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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、人化したエルドワとヴァルドと進む

 目の前に現れたのは、均整の取れたたくましい身体の男だった。

 身長はレオと大差ない。ただ、筋肉量は少しこちらの方が上か。

 黄金の瞳に、犬の時と同じ薄い赤茶の髪の毛。その毛質も犬と同じようにもふもふだった。


 体格は完全に人間である一方で、犬耳と尻尾は付いたまま。

 人化が苦手、というのはこういうところなのかもしれない。


「……エルドワって、こんなに大きかったんだね……」


 ユウトを見下ろす男は、レオよりもだいぶ若く感じるものの、同系統のキリリとした男前。

 しかし、その中身はだいぶ違うようだった。


「こんな知らない場所で、闇雲に歩き回っちゃ駄目だよ、ユウト! ユウトには見えてないけど、周りに変な魔物がいっぱいいる。植物も怪しい魔力を帯びてるものがいる。危ないから、エルドワについてきて!」

「あ、うん……。ごめんね」


 眉尻を下げたエルドワは、そのしゃべり方も相俟って、思いの外子どもっぽい。ただ身体は大人だ。人化したばかりで素っ裸なのがさすがに気になる。


「……エルドワ、服って……持ってるわけないか。何か代わりになるものあったかな」

「服? ああ、それなら平気。魔力で作れる」


 ポーチを漁るユウトの向かいで、エルドワは簡単に腰蓑のようなものを着けた。こういうのって何系魔法なんだろう。そして、何故に腰蓑だけ。


「……エルドワが人化できるなら、今度服を準備して、変身ステッキにエルドワコーデも登録しておこう……」

「エルドワは今、ユウトと話をするために仕方なく人化した。滅多なことでは人化しない」

「耳と尻尾が出っぱなしだから?」

「そう。そもそも感覚が鈍るから耳と尻尾隠すの嫌いだし。だから人化をするのは苦手」

「僕は耳と尻尾が出てるの、可愛くて良いと思うけどな。エルドワとこうやってちゃんと話せるのも嬉しいよ」

「……ほんと? ユウトの前では出ててもいい?」

「うん」


 あっさりと肯定すると、エルドワはぱあと表情を明るくして、めっちゃ尻尾を振った。分かりやすい。


「じゃあ、ユウトの前では人化する」

「僕の前でだけ?」

「他は必要ないから。……あ、レオには一応見せる。そうしないとユウトとゆっくりお話しできない」

「そっか」


 話をしていると、やはり子どもな感じだ。身体は大きいけれど、つい頭を撫でたくなる。

 手を伸ばせばエルドワは嬉しそうに自分から身を屈め、撫でられに来た。うん、可愛い。


「とりあえずここを脱出するまでは人化してることにする。ユウトとお話しが必要だから。さあ、早く出口に向かおう」

「出口? エルドワはここがどこだか分かるの?」


 撫でられ終えたエルドワがユウトの手を取って歩き出そうとする。それに首を傾げると、彼は少し表情を引き締めた。


「いつもと違う世界なのは確か。少しだけ魔界の空気に似ているけど、それとも違う。生命も、精霊も少ない……おそらく出来立ての世界」

「出来立ての世界……?」


 そんなところと、あの祠をトラップで結ぶような存在がいるということだろうか? 人智を超えた力を感じて不安になる。


「大丈夫、エルドワがユウトを護る。エルドワには魔力の流れを見る力があるから、その流れを辿れば世界の入り口と出口が分かるんだ」

「あ、だからあの黒い鉱石がこの世界の入り口になってたことも分かったのか。……ところでエルドワは、あの祠の周りにあった黒い鉱石の正体も知ってる?」

「あれは悪魔の水晶(デモン・クリスタル)かもしれない。実物を見たことはないけど、魔界で取れる水晶だよ」

「魔界で?」


 そんなものが、どうしてあの世界に。


「詳しいことはよく分からないけど……そうだ! ユウト、ヴァルドを呼ぶといいよ。ヴァルドも昔魔界にいたから色々知ってるし、頭が良い」

「ヴァルドさんを? でもここ異世界なんだよね? こんなところまで呼べるのかな」

「平気。召喚は世界の壁を越えられるから。契約がないと大きな代償が必要だけど、ヴァルドはユウトの血だけで喜んで来る」

「そうなんだ」


 確かに、ヴァルドも居てくれれば、エルドワと違った意味で頼もしい。限られた時間でも大いに助かるだろう。

 エルドワの言葉に応じたユウトはピアスで指に傷を付けると、それをブラッドストーンに塗りつけて、ヴァルド召喚の文言を唱えた。


「ヴァルディアード!」

「……参上いたしました。お呼び下さり光栄至極です。我が主」


 真名を呼べば、魔方陣の光の中、悠然と自信に満ちた美男がユウトの前に跪く形で現れる。そして立ち上がると、いつものように血の出ている方のユウトの手を取った。

 しかし、そのまま血を吸うことはせず、ヴァルドは主のとなりに立っているエルドワを見る。

 そして、指でちょいちょいと彼を招いた。


「瘴気を吸って変化しましたね、エルドワ。マスターの血を頂いて浄化しなさい」

「うん。ユウト、いい?」

「エルドワが血を舐めるってこと? もちろん、いいけど」


 了承すると、エルドワはユウトの指をぱくりとくわえた。

