

 ネイの装備は耐性のベースだけならレオたちとそれほど変わらない。店にある鉱石と、レオが予備で持っていた素材と、ネイが自分で集めていた素材、それを合わせれば彼の装備は問題なくできるようだ。


 俄然問題なのは、デザインだった。


「ネイさん、モブの見た目が嫌なら、レザーチョーカーにこのトゲトゲ鋲付けるのどうだい?」

「……おじさん、俺にはここにトゲトゲを付ける有用性が分かんないんだけど」

「じゃあ、肩パットに付けたらどうだ? ショルダータックルすれば相手串刺し」

「これ、首傾げた時に自分に刺さんない? つか、俺そういう戦法じゃないし。何でトゲトゲで差別化を図ろうとすんの?」

「さらにモヒカンに黒いフェイスマスクすれば完璧」

「おじさん、何目指してんの? 世紀末? 微妙にモブ臭消えてないし」


 密かにミワの父も特殊な嗜好の持ち主のようだ。「ヒャッハー!」とか言いながら廃墟をバイクで走り回る輩っぽいデザインを勧めている。

 そしてミワはネイのデザインには本当に興味がないのだろう、隣でどうでも良さそうに傍観していた。


「俺が犬耳ローブの可愛いユウトくんをこの格好で護衛してたら、ストーキングしてる変質者でしかないんだけど」

「ああ、もちろん近くにいたら駄目だよ。危ないでしょ。あの子に傷付けちゃうよ」

「え、何? 本末転倒なんですけど。俺、通常装備って言ったよね? 殴っていい?」


 このデザインだけを巡って、さっきから話が進んでいない。

 レオたちのタイチ母とのやりとりが終わっても進んでいない。

 いつまでやってるつもりだ。

 そう思っていると、奥から今度はミワの祖父が現れた。


「なんじゃ、まだオーダー取り終わらんのか。そろそろ筋肉のクーリングダウンの時間じゃぞ」

「ああ、ジジイ。ちょうどいい、親父のデザインが通んねえんだよ。どうにかしてくれ」

「んん? この隠密系で線だけで構成されているような目立たない地味な顔に、この衣装はねえじゃろ」

「線だけで構成されてる顔って、爺さんも何気に俺に対して失礼じゃね?」


 ネイの突っ込みはほぼスルーされている。やはりこの一族は人の話を聞かないらしい。

 ミワ祖父も全くネイに意見を聞こうとはせず、勝手に横からオーダー帳にデザインを描き始めた。


「ちんまい白いのとノッポの黒いのが一緒だから、色はあった方が良かろうな。隠密系なら無駄なひらひらは不要、と。ローライズでタイトなスラックスとストレッチブーツ、ナイフホルダーをこの辺に付けて、こんな感じかのう」


 ものの1分ほどでざっくりと描き上がったデザインに、ネイが目を丸くする。


「……あれ。何これシンプルカッコイイ。爺さんデザインじゃ、何か古くさい形の鎧になるかと思ったのに」

「ジジイは人気鍛冶屋だったからな、昔は。元々デザインには定評があったし、あたしらの繊維に金属を織り込む技術を知ってからは、鎧以外のデザインも研究してるんだ」

「だったら最初から爺さんにデザイン頼んでよ!」

「いや、親父がやりたがってたんで」

「ネイさん、この装備に着脱可能なとげとげの肩パット付けるのどうだい? あっ、このナイフホルダーには絶対鋲を打った方がカッコイイよね」

「ちょ、もう、描き足すし! やめてくれる!?」


 ネイはオーダー帳を無理矢理閉じてミワに渡した。

 とりあえず、彼のデザインはミワ祖父のもので決定のようだ。ミワ父は少々不満そうだったが、娘に追い払われて、祖父と一緒に奥にクーリングダウンをしに行った。


「さて、狐目の装備は素材も揃ってるし、3人掛かりで作れば2日くらいでどうにかなる。そういや、兄がタイチに預けたジャイアント・ドゥードルバグの大顎も届いてるが、一緒に武器制作もするか? こっちは別料金になるが」

