表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

213/767

兄、弟をぎゅっとする

 下りの山道、ユウトのふわふわと揺れる背中の羽を眺めながら、ネイは小さく笑った。


「あの動き、癒されるわ-。……ユウトくんを泣かせる羽目にならなくて良かったですね」


 その言葉にレオはじろりとネイを睨んだが、何も言わずにすぐに前を向く。


 特に謝罪をするつもりも、礼を言うつもりもない。

 この男がレオに対してそういう言葉を望んでいないことを知っている。ネイは自身のために動いただけだ。利己的な行動に、主からのレスポンスなど不要。礼など言ったら、この男はひどく嫌がるだろう。


 ネイの捻くれた性格には、過去、一番最初に仕えた主が関係しているらしいが、今の主であるレオには関係ないことだ。その性格が自分にとって都合が良い、それだけで十分。


 あんな目に遭わされても文句ひとつ言うどころか、どこか楽しそうなそのドMぶりには閉口するけれど。


「……貴様の、その装備」

「ああ、はい。もうボロボロっすね。戻ったら新調しないと」

「今度は通常装備ももえすで作れ。……対等とは言わんが、もう少し保ってもらわんと困る」


 事実、一対一でレオをどうにか止められ得るのはこの男しかいない。ルウドルトも強さ的にはネイと同等だが、同じ剣士系ゆえに1ランク高いレオの方が圧倒的に有利。その点、ネイはトリッキーで器用、剛の自分と違って、柔の対応力がある。


 つまり、ユウトを失うと正常で居られなくなるレオとしては、この男に簡単に死んでもらっては困るのだ。

 そう言外に含めて言うと、ネイはどこか嬉しそうに返事をした。


「了解でーす。まあ、元々そのつもりでしたし。ミワさんが乗り気になってくれるかが問題ですけどね」

「……その辺は平気だろう。萌えるかどうかはさておき、貴様を強くすることには興味があるようだしな」


 ラダの村にはミワの祖父と父もいる。鍛冶の工房もあり、レア鉱石も在庫しているだろう。魔物素材はレオが装備の予備用にいくらか持っているし、なんなら滞在している2・3日で出来上がるかもしれない。