 厳かな儀式のように唇を寄せるヴァルドとは対照的で、子犬に指先を吸われるような感覚だ。最後に分厚い舌でぺろりと舐められた。

 途端にさっきまで黄金色をしていたエルドワの瞳が、犬の時と同じ濃茶のキャンディのような甘い色に変化する。


「ユウトくん、もう一度私に手を。傷を塞ぎます」

「ありがとうございます、ヴァルドさん」


 今回は魔法で傷を消す。

 律儀にお礼を言うと、ヴァルドはユウトににこりと微笑んで、それから再びエルドワを見た。


「ずいぶん成長しましたね、エルドワ。……と言っても、ここのマナ濃度と瘴気の影響がだいぶありそうですけど」

「うん、思ったより身体が大きくなった。でもユウトの血をもらった時なら、このくらいは普通になれるかも」

「瘴気を吸っての変化は余程の緊急時を除いては慎みなさい。これは容易く魔物寄りになってしまいますから」

「分かった、気を付ける」


 エルドワが素直に頷いたのを確認して、ヴァルドは次に周囲を見回した。


「ところで、だいぶ異質な世界にいらっしゃいますね、マスター。安定しておらず、ひどく混沌とした大気だ。あなたがいるから私たちはまだ平気ですが、半魔が単体でいたらおそらく1日で精神が瘴気に侵されます。……そう言えばレオさんは?」

「レオ兄さんたちはバラン鉱山にいます。僕とエルドワだけここに飛ばされちゃって……。精霊の祠を解放しようと思ってたんですけど、黒い鉱石に触れた途端に転移の罠に掛かったみたいです」

「おそらく悪魔の水晶(デモン・クリスタル)だと思う。黒い石の中に、魔力の炎がゆらゆらしてるやつ」

「悪魔の水晶……ということは、魔族が絡んでいるのか?」


 独り言のように呟いて、ヴァルドが口を噤む。

 何かを思案しているようだ。

 その隣にいたエルドワが、待ての出来ない子犬のようにすぐにユウトにじゃれてきた。


「ユウト、とりあえずエルドワと出口に向かおう。ヴァルドは歩きながら考えたらいい」

「そうだね。太陽があるところを見ると、昼夜があるんだろうし。夜になったら移動だけでも大変そう」

「では二人で前を。私は後ろからついていきます」


 ヴァルドに促されて、エルドワがユウトの手を取り歩き出す。

 ちゃんとした道はないが、エルドワが枝や茂みを先に払ってくれるのでそれほど苦ではない。時にはひょいと抱え上げられて、大きな障害物を越えたりした。


「どこを目指してるの? さっき見えた研究所みたいなところ?」


 迷いなく進むエルドワに訊ねる。

 しかしエルドワは一瞬驚いた顔をして、すぐに大きく首を振った。


「あそこは、ユウトが近付きたくない場所だと思う。……あっちから、さっきのキメラと同じ臭いがしてる。薬と魔物と、少し人間の臭い」

「キメラと……? それって、あそこでキメラが作られてるってこと……?」


 何故だか、胃がきゅうっと絞られる気がした。

 僅かに表情を歪めると、それに気付いたエルドワが繋いでいない方の手で頭を撫でる。


「エルドワとヴァルドがいるから大丈夫。怖くない」

「……うん、ありがと」

「研究所……? ここにはそんなものが?」


 こちらの会話を聞いていたヴァルドが、少し怪訝そうな声で訊ねてきた。そうか、彼は見ていないのだった。


「ここに転移してきた時、上空から見えたんです。研究所みたいな建物と、その周りに術式の魔方陣みたいなのがいくつもあって」

「キメラと魔方陣……。もしや、ここが……」

「あっちには行かない。それよりもユウトがいなくなって、きっとレオもすごく心配してる。早く戻ろう」


 エルドワは何だかユウトを研究所らしきところに近付けたくなさそうだった。

 再び思考に入ったヴァルドを遮って、ぐんぐんと歩き出す。


「結局、エルドワはどこを目指してるの?」

「魔力の流れの起点。この世界はまだ未熟で、マナが足りない。それを補うために、どうやらあっちの世界の竜穴を無理矢理こっちに引っ張ってきてるみたいだ。そこを直して押し戻せば、多分一緒に戻れる」

「ここに満ちてるマナって、本来は僕たちの世界に流れるはずのものなの!? それに、竜穴を引っ張ってきてるってことは……そっか、精霊の祠!」

「そう」


 エルドワが目指しているのは、こちらに持って来られた精霊の祠に通じる竜穴ということ。

 こちらでその流れを向こうに戻せたら、きっと精霊が山に戻り、祠の開放にも繋がるだろう。


 しばらくそうして歩いていると、不意にエルドワが立ち止まった。

 それから、耳をピンと立てて周囲を伺う。

 何かを察知したのだろうか。


「……エルドワ、どうしたの?」

「人間の声と匂いがする」

「人間?」

「エルドワたちの向かっている先。そのすぐ近くに3人くらいいる」

「僕たちの目的地にいるの? じゃあ鉢合わせしちゃうかな。……悪い人たちじゃないといいけど」

「悪い奴ならエルドワが倒す。大丈夫」

「うん、頼りにしてる」


 こちらを安心させるように言うエルドワ。子どものようでいて、やはり頼もしい。後ろにはヴァルドも控えていてくれる。


「早く解決して、レオ兄さんたちのところに戻ろう」


 それでも、一番安心出来るのは兄の側だ。

 ユウトは一刻も早くレオの居る世界に戻るべく、エルドワに歩調を合わせた。


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