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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄弟、怒濤の快進撃

 宝箱を攻略したレオたちは、下り階段の前で一度立ち止まった。

 ここから進むための最終確認だ。

 敵や罠も増える可能性があり、できるだけそれらを避けて行きたかった。


「さてと、ディアさんは精霊魔法を使えるんですよね。じゃあ全体魔法もお手のものでしょ?」

「まあ、そこそこ自信はありますわ。一応、こう見えても魔法学校で特別講師をしていましたの」


 ネイの問い掛けに、ディアはさらりと答えた。

 それをレオが訝しむ。


「魔法学校の特別講師? それが、どうしてこんなとこで冒険者の真似事をしていたんだ。あんた、見たとこ貴族だろう。ランクSSの冒険者登録がされていたとは思えないんだが」

「今はどうか知りませんが、20年前の冒険者ギルドはほぼ統制など取れておりませんでした。このような高ランクゲートに入るのは、街を護るために自発的に結成された、勇者の率いる冒険者パーティのみ。私はそのひとつに請われて参戦したのですわ」

「……貴族のあんたにパーティ加入を依頼する冒険者がいたと?」


 基本的に貴族は人を従える立場であり、冒険者と共闘するなんてありえない。プライドの高い貴族だったら、その依頼自体を侮辱とも受け取るだろう。

 しかしディアは軽く首を振った。


「依頼を受けた時は、もう講師でも貴族でもありませんでしたから、何も問題ないですわ」


 ……何だか以前、似たような境遇を聞いたことがあるような。


「まあ、ディアさんの魔法はアテにできるってことだよね。ソードさん、ここからの並びどうします?」

「……先頭はエルドワで変えられないだろう。罠回避と下り階段までの案内を頼む。俺はその後ろでもゆるとエルドワを護る。貴様は殿で、ディアも護れ。……状況を把握しながら進むには、ヴァルドも必要だろうな」

「え、ヴァルドを呼び出せるんですの?」


 不意に、ディアがヴァルドの名前に反応した。

 そういえば彼女は半魔に関わることが多かったと言っていたか。エルドワを知っているなら、その流れでヴァルドを知っていても不思議ではない。


「僕がヴァルドさんと契約しているんです」

「……あなたが?」


 ユウトの言葉にディアが目を丸くする。そして弟の顔をまじまじと見つめるのに、レオはまた落ち着かない気持ちになった。

 ……頼むから、余計なことは言ってくれるな。


「……もゆるちゃん、瞳の翡翠色、綺麗ですわね。私、その色大好きですのよ」

「えっ? あ、ありがとうございます……?」


 妙に緊張していたレオの耳に届いたのは、だいぶ主旨から外れた科白だった。それに兄は肩の力を抜き、弟は意味を掴み損ねてきょとんと首を傾げた。

 ネイも何かを感じた様子だったけれど、それを口にするような馬鹿ではない。

 ディアが微笑んだだけで、その話はさらりと流れていった。


「とりあえず、ヴァルドさんを呼び出しますね」


 ユウトがピアスで指に傷を付け、その血でヴァルドを召喚する。

 いつものようにユウトの目の前に跪く形で現れた男は、その姿がいつもの大きさに戻っていることに微笑んだ。


「もゆるさん、罠を解除することができたのですね、さすがです。幼いマスターも大変可愛らしかったですけれど、やはりお仕えするならいつものあなたでないと」

「心配掛けてごめんなさい、ヴァルドさん。今日もよろしくお願いします」

「もちろん、仰せのままに、我が主」


 ヴァルドは言いつつユウトの手を取って、その指を舐めて癒す。

 いつもならここでレオが突っかかって行くのだが、今日はそれどころではなかった。


 レオの少し緊張をはらんだ空気を感じて、何があったのかとヴァルドが起ち上がる。

 と同時に、ユウトの背後に思わぬ人物を見つけた彼は、一瞬固まった。


「お久しぶりですわ、ヴァルド」

「ディ……ディア様……!? どうしてこのようなところに!」

「宝箱の罠で、20年間消えていたようですわ」


 あっけらかんと言うディアに、ヴァルドは大きく嘆息した。


「ここで消息不明になった魔導師とは、あなたのことだったんですか……! 当時はディア様がいなくなって、精霊たちが大騒ぎでしたよ!」

「平気でしょう、私に何かあった時のために、マルセンくんに世界樹の杖を預けて行ったのですもの」

「……え!? マルさん!?」


 思わぬところでマルセンの名前が出てきて、ユウトが驚きの声を上げる。するとディアは嬉しそうにユウトを見た。


「あら、もゆるちゃんはマルセンくんを知っているんですの? 彼は今何をしているのかしら」

「魔法学校の講師で……僕の魔法の先生です」

「まあ、素敵。マルセンくんが講師をしていて、もゆるちゃんの先生だなんて……。うふふ、面白い偶然ですわ」

「……あんたは、マルセンとどういう関係だ?」


 ディアはどうやら本来の世界樹の杖の持ち主らしい。話を聞けば聞くほど正体の分からない女性だ。

 レオは知りたいような知りたくないような心持ちで、とりあえず当たり障りのなさそうな質問を投げかけた。


「マルセンくん? 彼は、私の教え子ですわ」

「教え子って……あんた、当時のマルセンとほとんど歳が変わらないだろう」

「私は飛び級で、魔法学校を12歳で卒業しましたの。その後、特別講師として時々学校で魔法を教えていたのですわ。マルセンくんは私より少しだけ歳下ですわね」

「ディアさん、マルさんと知り合いだったんですか……。もしかして13年前にマルさんがこのゲートにアタックしたのは、ディアさんを助け出そうとしたのかな」


 その可能性は高い。だとすると、今ユウトの前で本人に色々訊くよりも、後で事情を知っていそうなマルセンに訊いた方がいいかもしれない。


「マルセンくんがいるなら、ゲートから出たらとりあえず彼を頼ってみることにしますわ」

「……それがいいだろう」


 ディアの言に頷く。

 ユウトの側に留まられるのも困るが、また消息が分からなくなるのも困る。マルセンあたりの庇護下にいてくれるならちょうどいい。

 レオは少し胸をなで下ろした。


「何にせよ、ゲートをクリアして脱出するのが先だ。そろそろ進むぞ。明日のボス戦に余力を持たせるために、今日はできれば30階以上進みたい」

「ディア様の精霊術は強力ですし、このメンバーならおそらく大丈夫です。エルドワ、先導を頼みますよ」

「アン!」




 そこからは、怒濤の快進撃だった。

 途中の部屋にぎゅうぎゅうと敵が詰まったモンスタールームなんかもあったけれど、魔導師が3人いるととにかく殲滅が早い。打撃の効く単体の敵はレオとネイが引き受けて、吸血鬼はヴァルドの出番。

 知らないうちに参戦しているエルドワも、特上魔石を数個手に入れていた。


 いくつかの宝箱を開け、中ボスらしき敵を倒す。

 レオたちはその勢いで、ヴァルドが帰る前に地下118階まで進んだ。予想以上の進み具合だ。

 まだ時間はあるが、中ボスのいたフロアは他の敵が出ないから、大事を取って今日はここまでにする。明日は最後、残りの10階だ。


 ヴァンパイア・ロードを倒すため、魔力、体力を満タンにしておかなくては。


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