「……えっと」


 そうして弟の後ろを歩きながら話していると、ユウトが立ち止まって下を覗き込んだ。

 眼下には来た時に上ってきた絶壁に掛かった梯子。それが、この先もいくつか続く。今のレオとネイには少ししんどい感じだ。


「……ん、そうしよう」


 それを眺めながらふむふむと頷いて、何か独り言を呟いたユウトが、こちらをくるりと振り向いた。


「レオ兄さん、ネイさんのことおんぶして」

「……何?」


 思わず嫌な顔をしたレオの隣で、ネイは面白いという顔をする。

 何の冗談だろうと思ったが、ユウトは至極真面目な顔だ。


「レオさん、ユウトくんが俺を背負えって」

「断る」


 楽しそうなネイを即座に拒絶すると、ユウトはちょっと困ったように小さく唸った。


「うーん……仕方ないな。じゃあ逆でいいか。ネイさん、僕のことぎゅっとしてもらっていいですか?」

「……なっ……!?」

「ん? もちろんいいよー」

「待てコラ殺すぞ!」


 腕を広げてユウトを抱擁しに行くネイの頭を、後ろから鷲掴みにして止める。


「うお、いだだだだだ、レオさん、頭骨に穴が開く! 脳みそ握り潰される!」

「レオ兄さん、何してるの、もう! 兄さんが嫌がるから順番変えたのに!」

「チッ……」


 ユウトに手をぺちぺちと叩かれて、仕方なく力を緩めた。レオの握力から逃れたネイが、大きく嘆息する。


「痛ったあ……ついさっき俺がいなくなると困るって言ったくせに、本気で殺しに来るし……」

「それとこれとは話が別だ」

「ユウトくんが関わると、本当に冷静でいられませんよね、レオさん」


 呆れたように言われたが、自覚があるので特に反論はしない。ただ聞いていないふりをして、ユウトとネイの間に割って入った。


「ユウト、こんな男にぎゅっとさせるだなんて、何を考えているんだ! 俺に言えば、いくらでもしてやるのに!」

「だって、ネイさんを背負ったレオ兄さんにぎゅっとしてもらおうと思ってたのに、断るから!」

「……ん?」


 弟の目的がよく分からない。

 とりあえず、目の前で頬を膨らましてぷりぷり怒るユウトが可愛いので、ちょっと怒りが収まった。


「この羽で下まで降りられるから、僕に掴まってもらおうと思ったの! レオ兄さんが一番大きいから、ネイさんを背負って、僕とエルドワを抱えてもらえば行けると思って」


 それをレオに断られたから、先にネイに抱えてもらって、そこに兄が掴まればいいと考えたらしい。

 なるほど、そういうことか。しかし。


「……そんな小さな羽で、俺たち全員の重みに耐えられるのか?」

「精霊さんが、『余裕のよっちゃん』って言ってる」

「古っ! ……いや、それより、ユウトくん精霊の言葉分かるの?」

「あ、はい」


 ネイの疑問に、ユウトが胸元に掛かっていたペンダントを取り出した。

 翡翠色の宝石の付いたそれは、ディアが持っていたものと同じ。


「……精霊のペンダントか!?」

「祠を開放したお礼にもらえたの。きちんと意思を持ってる精霊としか話せないけど、ちゃんと会話できるよ」

「んで、その精霊さんが俺たちをぶら下げて飛べるって?」

「はい。長い梯子を降りるより早いし、さっきの王冠スライムの消化液で梯子のあちこちが溶けちゃってて危ないから、そうしなさいって」

「あー、そっか、梯子だって溶けてるわな。いつもの俺たちならどうとでもなるけど、今はこの高さから落ちたら着地に耐えられる気がしないし、精霊さんの存在ありがたいわ」


 確かに、今のレオたちではユウトを無事に地上に運ぶのは困難だ。

 体力はもとより、先程の戦いでだいぶ集中力を使ってしまった。岩を伝って降りるにも足でも滑らせたら終わりだ。


「じゃあレオ兄さん。納得したら、ネイさんをおぶって」

「……貴様、やっぱり転移魔石で帰れ」

「明日、ここの祠に戻ってくる時に梯子がないから転移魔石必要になりますよ? 無駄に使えません」

「くっ……た、確かに……」


 今後ガイナたちが梯子を掛けるだろうが、さすがに明日は無理か。

 ……やむを得ない。

 あまりごねると、ネイがユウトをぎゅっとする羽目になる。それは何が何でも避けたい。弟をぎゅっとするのは兄の特権なのだ。

 レオは観念した。


「ユウト以外の人間と密着するなんて死ぬほど嫌だが仕方がない。ものすごい嫌悪感で吐きそうだが、背中に乗れ。クソが」

「レオさん、言い方」

「兄さん、じゃあ次は僕のことぎゅっとして掴まって。後は、エルドワ」

「アン!」


 羽の動きを邪魔しないようにユウトをぎゅっとすると、最後に呼ばれたエルドワがぴょんと跳ねてネイを足場にし、レオの肩に乗った。

 ものすごい密度だが、これで準備完了だ。


「飛ぶぞ」

「うん」


 この状態をとっとと終わらせたい。

 短い確認だけをして、レオは崖から飛び降りた。

 途端に何となく身構えてしまったけれど、足下が浮いた直後にシャボン玉にでも乗っているような浮遊感を覚えて、レオは力を抜く。同じように後ろからしがみついているネイの身体からも、緊張が抜けた。エルドワは最初からリラックスして、くあと欠伸をしている。


 ユウトもまた、気負いのない様子で周囲を見ていた。


「わあ、梯子の下の方、ほとんど溶けてなくなってる……。あれで降りてたら大変だったね」

「そうだな」


 2人の会話に、はたとネイがあることを思い出す。


「……あれ。ミワさんのこと途中でひとりで帰したけど、ここどうやって降りたんだろ」

「あ、ミワさん居ないと思ったら、先に帰ってたんですね。あの人なら落下ダメージ無効のアイテムとか持ってそうですけど」

「……壁面にアンカーが刺さってる。おそらく縄梯子か何かを持ち歩いていたんだろう。王冠スライムを倒したら梯子が使い物にならなくなることは知っていたはずだからな」

「そういやそうか。事前に知ってれば準備してますよね」


 とりあえず落下死した形跡もないのだし、無事に戻ったのだろう。

 アンカーだけ残して行ったのは、ユウトの魔法のロープを使ってレオたちが降りるためかもしれない。結局必要なかったが、その心遣いだけは感謝しておこう。


 そうしてふわふわと降りていき、3人と1匹はバラン鉱山の麓に着地した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