「ジャイアント・ドゥードルバグの大顎……? レオさん、もしかして、ルアンと行ったクエストの戦利品?」

「ああ、腕力+の素材だから、狐の武器に回した方がいいとタイチが言っていたんだ。作ってもらえ。どうせ制作費は貴様持ちだ」

「制作費が自分持ちってのが引っかかりますが、稀少なアイテムをありがとうございます! じゃあミワさん、そっちもヨロ」

「おうよ」


 再びオーダー帳を開いたミワは、そこに短剣のデザインも描き加える。それを終えると、ようやく新しいページを開いた。


「んじゃ、次は兄。修繕すっから脱げ。破損箇所は右肩と、左右の腕2カ所、裾1カ所か。中のシャツは?」

「肩の部分が破損してる。他は問題ない」


 ネイがカウンター前からよけて待合の長椅子の方に来る。

 入れ替わるように、膝の上からユウトを降ろしたレオはカウンターに向かった。

 オーダー帳に破損箇所を図で記入しているミワに、上着を脱いで渡す。この破損が理想型を損なっているせいか、彼女が萌えを叫ばないのがありがたい。


 しかしシャツも渡そうとして、さすがにミワの前で上半身肌着1枚になるのが憚られた。そのままガイナの家に戻るのもなかなか間抜けな姿だ。


「ユウト」


 仕方なしに弟を呼ぶ。

 抱っこしていたエルドワをネイに預けたユウトは、すぐに兄の隣にやってきた。


「なあに?」

「変身ステッキで、装備の変換をさせてくれ。こっちの装備は修繕しなくちゃいけないからな」

「あ、そっか。ちょっと待って。……『スーツ眼鏡』」


 ローブに隠しているステッキを取り出すと、弟はそれをレオに向かって軽く振る。その一瞬で、兄は何の欠損もないスーツ眼鏡に変身した。

 ……そしてその途端に、ミワが目を輝かせたのが分かった。


「うおおおお、久しぶりのスーツ兄、萌え! この格好は滅多にお目に掛かれないからレアだぜ……! やはり黒縁眼鏡はいい……!」

「身を乗り出してくるな、ウザい」


 装備が入れ変わってポーチに格納されたシャツを取り出し、ミワに渡す。

 変身時にセッティングされてしまう眼鏡をとっとと外し、整えられた髪もくしゃくしゃと乱した。


「かっちりを少し崩したそのワイルドっぽさも良き……! あー、エネルギー溜まるわ! さすが萌えの化身!」

「お前らの一族の趣味嗜好の特殊さはどうにかならんのか。親父なんか、あのデザイン推しで王都で商売できるのか?」

「おう、親父はああ見えて正統派鎧と武器の職人だから大丈夫。あれはホントに趣味だから。あたしが狐目の装備デザイン思いつかねえって言ったら、やる気になっちゃっただけ。ただ、正統派鎧でも肩にやたらトゲトゲ付くけど」

「付くんじゃねえか」


 呆れたように言ったが、それでもミワ父はマシな方か。萌え重視よりはまだ受け入れられる気がする。


「修繕にはどのくらいかかる」

「こんくらいなら明日の午前中にはできるぜ」

「……では世界樹の葉の朝露を採って帰って来た時に受け取るか」

「了解。できるだけ早めに終わらせとく。……さて、最後に弟のオーダーだが」

「さっきタイチ母に頼んだアイテムでいい」

「ここでちょっと聞いてたが、同様のアイテムがないからイメージが湧かねえんだよな」


 オーダー帳のページをめくったミワは、ペンを止めて考え込んだ。

 まあ確かにこの世界には電話なんてないから、ぱっとイメージなど浮かばないだろう。しかし、レオたちは日本でスマホをいじっていた。ユウトに付けたGPSにはだいぶお世話になった。

 だからその形でいい。


「こんな感じの手のひらサイズの板でいい。ここに位置情報が分かるモニターを付けて、こう、耳を当てたときに聞こえる方に音声変換、口元の方に信号変換の術式を付けてくれ。信号を受け取った時に着信を伝える機能も欲しい」

「お、何か具体的だな。板状なのは作りやすくてありがたいが」


 ミワはレオの説明を図に起こしていく。まさに形はスマホだ。


「……竜脈に乗せられる魔力は弟のだけなんだよな。つーことは、兄側から発信する時も弟の魔力を使わなきゃならねえ。……んー、魔力を魔石に充填しておいて、それを使うようにするしかねえか。材料に特上魔石が2つ必要になるが」

「先日のクエストで手に入れてる。問題ない」

「……だろうな。本体は魔力と親和性が高いオリハルコンでいいとして。後はタイチ母に任せよう」


 どうやら受注作業はこれで終わりのようだ。

 ミワはオーダー帳を閉じた。


「こっちはどのくらいでできそうだ?」

「成形自体は簡単だから、術式の組み上げ次第だな。タイチ母はだいぶやる気だから、これも2日くらいでいけんじゃね? 兄弟が目の前でもっといちゃついてやれば、さらにスピードアップするぞ、多分」

「……いちゃつけと言われても、具体的に何をすればいいのかよく分からん」


 さっき指示された内容も普段通りのことで、特にいちゃついた気もしなかったが。

 そう思いつつ、手持ち無沙汰に隣にいるユウトの肩を抱き寄せ、まろい頬を擽るように撫でる。それをごく自然に受け入れている弟を見て、ミワはだいぶ呆れたような息を吐いた。


「……まあ、二人でタイチ母の前にいれば、それでいいんじゃね?」

「……それでいいのか?」


 よくわからん。

 ミワの言葉に、兄弟は首を傾げた。


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